ここから本文です

『ファインディング・ドリー』併映短編『ひな鳥の冒険』も抜かりなし! 「450枚から700枚の羽を描いた」「水だけで約10億円かかった」

おたぽる 8/27(土) 19:00配信

 現在全国で公開中の長編映画『ファインディング・ドリー』。その『ファインディング・ドリー』と同時上映されている短編『ひな鳥の冒険』(原題『PIPER』)も、愛らしさもさることながら、リアルな質感表現でも注目を集めている。

 第16回広島国際アニメーションフェスティバルの会期2日目にあたる8月19日、ピクサーが『ひな鳥の冒険』の上映とメイキングセミナーを行った。ピクサーは毎回、広島フェスで短編のセミナーを実施しており、前回(2014年)は『LAVA』を取り上げていた(記事参照 http://otapol.jp/2014/09/post-1521.html )。日本では『LAVA』よりもむしろ、翌15年に『インサイド・ヘッド』の併映となった『南の島のラブソング』という邦題で覚えている人も多いだろう。

 今回のセミナーに登壇したのは監督のアラン・バリラーロとプロデューサーのマーク・ソンドハイマー。アランは『ひな鳥の冒険』について「作り始めた時には、映画にすることは全く考えていなかった。最初の時はテストとして作っていた」と述懐、制作の動機は「ピクサーに20年間勤めていて、アニメーターやエンジニアとして技術的なテストをしたいなと思った」ためだったという。

「アニメーションを作る時のツールというものは発展途上にあり、今後アニメーションをどのように制作していくか、どのようにしたらアニメーターが表現できるかということでテストしていた。テクニカルチームの仲間と一緒にアイデアを出し合っていた時に浮かんできた」(アラン)

 ちなみにアニメーターと聞くと2D手描きのみを思い浮かべるかもしれないが、実写・VFX・ゲームまで念頭においた場合は3DCGも含まれることを留意しておきたい(例えばスタッフの求人でもアニメーターの項目に、要求されるスキルや使用するCGソフト名などが付記されている)。

 ピクサーの社屋は海岸の近くにあることでも知られる。アランは「毎朝ランニングをしている時にこの小さな鳥(シギ)をよく見ているけど、普段から色んなものがキャラクターのように見えていて、波から逃げるシギを見た時にキャラクターにしたら面白いだろうな」と着想を得たようだ。

 シギのCGモデルについてアランは「『アナと雪の女王』に出てくるカラスに少しづつデザインを加えて新しいデザインにしていった」という。「ジョン・ラセターとアンドリュー・スタントンも、このテストを見てとても気に入ってくれて、最終的に短編にしたらどうかと言ってくれた」ことから実現に至った。

「作品を作っていく際に個性を出すため、子供の視点だけでなくて親の視点も入れたい」と思ったアランは今回が初監督。どれだけ難しいのかを制作しながら感じていた。初めに「自分が10cmくらいのサイズだったら、どのように世界が見えるか」「どういう風に景色が見えるのかをCGで表した。コンピューターから一旦離れ、浜辺に行ってシギたちの生態を観察した。プロダクションの人たちと水の中の見え方も調査したが、泥っぽくてなかなか上手くいかない部分もあり、ハワイまで撮影に行った」(アラン)

 アランは普段から色んなものがキャラクターのように見えていると語っていた。その例として「浜辺にあるものを身近に感じていたが、全く違う視点から捉えるのを大変楽しく思った。草の描き方を変えていくことで、暖かで落ち着ける場所が急に恐ろしくなってしまうなど、檻の中にいるように見える」と、シギの巣がある草むらにもキャラクター性を見出していた。

 キャラクターを見出すとはいえ、アランはその誇張にも気を遣っている。「シギは自然のままでも大変面白くて、非常に表情も豊か。だからキャラクターをアニメーション的にしていく必要がなかった。そうやって作っていくのも個性的でユニークであると感じた」。鳥に関しては「人間のような動きを排除するということ。新しいやり方で表現したいと思った」とのこと。

 アランは制作プロセスの中で、羽が非常に重要な役割を担っていると気づいた。「羽を上手く使うことで、眉などを使わなくても表現できた。通常は表面の部分だけのところ、450枚から700枚の羽を描いた」。新規にシェーダーを開発したかと思いきや、まさかの手描き。部位ごとにパターン化すれば複製も可能ではあるものの、風でなびいていたり、水で濡れていたりするカットもあるのだから、その労力は圧巻だ。

「もう1つは自然界のものを利用すること。部分に分けていって、それぞれがどう動くかということで、実写で撮っている時にシギが風をどう感じているかに気づくことができた。また羽の下の表皮を動かすという『ドリー』でも使われた同じ技法を用いた」(アラン)

 質疑応答ではプロデューサーのマーク・ソンドハイマーが応じる場面が多かった。「制作期間はツールのテストも含めて2年くらい」とマーク。「アニメーションは一定ではなく、常に変化し続けていくものだと思っている。正直言って、何で上層部の人たちが関心を持ってくれて、短編にすべきだと言ってくれたのか分からない」と感謝の念を述べた。

 制作予算について問われた際には、マークは「水を作るだけでもおよそ1千万ドル(約10億円)かかった。詳しくは話せないが、これまでの短編と比較しても同じくらい」と明かした。短編には長編を制作するための技術開発や試作といった側面もあるにしろ、ここまでの膨大な予算を費やせるのもピクサーならではだろう。

 マークはさらに「水のほかにも砂や羽については大変お金のかかるところで、短編を作ると決めてくれたのが良いことだった」と続けた。また、その後の質問を受けて「CGとか実写とか関係なくストーリーが大事になってきていて、アニメーターがどういうことを伝えていきたいかを考えていける時代になったと思っている」と展望した。

「監督たちにとっても、自分たちが表現したいと思うことを表現しやすくなった。技術が発展してきているので、同じものであってもピクサーであれば違ったストーリーを作っていくことができる。話の中で個性を出せたり、CGでやっていけたりするのは興味深い」(マーク)

 ここまでの話を聞いて改めて『ひな鳥の冒険』を見てみると、ますますその凄みが伝わってくるのではないだろうか。
(取材・文/真狩祐志)

■広島国際アニメーションフェスティバル
http://hiroanim.org/

最終更新:8/27(土) 19:00

おたぽる