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村田沙耶香は変わってる!? 西加奈子も「あれ? この人……」

Book Bang 8/26(金) 10:51配信

血だらけで戦っている人

西 初めて沙耶香ちゃんと会ったのは、2010年の9月に北京で行われた「日中青年作家会議」に出席したときでした。日本側のメンバーは、茅野裕城子さん、山崎ナオコーラさん、中村文則さん、綿矢りささん、青山七恵さん、羽田圭介くん、そして沙耶香ちゃんと私。それまでも作品は読んでいたし、顔も知っていたので、クールな人だろうと想像していたんです。実際、空港で待ち合わせたときも、率先して「パスポート、集めます」と仕切ってくれたりして、なんと凜としたしっかりした人なんだろうと。でもしばらく一緒に過ごすうちに、「あれ? この人……」ってなってきて。
村田 それまで海外に行ったことがないわけではなかったけど、旅行自体に緊張していたし、もともとすごく人見知りな性格なんです。
西 海外旅行が怖すぎて、パスポートを腹巻きにいれてたんやっけ?
村田 盗難防止のために、服の下に巻くベルト状の貴重品入れを買ったんです。そのことを旅行の最初のほうで加奈子ちゃんに言ったら、帰りぎわになって「仲良くなったから言うけど、それ、おじいちゃんが使うやつやで」と。
西 初対面で、どこまでツッコミを入れていいかわからなかった。どこでキレるかもわからないから、北京にいる間じゅう沙耶香ちゃんを観察して、これは相当な人やなと確信したんです(笑)。
村田 ひどい(笑)。
西 「よう来たな」とかも言ったよね。
村田 言われました。海外旅行も不慣れだし、英語もぜんぜんできないし、すごく人見知りなのにって。
でもこの出会いが、本当によかった。楽しかったし、普段は話し合うことのない作家同士で仲よくなれて。
村田 本当にあのとき行ってよかったです。

西 しかも私は、作品を読んでいるだけではわからない村田沙耶香のすごさに気づくこともできたんです。まず沙耶香ちゃんは、戦っている人。その戦いかたも、みんなで連れだって石を投げるんじゃなくて、一人で最前線を張って石を投げている。もし死にそうになっても誰も助けられないような、味方のいない場所に乗り込むのも平気なんです。捨て身で、裸で、血だらけで戦っている人です。そういう人はえてして、私のようなずるい人間に「おまえなんで服着てやってるねん」と厳しい態度をとります。それは悪いことじゃない。でも沙耶香ちゃんはお会いしたら本当に優しくて、その優しさも、上から手を伸ばして下の人間を引っ張り上げようとするのではなくて、下にいる人間の地平まで降りてきて、それより下に潜ってでも一緒に上がろうとしてくれる感じです。私がいろいろと相談すると、いつも一緒に悩んでくれて、いつのまにか私より涙目になっていたりするもんね。こんなに優しくて、華奢な人が、あんなに攻めた小説を書いていることに感動します。
村田 ありがとう。こんなふうに、面と向かって言ってくれたことないよね。いつもけなされてばかりで。
西 そうやんな。
村田 今日もさっき、「沙耶香ちゃんのトークイベントやけど、あんたは喋らんといて」とか言われたんですよ。
西 そういう罵詈雑言も許してくれるところも、ほんと尊敬してるよ(笑)。なにをいちばん尊敬するかというと、作家というのは自分の書いたものに対してこんな人間と受け取られたらいややなとか、頭よく見られたいなとか、邪心を持つものです。ぜったいあかんことですけど、やっぱりプライドもあるから。でも、村田沙耶香の作品からは一切、本当に一切それを感じないこと。『しろいろの街の、その骨の体温の』(朝日文庫)の文庫解説にも書きましたが、すっごく乱暴なことを言うと、村田沙耶香は小説がへたやと思うんです。それは、どう見られるかを一切考えないのと同じように、どう書いたらたくさんの人に褒められるかといった算段をまったくしないから。読む人がどうこうと考える前に、自分のエゴからではなく、物語が要請してくる表現に忠実でいようとするあまり、小説がいびつになってしまうところがあると思う。
村田 それはそうだと思う。
西 その書き方が、普通やと思ってるよね? でもじつはみんながみんなそうじゃない。作品を読むと、この長さにしたらもっと評価されるのにとか、ここはこんなに攻めなくてもいいのにとつい思うけど、とにかく突っ走っている。それは物語が要求するスピードに完全に乗っかるからです。そこが、村田沙耶香の、いちばんの村田沙耶香性やと思う。
村田 たしかに、終わりは決めないで小説を書きだすことしかできないんです。

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最終更新:8/26(金) 10:51

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