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ハコより先にコンテンツを考える、「建築は、コン築へ」

Forbes JAPAN 8/24(水) 8:30配信

東京オリンピックの新国立競技場はなぜもめたのか? その答えがここにある。最近の建築界の潮流にもなっているのが、外見のハコより先に中身のコンテンツから発想していくというもの。つまり、どんなことをしたいのかが問われているのだ。



はじめまして。「コン築」研究家の奥野です。建築でなく、コン築です。私、普段はクリエーティブ・ディレクターとして広告に携わっていますが、学生時代に建築を学んでいたこともあって最近では建築分野に関わることも増えました。そこで気付いたのですが、どうも建築が変わってきている、と。そしてこれは建築だけの話ではなく、世界を変える可能性を秘めているのではないか、と。

これまでの建築は、機能に合わせてハコをつくる歴史でした。お祈りをするための教会、オペラを楽しむための劇場、アートを展示するための美術館、といった具合です。しかし、2016年に、建築界のノーベル賞と言われる「プリツカー賞」を受賞したチリの建築家、アレハンドロ・アルベナ氏は違った。「ハコ」でなく「コト」をつくったのです。

彼を有名にしたプロジェクトは、チリの貧困地区につくった公団アパート。そこに用意された公的資金はまったく不十分なものでした。その資金でハコを一生懸命デザインしても住居が小さすぎて、すぐに住環境が悪化してしまうことは明らかでした。彼は、この問題をどうやって解決したのでしょうか。

その答えはシンプルでした。「住宅の半分をつくる」というものです。彼は住宅の半分に資金を集中させ、キッチンや風呂など住宅のコアとなる性能を飛躍的に向上させました。まさに選択と集中というわけです。

でも、残りの半分はどうしたのでしょう?

ここが彼の発明でした。なんと残りの半分は住人に「セルフビルド」させたのです。家族構成の変化や、懐具合に合わせて、住人に建築してもらうプログラムをつくった。つまり彼は「ハコ」ではなく「コト」をデザインすることで課題解決をしたのです。

「でも素人がセルフビルドしたら、グチャグチャになるんじゃないの?」という疑問も出てきますよね。でも、安心してください。むしろ、そこに住む人の個性や多様性が、楽しさや活気を生みだしたのです。家の中から、「次はどんな増築をしようか!」「お姉ちゃんも大きくなったから、部屋をつくろうね!」なんて会話が聞こえてきそうですよね。

アルベナ氏は言います。

「正しい問いを設定することが最も大切だ」と。なぜなら、いくら正しい答えを見つけても、出発点の「問い」が間違っていれば絶対に正解にたどり着かないから、だそうです。
--{コンテンツ発想の「コン築」}--
この事例を知り、そこで起きる「コト」や中身から発想する建築、いわばコンテンツ発想の建築を「コン築」と名付けてみるのはどうだろうと思いました。あえてハコ発想の「建築」と一線を引いてみることで、イノベーションが起こるきっかけになるんじゃないか、と。そんなわけで「コン築」研究をしてみようかと思いました。

ニューヨークの人気スポットになっている「HIGHLINE」も「コン築」の好例です。ご存じの方も多いと思いますが、これは貨物列車の廃線を再利用した南北1.6Kmに延びる空中公園。世界中から注目されたこの設計コンペには、なんと720案ものアイデアが集まりました。そんな膨大な案の中、どうやって1番を勝ち取ったのでしょうか?

建築デザインが素晴らしかったから? もちろんそれもあったでしょう。しかし、審査員の心をつかんだのは、ハコ発想ではなくコト発想のアイデアでした。そのコンセプトはプレゼンテーションの冒頭に集約されていたそうです。

「ニューヨーカーたちは、みんな忙しそうに歩き、狭い歩道を縦に並んで歩いている。ニューヨークに必要な公園は、カップルが横に肩を並べてゆっくり歩ける場所だ」

どんなハコにするか? どんなカタチにするか? というハコ発想ではなく、どんなコトが起きれば素敵なのか、社会にとって意味があるのか。そんな中身から発想したアイデアでつくられた公園なのです。

さて、このような中身発想の「コン築」が世の中に増えていくとどうなるでしょうか。

例えば、コン築的な「学校」。みんなで教室をつくりながら、その教室で学べる学校。個性的な教室になり、学年が替わるたび変化していく。愛着も湧くでしょうから生徒たちも丁寧に教室を使ってくれそうで、まさに一石二鳥です。

例えば、コン築的「ショッピングモール」。モノをたくさん陳列する商空間ではなく「コト」をズラリと並べる。これならモノを買わないと言われる若い世代も興味を持ってくれそうです。いろいろな体験をSNSで自動的に発信してくれるでしょう。結果的にそれがモノの広告になっていきそうです。

さらに、コン築的「経営」はどうでしょう。組織という「ハコ」からつくるのでなく「コト」、つまりプロジェクトや人材づくりから始める。組織や企業自体がプロジェクトとなって成長していくイメージです。ちょっと飛躍しすぎでしょうか。

建築からコン築へ。ハコ発想からコト発想へ。ちょっとした違いのようですが、結果はずいぶん違ってくるようです。どこかの国の競技場の設計もコト発想で考えていたら、もっと面白かったかもしれません。少なくとも、聖火台を忘れたりしないでしょうから。

電通総研Bチーム◎電通総研内でひっそりと活動を続けていたクリエイティブシンクタンク。「好奇心ファースト」を合言葉に、社内外の特任リサーチャー25人がそれぞれの得意分野を1人1ジャンル常にリサーチ。各種プロジェクトを支援している。平均年齢32.8歳。

奥野圭亮◎電通総研Bチーム所属。電通1CRPクリエーティブ・ディレクター。これまでCMプランナーとして数多くのTVCMやキャンペーンを手がける。最近では広告と建築の知識を活かし、駅前開発やショッピングモール、都市計画などの分野でも活動中。

電通総研 Bチーム

最終更新:8/24(水) 8:30

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