ここから本文です

『青空エール』が覆す、少女漫画原作の定石ーー部活への情熱だけで描く青春はアリ?

リアルサウンド 8/23(火) 11:32配信

 学生の本分は勉強とは、よく耳にする言葉である。それでもお構い無しに、『高校デビュー』の主人公・長嶋晴菜のように学生生活を恋愛で費やそうと積極的に行動するのが、少女漫画と、それを原作にした映画では鉄板の展開なのだ。ところが、そんな『高校デビュー』と同じ河原和音が原作の『青空エール』は、何の違和感もなしにその鉄則を打ち崩す。

 主人公のつばさと大介、この二人が両想いであると誰が見てもわかるのだけれど、それ以上の進展は何もない。ただひたすら、大介は甲子園を目指し、つばさは普門館(2012年から吹奏楽の全国大会会場が普門館でなくなっているのを初心者だから知らないという設定なのだろうか)を目指して部活に没頭する。恋愛要素が、部活を頑張ることの糧になっているわけでもなく、それぞれのやり方で、同じ舞台を目指そうとしているだけなのだ。何とも純粋すぎる目標設定だ。

 しかも恋愛要素どころか、勉強さえもこの映画では描かれない。高校入学から高3の夏まで満遍なく追いかけるのに、授業のシーンはひとつもない。まして定期試験も、進路希望調査もない。もちろん誰一人として、高校卒業後のことも、将来の夢さえも語らずに、人生で3回しか訪れない夏に賭ける姿が描かれ続けるのである。これこそまさに青春映画と呼ぶに相応しいスタイルなのかもしれない。

 そもそも「青春映画」というジャンルはかなり漠然としていて、それは「青春」という言葉自体があまりにもぼんやりしているからだろうか。辞書でこの言葉を引いてみれば、「希望を持ち、理想に憧れ、異性を求める時期」と書かれている。全国大会に行く希望を持ち、人を励まし続ける理想に憧れ、互いに男女として意識し続ける。まさに「青春」という言葉そのものだ。

 中でも、怪我で戦線離脱をした大介を激励する場面は爽やかな感動に包まれる。必死でリハビリを積みながらも、夏の大会に間に合わないと告げられ落ち込む彼に、病院の庭から大勢の吹奏楽部員が演奏するという、マーク・ハーマンが96年に製作したイギリス映画『ブラス!』での“ダニー・ボーイ”を彷彿とさせる名場面だ。今春の『ちはやふる下の句』でもかるた部の部室の前で吹奏楽部が演奏するシーンが少しだけ登場したが、音楽が人の心を動かすということを主題に据えたこの映画にはとくに相応しいだろう。

 主人公二人の爽やかすぎる好演はこちらの記事(参照:竹内涼真と土屋太鳳、“ありえないキャラ”を普通に見せる『青空エール』の演技)で書かれていたが、脇を固める若手役者陣も素晴らしい。特に腱鞘炎に苦しむ吹奏楽部の先輩を演じる志田未来。現在23歳になった彼女は、これが最後の制服姿になるだろうと語っていたが、そんなことはない。まだまだいける。天才子役として謳われてから10年経った今でも、同世代の役者たちの中で抜きん出た才能を遺憾なく発揮し、青春の葛藤を見事に演じきる。

 そして出番は少ないが大介とバッテリーを組む城戸を演じる堀井新太。実際に野球をやっていた経験を持つ彼は、大介役の竹内涼真に匹敵する爽やかスポーツマンの雰囲気が漂う。序盤のすこし剽軽なキャラクターから、大介にノートを投げつける終盤の場面のギャップは、いかにも青臭くて好感が持てる。また野球部といえば、女子マネージャー・あかねを演じた平祐奈も、今後出演作が相次ぐ注目株だ。

 主人公つばさの前に立ちはだかるあかねは、一見『アオハライド』の高畑充希のように、「大介のことを誰よりも知っているのは私だから近付くな」といわんばかりの強力なライバルオーラを放つ。ところが彼女もまた、恋愛よりも自分に与えられたマネージャー職に徹するのだ。もうどこまで定説を覆すのだろうかとハラハラしてしまうほどだ。それでも怪我で練習を休んでいる大介とグラウンドの傍で話す場面、遠くから聞こえるトランペットの音に大介が反応することに気が付いた彼女の、淡い恋心が終わる瞬間を、安易な言葉を用いずに表現した点はグッとくる。

 今年は前述した『ちはやふる』2部作といい、春に総集編が劇場公開され秋から2期の放映がスタートする『響け!ユーフォニアム』といい、いわゆる“文化系スポ根青春映画”の当たり年だろう。今後この手のテイストの作品が増えていけば、ますますティーン向け映画の傑作も増えていくことだろう。青臭い雰囲気に恥ずかしがっている場合ではない。

久保田和馬

最終更新:8/23(火) 11:32

リアルサウンド