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中国4大女優、シュー・ジンレイの品格と知性 大塚シノブが『あの場所で君を待ってる』を観る

リアルサウンド 8/27(土) 13:37配信

 徐姐(シュー姉さん)は、相変わらずスゴい女性だなと思う。中国映画『あの場所で君を待ってる』の監督であり、主演の一人も務めるシュー・ジンレイのことである。シュー・ジンレイは日本での知名度はあまり高くはないが、チャン・ツィーイー、ヴィッキー・チャオ、ジョー・シュンらと並ぶ中国4大女優の一人であり、ブログの女王とも呼ばれる、中国では誰もが知る非常に有名な女優である。そして42歳という若さで、すでに6作もの映画を撮っている映画監督でもある。

 実はシュー姉さんは、私が中国で良くしていただいた内の一人で、とても尊敬する女性でもある。プライベートな付き合いであるが、自宅に呼んでいただいたり、食事をしたり、カラオケに行ったり。日本に来た時、私が銀座をアテンドしたこともあった。大女優でありながら飾り気もなく自然体。自宅には本がぎっしり詰まった一面の大きな本棚に、一つ一つ選んで置かれたセンスのいい骨董家具。その本棚から一冊、中国語の小説もいただいた。芸術家気質で勉強家、聡明な女性。私が胃の調子のよくないことを知ると、胃カメラの予約を取ってくれようとしたり、何人かで一緒にいる時には、帰り時間のことまでも気にかけてくれたりもする。気遣いもできる、物腰の柔らかい優しい人である。男性を含めた数人で食事に行っても、さらっとお会計までしてくれる男前ぶり。それはそれで大物は大変だなと思ったけれど。

 私が当時、演技と並行して監督の勉強をしていたことを知り、自身が監督する映画の撮影現場に呼んでくれたこともあった。「監督もやりたいんでしょ? ここに座って勉強したらいいよ」と、彼女が座る監督チェアに惜しげもなく私を座らせ、撮影の説明もしてくれた。なんて懐の深い人なのだと、その粋な計らいに感謝した。自身の監督する作品に自身が出演するというのが、シュー・ジンレイ作品の恒例だが、監督から演者へ演者から監督へと、撮っては出て、出ては撮るを繰り返す。映画撮影に没頭するその姿はプロそのもので、現場を束ね、とても器用でもあった。

 私は結構、人の言動や感情に敏感な方であるが、彼女には驕りも嫌味も一切感じたことがない。今まで女優のみならず、様々な著名な方や地位のある方にもお会いしてきたが、人間としてこうも心から尊敬申し上げたいと思った女性は、シュー姉さんが初めてだったかもしれない。特に女性同士の場合、嫉妬というのか威圧感というのか、多少なりとも感じる瞬間が正直ないわけではない、友人間でさえも。中国人だから寛大なのか、ってそんなわけでもない。ここまでのレベルになると余裕というのか、人間としての成熟度が違うのかもしれないと思い知らされ、こんな人間になりたいと思った。

 子供とか男性に対する母性とはまた違う、人を包み込むような母性のようなものがある、そうも感じた。「私は痛みに弱いから、多分子供は生まないと思う」とシュー姉さんは言っていたが、予言通りというか、いまだ出産はしておらず、その愛情を今も変わらず映画に注ぎ続けている。個人的には、私は彼女のような生き方は素敵だと思うし、シュー姉さんにはそれが似合うような気がする。

 今回の映画はプラハを舞台にしたラブストーリーだ。中国人でありながら、韓国の人気アイドルグループEXOのメンバーKRISとして活躍したクリス・ウー演じる、シングルファーザーのチェリスト、パン・ズーヤンと、“素顔の女神”と呼ばれるナチュラルな演技が人気のワン・リークン演じる、ジンティエンとの「現代の恋」。そこに、シュー・ジンレイ演じるジンティエンの祖母ランシンが生涯かけて愛した外国人男性との「過去の恋」が交錯する。2015年中国で公開され、興行成績は初登場1位となった。

 プラハの景色は美しく、電灯の灯る夜の石畳はロマンティックなムードを醸し出す。甘さと切なさ、夕暮れの空に包まれるような温もりを感じる。アイドル顔のクリス・ウー効果で一瞬、韓流ドラマを観ている錯覚にも襲われながらも、シュー・ジンレイの人柄がそのまま作品に投影されたような、文学的香りのする、余韻の残る女性的な映画である。

 実はシュー姉さんも、以前日本に進出しかけたことがあるが「私はあまり日本では通用しないみたい、日本語も話せないしね。でも英語勉強してる」と言っていたのを思い出した。ちなみに、この映画での彼女の台詞はすべて英語。そして日本で女優として活躍しなくても、こうして自身の監督作品が日本で公開されている。それは映画に懸ける想いと、努力の賜物だろう。

大塚 シノブ

最終更新:8/27(土) 13:37

リアルサウンド