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金正恩に衝撃 エリート一家の亡命

Japan In-depth 8/27(土) 23:00配信

8月24日午前5時半ごろ、北朝鮮は東部の咸鏡南道・新浦沖でまたもや潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)1発を発射した。最長の500キロを飛び、日本の防空識別圏内に80キロほど入った海上に落下したとみられる。

金正恩委員長は第7回朝鮮労働党大会以後も引き続き核・ミサイル開発と恐怖政治にしがみついているが、その強硬路線が体制内の亀裂を深めている。それは特権層に属する高官・外交官の亡命や中流エリート層に属する海外派遣員などの脱北として表面化している。

かつて脱北は政治的な理由による亡命、生きるための脱北が主流だったが、今では子どもの将来など未来を見据えた脱北という新しいスタイルが登場している。そこには金正恩体制には未来がないと判断する特権・エリート層(特に青年層)の意識変化が背景にある。

最近にも香港で開かれた国際数学オリンピックに参加し、銀メダルを獲得した18歳の男子生徒が7月16日に現地の韓国総領事館に逃げこみ亡命を申請した。

そうした折、韓国統一部は8月17日、在英国北朝鮮大使館のナンバー2、テ(太)・ヨンホ公使(党生活担当)が妻や子どもと共に亡命し、先ごろ韓国入りしたと発表した。

北朝鮮で最高権力層クラスの身分を持つテ氏は、在デンマーク大使館書記官、欧州連合(EU)担当課長、外務省欧州局長代理などを歴任してきた北朝鮮外務省を代表する欧州通のエリート外交官だ。英国では約10年勤務し北朝鮮体制宣伝を行っていたが、本国に呼び戻されるのを前に、先月半ばごろ亡命を決行した。亡命理由に「子どもの将来」を挙げていることから、亡命の背景には子息の「意識変化」が絡んでいると考えられる。

テ氏の亡命は、金正恩政権に大きな衝撃を与えている。テ氏の亡命が衝撃的なのは、彼が英国大使館を実質的に牛耳る党組織担当公使だっただけではない。彼の家系と夫人の家系が北朝鮮政権の根幹である抗日パルチザン人脈に繋がる核心層に属するからである。

テ・ヨンホ氏の父テ・ビョンヨル氏は、解放前の抗日パルチザン闘争で金日成の伝令兵を務めた人物だと言われている。1997年に死亡するまで、民族保衛相、政治安全局長、党中央委員、党軍事委員会委員、最高人民会議代議員を務め、人民軍大将と共和国2重英雄の称号を与えられている。

また兄と言われているテ・ヒョンチョル氏は朝鮮労働党7回大会で討論した人物だという(JNNニュース2016・8・18)。テ・ヒョンチョル氏は1953年生で党中央委員、金日成総合大学学長、教育委員会高等教育相などを歴任する思想・理論分野の現職重要幹部であり、2015年10月には金日成総合大学代表団のロシア訪問を引率した人物である。

一方夫人のオ(呉)・ソンヘ氏の家系もまたパルチザン家系だ。オ・ソンヘ氏は北朝鮮の最高特権層に属する抗日パルチサン一族の呉白龍(オ・ベンリョン)前国防委員会副委員長(息子はオ・クムチョル軍副総参謀長)の親族だと言われている。呉白龍は金日成主席のパルチザン時代の同志として知られており、党政治局委員、中央軍事委員会委員、護衛司令官を歴任した人物だ。

この「呉氏」の一族は、金日成に忠実な「模範一家」とされている。1960年代末に「遊撃隊5兄弟」の 題名で芸術映画化され(3部作)、北朝鮮だけでなく朝鮮総連幹部たちの忠実性教育の題材にもなった。

最近、呉兄弟の「首領決死擁護精神」に学ぶ運動である第3回「呉ジュンフプ7連隊称号争取運動熱誠者大会」が開催(2016・8・6)されたが、そこには金正恩委員長が直接参加している。しかし皮肉にも、呉ジュンフプの「首領観」に学ばなければならないと強調する大会を開いているその時に、「呉一族」から脱北者が出てしまったのだ。金正恩委員長に与えた衝撃には計り知れないものがある。

高官の脱北では、金正日総書記に大きな衝撃を与えた1997年2月の「ファン・ジャンヨプ書記」の亡命が思い起こされるが、テ・ヨンホ氏はその地位では黄氏に及ばないが、その家系では黄氏をはるかにしのぐ人物だ。

今回のテ・ヨンホ氏亡命事件は、核とミサイル開発で求心力を強めようとする金正恩委員長の思惑が空回りしていることを示した。核心層でさえ「金正恩の核・ミサイルオールイン路線では北朝鮮の未来はない」と判断しているということだ。

金委員長は、今回のSLBM発射成功で、担当幹部と抱き合って喜ぶ無邪気な姿を労働新聞紙上にさらけ出したが、危険な火遊びにうつつを抜かしているどころではなくなってきている。

2016年9月8日訂正)として、上記を記載。

朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

最終更新:9/9(金) 12:20

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TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

北朝鮮からの脱出
北朝鮮での幼少時代、『ここは地球上最高の国』と信じていたイ・ヒョンソだったが、90年代の大飢饉に接してその考えに疑問を抱き始める。14歳で脱北、その後中国で素性を隠しながらの生活が始まる。 これは、必死で毎日を生き延びてきた彼女の悲惨な日々とその先に見えた希望の物語。そして、北朝鮮から遠く離れても、なお常に危険に脅かされ続ける同朋達への力強いメッセージが込められている。