ここから本文です

フランク・オーシャン、カイゴ、サニーデイ・サービス…2016年夏の記憶に刻まれる5枚

リアルサウンド 8/28(日) 15:00配信

 今回のキュレーション記事は“夏の私的愛聴盤”みたいな感じでセレクトしようと思っていたのだが、リリースされたばっかりのフランク・オーシャンの最新作『blonde』がすさまじい内容で、まずはそのことから語らざるを得ない。

 米国時間8月18日の夜にビジュアル・アルバム『Endless』が突如リリース、さらに8月20日(米国時間)にこの『blonde』がApple Musicでサプライズリリースされて、世界中で大騒ぎになっている。2012年の前作『Channel Orange』が大絶賛を集めてグラミー賞も獲得して、インディR&Bの新たな地平を切り拓いてから4年。『BOYS DON’T CRY』という仮タイトルが告げられてから延期につぐ延期が繰り返されてきた新作が突如リリース。これが、いろいろぶっ飛ぶほどのクオリティになっている。おそらく全米、全英1位を獲得するだろうし、昨年のケンドリック・ラマーに匹敵するようなインパクトを世界の音楽シーンに与える一枚となっている。

 聴いた印象として、まず深く感じ入るのはサウンドの深い美しさと、彼自身の歌が持つ崇高な響きだ。ドラッギーだけど、とても感傷的。

 トピックとしては豪華なゲスト陣もあげられるだろう。「PINK + WHITE」にはファレル・ウィリアムスがプロデュースに、ビヨンセがコーラスに参加。「Skyline To」ではケンドリック・ラマーが、「SOLO(reprise)」ではアウトキャストのアンドレ・3000が参加している。さらに「White Ferrari」では、ボン・イヴェールとジェイムス・ブレイクをフィーチャリングしている。つまり、アメリカのメインストリームのヒップホップとR&B、エレクトロニック・ミュージックとフォークとソウルとゴスペルと、いろんな流れが折衷的に流れ込んでいるのが、今回のフランク・オーシャンの新作と言える。

 ジェイムス・ブレイクが5月にリリースした『The Colour In Anything』にもフランク・オーシャンとボン・イヴェールは参加していたし、おそらくボン・イヴェールが9月にリリースする5年ぶりの新作『22、ア・ミリオン』にも、ここ最近の3人の交流は大きく影響しているだろう。ビヨンセ『レモネード』も含めて、2016年にリリースされた重要作は点と点で絡み合っている。

 アルバムのクライマックスは、「White Ferrari」から「Seigfried」「Godspeed」という後半の3曲。歌詞を深く読み込むことまではできていないんだけれど、おそらくアルバムのテーマはゲイであることをカミングアウトしている彼の少年時代の追憶なのだろう。喪失と感傷が入り混じるようなトーンに包まれている。「Seigfried」ではエリオット・スミスの書いた詩も引用される。

 ちなみにリードトラックの「Nikes」には、KOHHがフィーチャリングしたバージョンもあり、ポップアップショップで「BOYS DON’T CRY」Zineと共に限定配布されたCDにその楽曲が収録されている。Zineにはアルバムのコントリビューターの名前が並ぶのだが、そこにビヨンセやケンドリック・ラマーの名前と当たり前にKOHHが並んでいて、そのことにもなんだか誇らしい気持ちになる。

 とにもかくにも、今年の音楽シーンの最重要作になるのは間違いないはず。ほかの人がこのアルバムをどう聴いたか、それも知りたいな。

 リオ五輪の閉会式でもパフォーマンスし、いよいよ世界的なブレイクのさなかにあるノルウェー出身の24歳DJ、カイゴ。デビューアルバム『クラウド・ナイン』のリリースは今年の5月だったけれど、今年の夏、愛聴してたのはこのアルバムだった。トム・オデールやコーダラインやジョン・レジェンドなど数々のボーカリストをフィーチャーした良質なダンス・ポップ・アルバムだった。

 ただ、メディアでは彼のことを「トロピカル・ハウスの火付け役」と紹介する記事ばかり目に止まるのだが、個人的には全然違う捉え方をしている。「EDMの次はトロピカル・ハウスがキテる!」とか「癒やし系EDM」とか、そんなキャッチコピーばかりが氾濫する状況に「そうなの?」って思ってるのが正直なところ。そりゃあ『ULTRA JAPAN』でも来日するし、そもそも<ULTRA RECORDS>の所属でもあるし、EDMシーンのブームの移り変わりの中でその音楽性が語られるのはある意味正しいことなのだが、実は彼の来歴を考えるとそれはミスリードなのではないかとすら思う。

 というのも、彼はノルウェーのベルゲン出身のDJ/プロデューサーだから。ベルゲンには一度旅行で訪れたことがあるのだが、人口30万人ほどの小さな都市ながら、音楽とアートが盛んで、インディ・ポップやエレクトロ・ポップのシーンがしっかりと根付いていた。ロイクソップの二人もベルゲン出身で、現在もベルゲンを拠点に活動している。というわけで、実はカイゴは「トロピカル・ハウスの担い手」というよりも「ロイクソップの正統後継者」と位置づけたほうが正確なんじゃないかと思う。以前にロイクソップの2人にインタビューした時にも「小さい街だからミュージシャンのコミュニティがあって全員がつながっている」と言っていたし。そういう風に考えると、カラフルでファンタジックなサウンドも、センチメンタルな歌も、とても納得いく。

