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「その日暮らし」が将来への不安を軽くする?! タンザニア人から学ぶ“Living for Today”という生き方

ダ・ヴィンチニュース 8/25(木) 6:30配信

 この先、どうなるのかという不安、今なぜこんな境遇に…という悲しみと怒り。私たちは、小学生、いや幼児期から、将来の不安を少しでも減らすために、勉学に勤しみ、何らかの我慢をしてきた。それなのに、なぜ、大人になっても不安と憤りだらけなのだ! 『「その日暮らし」の人類学 もう一つの資本主義経済』(小川さやか/光文社)は、この境遇を改善してはくれないが、固くなった頭をほぐしてくれる一冊だ。

 タイトルにある「その日暮らし」であるが、一般的には、貯蓄をせずにその日の収入をその日にのうちに使ってしまう、貧しい暮らしというイメージがある。本書は、「それでいいんだよ」という慰めや、「未来のために今を犠牲にする精神をやめましょう」などという、安易な啓発本ではない。そもそも、「その日暮らし」の意味するところが違うのだ。著者の小川さやか氏のいう「その日暮らし」とは“Living for Today”――人は必ず死ぬものだし、いつ死ぬかなんてわからないのだから、その日その日を生きるという当たり前のことを忘れないで――といった意味。そうはいっても、頭で理解はできるが、やはりきれいごとではないのか?という思いがよぎるのは否めない。そこで、本書内で紹介されている、私たちの常識とは別の感覚で生きている人びとを知ることで、少しでも“Living for Today”の感覚を会得したい。

 タンザニア北西部の都市ムワンザに住む、39歳の男性ブクワは、妻と子どもと暮らす、ムワンザではごく一般的な日雇い労働者だ。ある日、労働の傍ら、従兄弟からもらったお金で運転免許を取得した。運転の仕事にあこがれていたからだ。しかし、その後、車を購入するためにお金を貯めることはなく、運転手になることもなかった。またあるときは、中古パソコンを手に入れ、ダウンロードサービスの事業への夢を周囲に語るのだが、使い方を学んだだけでPCは壊れてしまった。その後は、妻が服の仕立てで得た収入の一部を革サンダル装飾の仕事に投資したものの、事業半ばにもかかわらず、友人に誘われ単身赴任で建設現場の仕事に就いてしまう。のち、また彼は職を転々としていく。

 日本の感覚だと、ブクワはダメな奴だ。日本では、ひとつの職場に長く勤めることが良いこととされ、転職回数の多さは履歴書ではマイナスとなる。業種を何度も変えることも評価されない。しかし、タンザニアでは、ひとつの仕事や職種に収入源を一本化するのはリスキーなことと見なされるのだ。大多数の人びとが働く零細企業では、給料カットや未払いは日常茶飯事。経営自体も不安定。だから、人びとは今と同じ収入が1カ月後もあるとは期待しておらず、複数の収入源を持とうとする。

 だから、ブクワの生き方は、多くのタンザニア人の生き方であり、たくましく生きる普通の庶民の生き方だ。運転免許やパソコンを仕事に活かさないのも、活かすだけの資金とチャンスが“今は”ないからであって、責めるべきことではない。ブクワたちは、そのアイデアは、未来のどこかチャンスが来たときに活かされるかもしれないと思っている。未来のチャンスをものにするためには、今取れる免許は取っておく、今学べるものは学んでおく、という気持ちでいるのだ。

 ある路上商人はこんなことを言う。「子ども時代に豊かな生活を両親から与えられ、学校に通え、大人になって良い仕事を得た人がある日とつぜん仕事をクビになると、身動きがとれなくなってしまう。だが行商人は違う。商品をすべて盗まれても、翌日から歩き始める。そんな経験には慣れっこだからだ」。未来に期待をせず、その日をただ生き抜く姿勢は、うらやましいほどに強い。ただ、これは精神的に強いからという個々の問題ではないことを強調しておく。タンザニアは、人間関係のネットワークが強く広く、友人の友人から仕事を紹介してもらったり、金銭の融通が利いたりする社会だ。優劣の問題ではなく、ただこのような形態の社会なのだ。

「その日暮らし」“Living for Today”とは、自分の意のままにならないことを、何か大きなものに委ねる生き方ともいえるだろう。生と死を含めて人生は思い通りにならないのだから、ほどよく諦め、風(チャンス)が来たら乗ってみる。日本に生きるのも、タンザニアに生きるのも、それぞれに決して楽とはいえない。だが、ブクワたちの生き方は、今や未来への責任を、自分だけが負うことの傲慢さを教えてくれはしないだろうか。自分の力が及ぶことなどたかがしれているのだから、今いる境遇に憤り将来を不安に思うなど生意気なことなのだろう。私たちは、今できることをして、今日を生きるしかないのだから。

文=奥みんす

最終更新:8/25(木) 6:30

ダ・ヴィンチニュース

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