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「私のハダカ、見て見て!」の古代ギリシャのヴィーナス

BEST TIMES 8/24(水) 12:00配信

古代ギリシャ神話文化の研究家で作家の藤村シシンさんに、現在、東京•上野の東京国立博物館で開催中の特別展「古代ギリシャ ―時空を超えた旅―」について話を聞いた。ギリシャ国内40カ所以上の博物館群から集められた名品325件の中で、シシンさんが特にお気に入りの作品について、その面白さとシシン流 鑑賞のツボについて解説してもらった。

<その1>重くて長い古代貨幣「串形オボロス貨」

<シシンのツボ>

鉄製の長さ1m強の串で、貨幣が成立する前の時代に、商取引で貨幣代わりに使われました。6本1組で1ドラクマ(ギリシャの旧通貨単位)。おおよそ1000円から2000円程度に当たり、当時、1家族の1食分をまかなえたようです。しかし、鉄製なので重い! 60万円だと150kgにもなります。スパルタ人は小さい貨幣が登場しても鉄の棒の貨幣を使い続けていました。貨幣が軽いと持ち運びが便利な分、つい使っちゃいますから、スパルタ人はあえて重い鉄製を使い続けようとしたんですよ、きっと(笑)。さすがスパルタ人! 人の手では櫛形オボロスは6本までしか掴めなかったので、1ドラクマが6オボロスになったとのこと。自分の手で掴んで、買い物する情景を想像しながら観るのも楽しいです。

 

<その2>「アッティカ赤像式ペリケ アフロディテの誕生」

<シシンのツボ>

「ヴィーナスの誕生」といえば、ルネッサンス期にボッティチェリが描いた作

品が有名です。この名画と古代ギリシャ時代の壷絵のヴィーナスの誕生を、ぜひ比べて観て欲しいですね。パカッと開いた帆立貝の中に立つ、美の神•ヴィーナス。片側に描かれたエロスを含め、構図があまりに似ていることに驚かされます。違いはヴィーナスの様子。ボッティチェリのヴィーナスが恥じらいのような初々しい仕草をとっているのに対して、壷絵では「ねえ、見て見て、私のハダカ。魅力的でしょ」と言わんばかりの、実に堂々たるポーズ。神話のエピソードから考えると、壷絵の方が本来のヴィーナスの性格のようです。

 

<その3>がっちり着込んだ処女の守護神「アルテミス像」

<シシンのツボ>

 

全知全能の神ゼウスと、天界の女王ヘラとの間に生まれた月の女神•アルテミス。

ギリシャ神話では、かつて、処女や子どもの守護神でもあり、また双子の弟アポロンと同じく死神でもありました。この像を見てわかる通り、その表情はどこまでも硬く真面目。先のヴィーナスとはまるで違い、がっちり着込んだ服装は、彼女の性格をそのまま反映しています。

 

 

 

<その4>「奉納浮彫り アポロン、アルテミス、レト」

<シシンのツボ>

アポロンは、私が神話に登場する多くの神様の中で最も好きな神様。ただた

だ、そのカッコ良さに魅了されてしまいます。最も古代ギリシャらしい神といわれ、芸術や医学、哲学、光明などを司る神です。人生の中で、一番輝いている青春時代のイメージがあります。アポロンはその輝くような外観に反して、その行動はとても泥臭いところがあるんです。恋愛では平気で人を傷つけるような残酷さもあります。私は高校生の頃、ギリシャ神話の世界にどんどんハマッていったんですが、青春時代もアポロンもどこか汗臭いところが似ていて、そこがまた、夢中になる理由なのです。

さて、前置きが長くなりましたが、上の写真のレリーフ中央がアポロン。その(向かって)右側に立ってアポロンの肩に手を掛けているのが母レト、(向かって)左側で右手に弓を持っているのが双子の姉アルテミスです。この神域に奉納されたレリーフは一般的には、大理石に彫刻された技術の高さや表現法の確かさが注目されるのですが、私にはそれよりも、「ある家族の肖像」として記憶されています。この家族の人間模様を、あれこれ想像したくなってくるような、リアルな生活感すら感じてしまいます。

