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話題を呼んだ傑作『ぼぎわんが、来る』の著者・澤村伊智、待望の第二作!

Book Bang 8/25(木) 17:04配信

 昨年の第二十二回日本ホラー小説大賞受賞作である澤村伊智『ぼぎわんが、来る』は、最近のホラー小説の中では突出した話題を呼んだ傑作だった。タイトルの「ぼぎわん」という、正体不明かつ不気味極まりない語感も読者の好奇心をそそった要因のひとつだと思うが、待望の第二作の『ずうのめ人形』というタイトルも、得体の知れない語感では前作に劣らない。

 オカルト雑誌「月刊ブルシット」編集部でアルバイトをしている藤間は、連絡がつかないライターの湯水清志の自宅兼事務所を学生バイトの岩田とともに訪れ、そこで湯水の死体を発見する。彼の顔は傷だらけで、眼球は両方とも抉り出されていた。現場にあった手書きの原稿を密かに持ち出して読んだ岩田は、その内容が都市伝説に関連するものであることと、湯水が死んだのはその原稿のせいであることを藤間に告げる。やがて岩田の身に、そして原稿を読んだ藤間の周辺でも異様な現象が起こりはじめる……。

 本書には、『ぼぎわんが、来る』に登場したオカルトライターの野崎昆と霊媒師の比嘉真琴が再登場しているけれども、前作を未読でも差し支えない。前作が、章が変わるごとに視点人物もリレー式に移り変わる構成だったのに対し、本書は藤間を視点人物とするパートと、湯水変死の現場で発見された原稿の内容とがパラレルに進行してゆく。

 原稿の内容は鈴木光司の『リング』が映画化された一九九○年代後半を背景にしており(日本ホラー小説大賞から有力な作家が次々と登場し、また映画『女優霊』以降の映像ホラーがJホラー・ブームを起こしたのもこの時期だ)、来生里穂という中学生の日常が実話風に綴られている。彼女は母親や二人の弟妹とともに問題のある父親のもとから逃亡し、隠れるようにして暮らしている。ホラー好きの里穂は学校でも孤立状態だが、そんな彼女にも、図書館に用意された交流ノートを通じて、ゆかりという同好の友人ができた……といった話が記されていて、最初のうちは都市伝説がどのように絡んでくるのかさっぱり見えてこないのだが、やがて内容が怪奇な色合いを帯びてくるのと並行して、それを読む藤間の身にも異変が起きはじめる。そして、原稿に記された内容と実際に起きた出来事との符合が判明し、更に藤間の周囲にいる人々との因縁めいたつながりが浮上してくる過程が実にスリリングだ。

『リング』の貞子の呪いをはじめ、ホラーに出てくる無差別的な呪いにはそれを解く方法がある。本書の作中人物も、そういった前例を参考にしながら呪いを免れようとするのだが、そう簡単に解けては怖くも何ともない。作中人物たちは次々と呪いに感染し、藤間の身にも刻々と死の運命が迫ってくるのだが、さてどうすれば逃れられるのか、読者も考えながら読んでほしい。また、最後に明かされる人間関係のリンクは意外そのものであり、ホラーであると同時にミステリとしても非凡な出来映えを示している。

 興味深いのは、原稿で描かれる里穂の孤独な日常(ホラー好きであることから学校ではサダコと呼ばれ、教師からは逃避と決めつけられ、同じホラー好きの筈だった母親の交際相手からは、昔のホラーと違って『リング』など幼稚だと罵倒される)が、大なり小なり似たような経験があるだろうホラー好きな読者の共感を集めつつ、それ自体が巧妙なミスディレクションになっている点だ。のみならず、野崎が藤間に語る都市伝説論では、『リング』のみならず小野不由美の『残穢』など、実際に話題を呼んだそのテーマの実例が言及されている。そんなメタ・ホラー的な趣向が前面に出ている点が本書の最大の特色ではないだろうか。『残穢─住んではいけない部屋─』や『貞子vs伽椰子』といった映画が公開されている二○一六年に相応しい、都市伝説ホラーの大本命だ。

[レビュアー] 千街晶之(文芸評論家・ミステリ評論家)
※「本の旅人」2016年8月号 掲載

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最終更新:8/25(木) 17:04

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