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ドラッカーが最も認めた日本人経営者ーー 渋沢栄一のスゴさ

BEST TIMES 8/23(火) 6:00配信

今の青年の中にも偉い者もあれば、昔の青年にも偉くない者もあった。──渋沢栄一

 渋沢栄一氏の言説は、広く天下国家を論じ、俯瞰的な視点で社会や経済の要諦を指摘するものも多いので、読み方によってはどこか身の丈感に欠けるというか、話が大きすぎて掴みどころがないように感じるかもしれません。
 前回までに記したように、渋沢氏が手がけてきて膨大な事業が、日本の近代化をどれだけ推し進め、人々の暮らしを豊かにし、知識を授けてくれたことか。そのスケールの大きさを思うと、尊敬を通り越して、畏怖の念すら抱いてしまいます。また、『論語』に代表される儒教的な教えを土台にした渋沢氏の価値観は、折目正しすぎて、場合によっては窮屈に感じてしまうこともあるでしょう。
 しかし、渋沢氏の語ることをつぶさに見ていくと、実は極めてシンプルな思考から成り立っていることに気づくはずです。
「他人を思いやる気持ちが大事」「私利私欲に走らず、自分のやるべきことを責任もってやり遂げよう」「感謝の気持ちや礼儀を忘れないように」「勉強を怠らず、知識を蓄えよう」「友達や家族、仕事仲間を大切にして、誠実に生きよう」──いわゆる、儒教の五常「仁・義・礼・智・信」として語られるような、人として忘れてはならない勘どころを忠実に押さえながら生きていこう、と語りかけているにすぎません。渋沢氏流にいうなら「お天道様に恥ずかしくない生き方」といったところでしょうか。たとえ誰も見ていなくても、誰も気づいてくれなくても、お天道様はちゃんと自分のことをちゃんと見ている。だから、お天道様を失望させないように生きよう、という具合です。

 それに加えて、単に折目正しいだけではなく、人間の本性を射貫くような辛辣さも兼ね備えているのが、渋沢氏の魅力でもあります。道徳的なことをしかつめらしく語っているだけではないのです。
 渋沢栄一氏の玄孫である渋澤健氏がまとめた『渋沢栄一 100の訓言』という本のなかに、次のような一節が登場します。

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今の青年の中にも偉い者もあれば、
昔の青年にも偉くない者もあった。
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 これは渋沢栄一氏の著書『論語と算盤』にある一節なのですが、健氏は「現代にも、見どころのある青年はいる。逆に昔だって、どうしようもない青年はいた」という現代語訳を添えています。
 いつの時代も「最近の若いヤツはダメだ」と年長者が若者に呆れ、苦言を呈してきました。でも、決してそんなことはない、というわけです。どんな時代にも、ちゃんとした人間もいれば、そうでない人間もいただろう、と。転じて、もっと公平かつ客観的に物事を、そして人物を見ていかなければならない……そんな戒めとしても受け取れます。さらに言うなら「『イマドキの若いもんは……』とケチばかりつけている年長者は、ちょっとアタマが固くなってないかね?」という皮肉すら言外に感じてしまいます。
 客観的に物事を見極めよ、という文脈でいうなら、次の指摘も見逃せません。

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世に成功熱に浮かされ、野猪的に進む者が多いが、
その多く失敗に終るは、身のほどを知らないからである。
(『渋沢栄一訓言集』より)
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 まるで熱病のように「成功したい!」と猪突猛進する人は多いが、その多くは失敗してしまう。なぜなら、彼らは自分の能力を冷静に見極めていないからだ……といったところでしょうか。
 これは決して「だから夢なんて持たず、地味に暮らしていけ」と言っているわけではありません。いまの自分の力を正しく認識して、おごり高ぶることなく、まずは自分にできることを忠実に遂行しながら、一歩一歩進んでいくことが大切。そう読み解くのが適当でしょう。

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最終更新:8/23(火) 16:48

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