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「50手先」を打った!?ソフトバンクのARM社買収 --- M&A Online

アゴラ 8/28(日) 16:30配信

こんにちは。ビズサプリの花房です。

1ヶ月前の7月18日に、ソフトバンクグループの孫社長は、イギリスの半導体設計大手であるARM社を日本円換算3.3兆円で買収することを発表しました。

これは株式市場においてネガティブな驚きをもって評価され、発表後の週明け7月19日の株価は5,387円と、買収発表前の6,007円から1割下落し、10日ほどは5,300円前後の株価水準でした。

しかしその後、第1四半期決算発表の7月28日以降は上昇基調に転じ、昨日の終値で6,802円と、買収直前の株価から13%増し、買収発表直後の5,387円からだと26%も増加しています。

ARM社の買収が今後どのようなシナジーをもたらし、どの程度の貢献があるかはっきりはしていませんが、既存事業の業績の固さが安心感をもたらしているのかもしれません。

実際キャッシュ・フローで見ると、ソフトバンクはこの第1四半期で約6,800億円のEBITDA(償却前利益)を稼ぎ出していて、単純に年間ベースだと2.7兆円規模のキャッシュを生み出しています。

2016年3月期通期の年間EBITDAは2.4兆円でしたから、仮に毎期2.5兆円のキャッシュ・フローを生み出せれば、2016年6月末の有利子負債合計12.3兆円に、今回のARM社買収で新たに借り入れるとされる1兆円の合計13.3兆円は、約5年ちょっとで返済できる計算です。

もちろん既存事業の設備投資を継続的に行わなければならず、特に経営再建中のスプリントは今後も積極的な設備投資が必要であり、今回のARM社の買収によって、経営立て直しが遅れるのではないかといった懸念も当初の株価下落の要因にあったようですが、冷静に現状のキャッシュ・フロー水準を見ると、借金の絶対額は巨額であるものの、返せない金額ではないということが分かってきたということでしょうか。

またソフトバンクは虎の子のアリババ株も未だ発行済株式の32%を所有しており、持分法適用会社であるためソフトバンクのB/S上の簿価は1.2兆円に対して、上場を果たしたアリババ株の時価は、7兆円ほどあるので、仮に現在以上の株価のまま売却できれば、借金は半減できることになり、その安心感もあるのかもしれません。

いずれにしても今後は、投資家の期待通り既存事業の成長を維持し、スプリントを見事に再生させ、新たにグループに取込むARM社のシナジーを最大限に発揮できるかが焦点になって来るでしょう。

特にシナジー効果についてはソフトバンクの既存事業との直接的な結びつきが見えない中、孫社長は「囲碁でいえば飛び石。10手先、50手先を考えて打った」と説明されています。

おそらく常人には考えもつかないような未来図を孫社長は描いており、その中では着実にARM社の果たす役割は重要だということでしょう。

あるビジネス誌においても、ARM社はIoT時代のプラットフォームの中核の1つで、もちろんそれだけではプラットフォームを作り上げることはできないが、重要な要素の1つであり、今後足りないものを継ぎ足して行ってIoTのプラットフォームを作り上げて行くような趣旨の発言をされていました。そしてそれがAI(人工知能)とも繋がっていくと。

ソフトバンクの開発したロボットである『ペッパー』は感情エンジンを持つAIを備えたロボットで、これがARMの技術と最終的にはシナジーを有し、我々の生活にとって意義のある新たなものが生み出されるということでしょう。

優れた経営者の方は、いつも時代の数歩先を予測し、そこで必要とされるものを開発することで、会社を成長させてきました。事業意欲と言ってしまえば簡単ですが、おそらくもの凄い執念をもって時代を変えて行く気概を備えないと、大事を成すことはできないと思います。そしてそのようなこだわりというか意識の高さは、トップアスリートにも通じるものがあると思います。

いつの時代も常人には理解しがたい発想は、ともすればほら吹きやペテン師、ドンキホーテ的と言われ兼ねないですが、自分の描いた世界を信じ抜くことで何かをやり遂げた例は数えきれません。

文:株式会社ビズサプリ メルマガバックナンバー(vol.035 2016.8.17)より転載

【関連リンクを読む】
・米国ベンチャーM&A速報レポート 相次ぐ大型M&Aとその共通点は?ソフトバンクほか
https://maonline.jp/articles/venture0340
・【ソフトバンク】M&Aの名手はどのように変革を遂げたのか
https://maonline.jp/articles/sb

執筆者紹介  花房幸範(はなぶさ ゆきのり)

株式会社ビズサプリ パートナー 公認会計士
学歴:1998年 中央大学商学部会計学科卒業
職歴:1997年10月より、中央青山監査法人にて5年間、現場責任者として上場会社・外資系企業の会計監査の他、IPO支援・財務デューデリジェンス等に従事
2002年10月より5年間、日本アジアホールディングズ(株)(現日本アジアグループ(株))の財務経理部長として資金調達、決算業務を主軸に、企業買収とその後の事業再生に携わる。

2007年から2年間、中小のコンサルティング会社にて主に製造業、金融業、小売業等の連結決算支援、内部統制構築・整備支援、業務改善支援等に従事し、2009年10月より独立。アカウンティングワークス(株)の代表取締役として、現在に至る。決算開示支援、業務改善、M&A支援等の会計コンサルティングを幅広く行うとともに、セミナー・執筆等も実施。特にM&A、連結会計、ワークシートを活用した業務効率化の導入支援に強みを持つ
主な著書:「有価証券報告書を使った決算書速読術」(阪急コミュニケーションズ)「決算書分析術(阪急コミュニケーションズ)」「ビジネスモデル分析術2(2014年最新刊)」等
詳しくはこちらから http://biz-suppli.com/

アゴラ編集部より:この記事は「M&A Online」2016年8月25日のエントリーより転載させていただきました(タイトル改変)。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちら(https://maonline.jp/articles/bizsupli0387)をご覧ください。

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最終更新:8/28(日) 16:30

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