 というか、彼のサウンド、聴けば聴くほど「トロピカル(=南国)」というよりも「北欧」のイメージが強いんだけど。どうなんだろう。

 邦楽のリリースではサニーデイ・サービスの新作『DANCE TO YOU』を繰り返し聴いていた。再結成後3作目となるニューアルバム。軽やかでポップなんだけれど、その奥のほうに狂気性のようなものを感じて、聴けば聴くほど深みのある一枚になっている。

 すでにいろんな場所で語られているけれど、レコーディングは1年半以上の長期にわたって、予算も大幅に超過して、数十曲をボツにしながら進んでいった。僕は去年の夏に『AERA』のルポルタージュ取材で曽我部恵一さんに密着していて、その時にレコーディング・スタジオにも訪れていたので、結局収録されなかった曲を聴くことができている。それも、サニーデイ・サービスらしい繊細で素敵な曲だった。少なくともボツにするようなレベルでは全くなかったのだけれど、それを全部捨て、そこから1年近くかけて全く別のアルバムを作り上げた。そういう執念のようなものが奥の方に宿っている。

 そういえば、90年代も、サニーデイ・サービスってそんなバンドだったよなあと思い出した。全16曲が本編の12cmCDにおさまりきらず、ボーナス・ディスクとして10分超えの「ベイビー、カム・ヒア組曲」を収録した8cmCDが付属したという、混沌をそのまま作品化したような『24時』。ドラムの丸山晴茂がほとんどレコーディング・スタジオに顔を出さず、もはやバンドが空中分解するなかでハウス・ミュージックの多幸感を描きだした『LOVE ALBUM』。

 頭のなかにある理想と目の前の現実が齟齬をきたして、葛藤を繰り広げる中で、ギリギリのところでロマンティシズムが勝利する。そういうカタルシスが、僕がサニーデイ・サービスというバンドに対して感じている魅力なのかもしれないと、『DANCE TO YOU』を聴いて改めて思った。

 暑くてどうしょうもない日は、がんがんに冷房が効いた部屋の中で、ザ・なつやすみバンドのニューアルバム『PHANTASIA』をよく聴いていた。

 「毎日が夏休みであれ!」という信念のもと結成された4人組。中川理沙の透明感あるボーカルと、MC.sirafuのスティールパンやトランペットを用いたトロピカルなサウンドで人気を高めてきたけれど、この『PHANTASIA』というアルバムで、その作品性がぐっと高まったような気がしている。

 スカート、ミツメ、シャムキャッツ、片想い(こちらもMC.sirafuが所属している)など、東京のインディー・ポップ・シーンに属するバンドたちが次々と充実作をリリースしているのが2016年の夏のトピックの一つだ。

 その中でもザ・なつやすみバンドは<SPEEDSTAR RECORDS>からメジャーデビューを果たしていて、そのことにも大きな意味合いがあるなあ、と思う。

 というのも、おそらく2010年代の音楽シーンを後から振り返った時に、その重要な担い手として挙げられるのは星野源とceroになるだろうと思っているから。ということは、レーベルとしては、ceroが所属する<カクバリズム>と、そこを経た星野源がメジャーで所属する<SPEEDSTAR RECORDS>がマッピングの中心に位置づけられることになる。あえて90年代の渋谷系になぞらえるならば、これらのレーベルが<クルーエル>や<トラットリア>のような役割を果たしている、とも言える。

 そうやって見ていくと、カクバリズムからリリースされた1stアルバム『TNB!』が反響を巻き起こし、<SPEEDSTAR>からデビューしたザ・なつやすみバンドも、今起こっている音楽ムーブメントの、まさに渦中にあるバンドと言うことができる。

 まあ、そういう七面倒臭いことがいろいろ考えなくても、とても心地いいアルバムです。リード曲にはなっていないけれど「O.V.L.U.V part2」が一番好き。

 この人のアルバムは全然予備知識なかったんだけれど、タワーレコードの試聴機で聴いて一発で気に入ってしまった。

 Japanese Wallpaperは、オーストラリアはメルボルンを拠点に活動する10代のマルチ・インストゥルメンタリスト、Gab Strumによるプロジェクト。SoundCloudで公開された楽曲をきっかけにまだ本国でも注目されはじめたばっかりで、デビューEPに新曲とリピックスを追加した『Japanese Wallpaper』が日本でのデビュー作となる。サウンドは、ザ・ポスタル・サーヴィスからM83、アウル・シティーを想起させるような、ドリーミーでロマンティックなエレクトロ・ポップ。ポーター・ロビンソンに通じるところもある。

 いちリスナーとして、こういうのに、ほんとに弱いのです。エレクトロニックな音色を用いて「幻想」を描き出すような人。ちょっとテイストは違うけれど、メルボルンを拠点に活動するアーティストとしては、アヴァランチーズ(久々の新作素晴らしかった!)とかチェット・フェイカーの系譜に属するとも言える。

 あの街にも一度旅行で訪れたことがあるんだけど、ノルウェーのベルゲンと同じく、どこか「世界の果て」みたいな感じのする小さな港町だった。そういう場所で生まれる音楽に惹かれているのかもしれない、と思うことがある。

柴 那典

最終更新:8/28(日) 15:00

リアルサウンド

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

北朝鮮からの脱出
北朝鮮での幼少時代、『ここは地球上最高の国』と信じていたイ・ヒョンソだったが、90年代の大飢饉に接してその考えに疑問を抱き始める。14歳で脱北、その後中国で素性を隠しながらの生活が始まる。 これは、必死で毎日を生き延びてきた彼女の悲惨な日々とその先に見えた希望の物語。そして、北朝鮮から遠く離れても、なお常に危険に脅かされ続ける同朋達への力強いメッセージが込められている。