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EUは欧州合衆国を目指すな

Wedge 8/24(水) 12:10配信

 米プリンストン大学のアン=マリー・スローター教授が、7月18日付フィナンシャル・タイムズ紙に「共同体の柔軟な形が、ヨーロッパが前進する明るい道を提示する」との論説を寄せ、英のEU離脱を契機としてEUは連邦を目指すのではなく、より柔軟な連合体を目指すべし、と論じています。論旨、次の通り。

アメリカを失敗と見るな

 モゲリーニEU外交・安保政策上級代表は6月中旬EUの世界戦略、「共通ビジョン」を発表する予定であったが、英での離脱投票終了まで待った。この戦略の重要な点は「協力的地域秩序」論である。分権化した世界において地域諸国家・国民が自発的に一緒になれば、世界に影響を与えられるとの論である。
地域組織として、EUは成功してきた。貿易交渉で一つの主体として交渉、単一市場の利便を確保、イラン核問題、イスラム国対応のような問題でも外交的役割を果たした。

 しかし、EUは連邦国家としては失敗である。EUの創設者は「欧州合衆国」を目標とし、1957年のローマ条約の前文には、「より緊密なユニオン」建設が謳われている。2月にキャメロンがEUとの交渉で勝ち取ったポイントの一つは英国をこの誓約から免除することであった。この譲歩は欧州のみならず、他の地域における協力にとって適切である。

 EUは欧州石炭鉄鋼共同体(1951年)で始まり、その後、1957年、欧州経済共同体と欧州原子力共同体が作られた。1950年代、欧州防衛共同体と欧州政治共同体を作る試みは失敗した。しかし欧州は何十年も諸共同体の共同体として構想され、存在してきた。

 地域組織はユニオンであると同時に、諸国家の共同体でもありうる。EUはすでにグループに分かれており、「異なったスピード」のヨーロッパと言われている。スピードは異なっても共通の目的地があるとされる。しかし、統一と多様性の双方を目的地とするユニオンを構想することもできる。共通通貨の共同体、共通国境の共同体などである。これらの自発的取り決めは多様性を保存しながら統合のメリットをも得ることを可能にする。

 EU現メンバーにとって基本的な問題は、これら多様な共同体のすべてのメンバーが同時に単一市場や単一外交・防衛共同体のメンバーでなければならないのかということである。すべての加盟国は核心的義務を負うことが必要なのか。

 米国の創設メンバーにとり問題は大規模な国で民主主義を達成するにはどうすべきか、13州の統合の利益を得つつ政府が暴政に陥らないためにどうするか、であった。答えは70年後、内戦を経たうえで連邦国家とされた。EUは今、同じような問題に直面している。統合の利益を確保しつつ、政治的柔軟性と個別の国の言語的、文化的アイデンティティを維持するにはどうすればいいのか。

 200もの国家がある中、地域秩序は不可欠である。EUは英国の離脱を契機により一層の統合よりも、効果的な統合への道を見出そうとすべきである。EUは「失敗した米合衆国」と自らを見るのではなく、新しい政治形態の、統一と柔軟性を提供する地域的諸組織作りにおいて世界的な指導者であるべきである。

出典:Anne-Marie Slaughter,‘Flexible forms of union offer a bright way forward for Europe’(Financial Times, July 18, 2016)

 この論説は、EUは欧州合衆国を目指すよりも、より柔軟性のある連合になるべし、そして他の地域での統合の動きに模範を示すべし、と論じたものです。今後のEUのあり方についての一つの考え方でしょう。このようなEUのあり方に関する論は、これからも多く出てくるものと思われます。

 この論説は、英国の離脱があまり大きな問題にならないように、EUの方でも柔軟対応をと言うような主張のようにも聞こえます。メルケル首相は「いいとこどり」を英国にはさせないと言っており、離脱交渉はEUの団結維持の観点からもそう簡単には進まないでしょう。特にこの論説は、共通の国境の共同体も参加の可否をメンバー国が自発的に判断しうるようにと主張していますが、離脱交渉での大きな論点、英国はEU市民の移動、居住の自由を認めないで、単一市場へのアクセスが認められるのかについては、問題は残るでしょう。

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最終更新:8/24(水) 12:10

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