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トランプ候補の支持率低下も、ブラック・スワンに注意 --- 安田 佐和子

アゴラ 8/23(火) 16:30配信

バロンズ誌、今週のカバーは民主党のクリントン候補と共和党のトランプ候補の貿易政策を掲げる。共に環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に反対を表明、米大統領選にありがちな貿易バッシング寄りに傾く状況だが、これは自由貿易に反する考えは米経済に悪影響を与えうる。例えばトランプ候補は中国向けの関税を45%へ引き上げる意志を表明しているが、スマートフォンが比較的低価格で購入できるのは安価な輸入品のおかげである。こうした安価な輸入品のおかげで米国の雇用が増加している事情(例えば携帯販売員)もあり、両者は間違った認識を改めるべきだろう。詳細は、本誌(http://www.barrons.com/this_week?cb=logged0.652931269057067)をご覧下さい。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ウォールストリートは、11月8日の米大統領選並びに米議会選挙を取り上げる。詳細は、以下の通り。

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トランプ候補は前週、自身の死亡したイラク兵でイスラム教徒の両親に対する発言などをめぐり後悔を口にしたが、選挙対策陣営の再編をみると名曲”マイ・ウェイ”そのものだ。

選対本部の会長で親ロシアのウクライナ元大統領から1270万ドルを受領した問題が取り沙汰されたポール・マナフォート氏の辞任もあって、トランプ陣営の混乱劇がヘッドラインを賑わしていたが、クリントン陣営も安穏としていられない。ホライゾン・インベストメントのグレッグ・バリエール氏は、クリントン財団にまつわる(海外からの資金供与といった)疑惑に注目する。ピュー・リサーチの世論調査(http://www.people-press.org/2016/08/18/1-voters-general-election-preferences/)では、クリントン候補の支持率は41%とトランプ候補の37%をわずか4ポイント上回る程度で、同氏は選挙戦が「僅差となっている」と警告を発した。ただし、同氏いわく世論調査が正確性を持つのは8月後半以降で、7月前半や8月前半の2倍以上に及ぶという。

シティグループの試算ではクリントン候補が勝利する確率は65%、トランプ候補は35%となる。また、リバタリアン党でニューメキシコ州の元知事のゲイリー・ジョンソン候補の第3候補を含めた場合はジョンソン候補が8.3%に対しクリントン候補が43.1%、トランプ候補が37.1%だった。

データ分析で定評のあるファイブサーティエイト(http://fivethirtyeight.com/features/clinton-and-trump-are-losing-a-lot-of-young-voters/)は、ピュー・リサーチの結果の陰でジョンソン候補の支持率が10%、緑の党のジル・スタイン候補が4%だったと指摘する。さらに興味深いことに18~29歳の若手層の支持率はクリントン候補が38%、トランプ候補が27%で、ジョンソン候補は19%、スタイン候補は9%だった。ファイブサーティエイトが弾き出した30歳以下の世論調査平均値ではクリントン候補が41%、トランプ候補が20%、ジョンソン候補が17%、スタイン候補が10%となり、トランプ候補とジョンソン候補の差はわずか3%に縮小する。シティグループが指摘するように、仮にジョンソン候補が15%以上を勝ち取れば、9月26日に予定する討論会への参加が可能だ。

ゴールドマン・サックスの分析では、民主党が米上院での多数派を獲得する可能性が高まっている。現状で民主党が46議席、共和党が54議席を占めるなか、民主党は5つのレースで優勢で共和党は6レースに過ぎない。副大統領が上院議長を兼務するため、民主党が勝利するにはクリントン政権誕生で4議席、トランプ政権誕生で5議席が必要。従って、現状では民主党が辛くも多数派を奪回する公算だ。

下院では共和党が過半数を握る見通しであり、引き続きねじれが続き財政拡大路線の障害となりかねない。バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチのイーサン・ハリス氏やリサ・ベルリン氏の分析では2015年の公的支出は国内総生産(GDP)の3.4%と、第2次世界大戦後以来で最低だった。ねじれ国会が財政支出を抑えれば、GDPにも影響を及ぼしうる。

7月26~27日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録(http://mybigappleny.com/2016/08/19/fomc-minutes-16july/)では、9月利上げをめぐり意見の不一致がみられた。NY連銀のダドリー総裁が9月利上げの示唆を与えたにも関わらず、FF先物市場は年末までに1回の利上げ、並びに2017年も1度しか織り込んでいない。

26日にイエレンFRB議長による「Fedの金融政策ツール(Federal Reserve’s Monetary Policy Tool Kit)」と題した講演を控えるとはいえ、利上げ織り込み度は非常に低い水準ながら今後の政治的な不透明性を踏まえると高いと判断できるだろう。シティの北米経済担当ヘッドのウィリアム・リー氏は「米大統領選にか変わる不透明性が影響を及ぼす」と予想。同氏は、米大統領選に関わる不透明性が成長を1.25%ポイント押し下げると見込む。

トランプ候補が仮に勝利を収めれば、情勢は大きく変化するだろう。リー氏は「貿易での成長押し下げが景気後退入りの時期を一段と早める」といい、利上げ見送りが濃厚となる。

ただし不透明性が後退すれば、年内の利上げが信憑性を帯びてくる。アトランタ連銀の7~9月期国内総生産(GDP)試算値が3.6%増、NY連銀が3%増だ。イエレンFRB議長の講演では金融政策をめぐる新たなモデルについて協議される公算だが、成長を支える上でインフラ投資を中心とした財政手段にも及ぶことになるだろう。

―バロンズ誌は、引き続き米大統領選に慎重な予想を呈しています。世論調査がBREXITを予想できなかった事情もあり、米大統領選でのブラック・スワンに留意しているのでしょう。米大統領選の結果は蓋を開けてみなければ分かりませんが、Fedがブラック・スワンに対応するかどうかは正確に占っていきたいもの。まさにBREXITを踏まえれば、中長期的な成長押し下げリスクとして挙げており、7月FOMC声明文だけでなく議事録でも慎重な姿勢を貫いていました。米雇用統計・非農業部門就労者数は6~7月ともに20万台以上という華々しい数字を叩き出したとはいえ、米大統領選で必ずしもトランプ候補が敗北すると言い切れないだけにFedは9月も利上げを見送るのではないでしょうか。インフレ率が低水準にあり、雇用統計に質的な改善(http://mybigappleny.com/2016/08/19/nfp-low-wage/)が見られなければ、尚更ではないでしょうか。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE - NEW YORK -」2016年8月21日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE - NEW YORK -(http://mybigappleny.com/)をご覧ください。

安田 佐和子

最終更新:8/23(火) 16:30

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