<その5> 永遠の美男子ナンバー1「アレクサンドロス頭部」

<シシンのツボ>

右の彫像は、古代マケドニアの英雄で、東方遠征で大帝国を築いた有名な大

王。数多くの美男子の彫像が古代ギリシャにはありますが、「一番の美形は誰の彫像?」と聞かれたら、私はこのアレクサンドロス大王を挙げます。古代ギリシャだけでなく、現代の美男子を含めてもNo.1かも。ある種の普遍の美が備わっていませんか? 美の基準がかなり多様化して、人によって美男子の定義も変わってきていますが、いつの時代においても、誰が見ても美男子である、という気がします。

因みに、青銅色の「君主頭部」(紀元前3世紀、ドデカネス諸島、カリュムノス島沖で発見。カリュムノス考古学博物館)もなかなかの美男子です。つばの広いマッシュルーム形の帽子をかぶった壮年のマケドニア人の頭部像で、初めて見た時は気づかなかったんですけど、よくよく顔を見ていると、「この人の顔、実は整ってる、美形!」と気づきました。

まあ、こんな風に美男子を探す、という見方でも良いんじゃないかなと思います。

 

<その6>「アポロン•エリタセオス神域に関する法令碑文」

 

私、とにかく古代文字の出土品が好きなんです。古代ギリシャのことをひたすら知りたくて、今ではある程度、古代ギリシャ語が読めるようになりました。古代ギリシャ文字は現在の日本語に似ているんです。日本語が漢字とひらがなで構成されているのに対して、古代ギリシャ語は象形文字と表音文字から。類似性ゆえか、理解しやすく、とても親しみを感じます。

この碑文には、神官が彼自身と区民、アテネ市民を代表して布告した内容についてです。色々な禁止事項が書かれていますが、神域から木や枝、低い灌木の伐採や持ち去ることを禁じています。「薪や落ち葉を持ち去るのもダメ」とわざわざ書かれていて、「伐採や持ち去りは禁止でも、落ち葉ならいいよね」と拾う人がやっぱりいたんだ、と思いました。古代の碑文というと、何か重大なことが書かれていたと思いがちですが、意外と日常的なことが記されています。古代ギリシャ人も今の私たちと同じく、人間らしさを感じて思わず笑みがこぼれてきます。

古代ギリシャの碑紋はいろいろな遺跡から出土しています。線文字Bは、英国の建築家ベントリスと言語学者チャドウイックが、ギリシャ文字であることを解読。しかし、線文字Bの前に使われていたであろう線文字Aはまだ解読されていません。だから、線文字Aの碑文を私は当然、読めません。そうわかっていてもジーッと見詰めていると、何だか読めそうな気がしてきませんか? 

碑文って、読めても面白いし、読めなくてもドキドキ、ワクワクします。すっかり文字が放つ魅力に夢中です。

<藤村シシン> 作家•古代ギリシャ神話研究家。1984年生まれ。東京女子大学大学院博士前期課程修了、史 学 専攻。高校生の時に見たアニメ『聖闘士星矢』の影響でギリシャ神話にはまって以来、古代ギリシャに人生を捧げている。ギリシャ語に精通。また、「藤村一味」を結成し、文章、イラスト、漫画、研究、祭儀再現などあらゆる角度から古代ギリシャを本気で遊びながら追っている。

特別展『古代ギリシャ ―時空を超えた旅―』日時/9月19日(月•祝)まで 休)月曜日※9月19日は開館。​時間/9:30~17:00※土日•祝日は午後6時まで。※金曜日及び8月の水曜日は午後8時まで。※入館は閉館の30分前まで。場所/東京国立博物館 平成館(東京都台東区上野公園13-9)観覧料/一般1600円、大学生1200円、高校生900円(いずれも当日券)※「長崎展」が10月14日(金)~12月11日(日) 「神戸展」が12月23日(金•祝)~2017年4月2日(日)

 

文/取材•文/一個人編集部

最終更新:8/24(水) 12:00

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