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「研究不正」大国日本、不正を防ぐ処方箋はあるか

Wedge 8/28(日) 12:20配信

 文部科学省の「研究における不正行為・研究費の不正使用に関するタスクフォース」に所属する若き女性事務官・水鏡瑞希が、卓抜した推理力で次々と研究不正を暴く……。松岡圭祐の小説『水鏡推理』シリーズが売れているらしい。

 私も、最新刊の『水鏡推理3』まで早々に読んだ。STAP細胞事件をはじめ、最近起きた東京五輪エンブレム騒動や、過去の旧石器発掘事件などをモデルに、痛快な推理小説に仕立てている。

 小説なら楽しめるが、現実に起きた不正となるとそうはいかない。2014年のSTAP細胞事件とノバルティス事件は記憶に新しいが、本書によると、これらは氷山の一角に過ぎない。日本は世界に冠たる「研究不正大国」だというのだ。

量だけでなく、質においても世界の注目を集める

 研究不正や誤った実験などにより撤回された論文のワースト10に日本人が2人、ワースト30には5人も名を連ねている。他を圧倒するようなワースト1位も、実は日本人である。

 STAP細胞とノバルティス事件という二つの研究不正により、「わが国は、量だけでなく、研究不正の質においても世界の注目を集めた」と、著者は語る。

 <STAP細胞は、ねつ造、改ざん、盗用の重大研究不正をすべて目いっぱい詰めこんだ細胞であった。はなばなしい発表からわずか11ヶ月で、そのような細胞が存在しなかったことが明らかになり、わが国の名誉を傷つけた末に、消えていった。ノバルティス事件は、わが国の臨床医学の構造上の問題を内包しているという点で、STAP細胞よりもはるかに深刻な研究不正であった。>

 本書は、これら二つの事例はもちろん、世界と日本で起きた研究不正の事例を多数紹介しつつ、そのなかでも重大な不正についてその実態を掘り下げ、なぜ不正に至ったのかを分析する。また、不正の結末や不正を監視するシステムにも言及し、不正防止への処方箋を提案する。

不正事例を、研究者の視点から総覧

 著者は、がん細胞、発がんを専門とし、日本癌学会会長や日本学術振興会学術システム研究センター顧問、東京大学名誉教授、岐阜大学学長などを歴任した。一般向け、研究入門者向けの新書などを数多く著しているが、「一年前まで、研究不正についてそれほど関心があったわけでもなく、真剣に考えたこともなかった」と述懐する。

 「しかし、本を書き始めると、欧米では研究不正に関して、非常に多くの研究が行われているのに驚いた。一方、わが国発の研究不正に関する文献はほとんどない」。

 日本において研究不正は、あってはならない、隠しておきたいものとして、誰もまともに取り上げ、研究しようとしなかったのが、研究不正を蔓延させたひとつの背景になっている、と著者は分析する。

 したがって、本書に挙げられた42の不正事例には、本や映像にまとめられているほど有名な事件も含まれるが、それらを研究者の視点から総覧した、という点で、画期的といえるだろう。

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最終更新:8/28(日) 12:20

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