ここから本文です

「“地域循環”、“地産地消”はキレイ事」。“地方創生の雄”兵庫県養父市トップに聞く、日本復活の鍵

HARBOR BUSINESS Online 8/28(日) 9:10配信

 前回の記事では、人口わずか2万6000人前後の田舎でありながら国家戦略特区に指定され、特区の取り組みを評価する諮問会議で、唯一「課題なし」と高い評価を受けている兵庫県養父(やぶ)市の実情を探った。

 土地を持っている農家しか農業に携わることができないという従来の農地制度に疑問を持ち、「都市の若者や企業に『養父市でなら、本気で農業をやれる』と思ってもらいたい」という熱意を胸に制度改革を進めてきた広瀬栄市長。そんな革新派市長が腹心として見込んだのが、三野昌二氏だ。

 三野氏は「ハウステンボス」の再建にも関わった広島県出身の辣腕コンサルタント。あくまでビジネスマンとしての立場に立った厳しい目で、副市長の務めを果たしつつ、養父市の「新たな産業」の芽を鵜の目鷹の目で探し出す。その一環が地元の名産品のブランド化だ。三野氏はかつて将軍家へ薬として献上された歴史を持つ、由緒ある市の名産品「朝倉山椒」を’15年7月に開かれたミラノ万博に出品した。

 薫り高い朝倉山椒は、スイーツにも合うスパイスとしてたちまち海外のシェフ達の間で評判を呼んだ。東京・浅草の商業施設「まるごとにっぽん」でも養父市と朝倉山椒を紹介するブースが設えられ、好評を博している。

 「情報と感性を身につけ、地域の宝を掘り起こせ」。それが、民間企業出身である三野氏ならではの信念だ。

◆「感性を身につけろ」

「地方再生に携わっている人たちは、やれ『地域循環』だの『地産地消』だのキレイ事を並べ立てるんですけども、それじゃダメなんです。地産地消なんて地元の学校の給食だけでいいですよ。一番重要なのは、地域の経済を回していくこと。言葉のみにとらわれず、何を地域で消費し、何を外で売り出していくかを考えていくことが大切なんですよ。そのためには5年後、10年後を見据えて新しい産業を生み出していくことが必要です。

 地元なら100円で売れるものが、大都市だと300円で売れる。それなら大都市のほうで売ればいい。海外で売れるとにらんだら、海外展開すればいい。でも、地元の方ではやはりなかなかそこに気づけないんですね。ですから、私は300名からいる養父市の職員にも常々、『感性を身につけろ』と言っていました。視点さえ変えれば、ビジネスチャンスはごろごろ転がっているんだと」(三野氏)

 朝倉山椒を軌道に乗せた三野氏が次に着目したのは、昔、養父市の基幹産業であった「養蚕」だ。三野氏は、「蚕プロジェクト」を進めることで、養父市に今までにない産業を創り出すことができると睨んでいる。

 蚕の糸からは高級シルクが作れる上、蚕のフンは肥料としても使える。ベトナムやインドネシアに蚕料理があるように食料としても利用可能だという。蚕の繭から抜き取ったサナギは冬虫夏草になり、切り分けた繭を水につけると美容液代わりにもなるため、利用価値が高い。

 「養蚕業が盛んであった頃とは異なり、一年を通した蚕の飼育も容易になっているため、参入もしやすいのだ」と三野氏は説明する。事実、すでに大阪の企業から「ぜひ、プロジェクトに加わりたい」という申し出を受けているそうだ。

 無論、養父市の中にも、「このままではいけない」と奮い立ち、チャレンジしている地元の事業者も存在する。たとえば、“幻の豚”と呼ばれる養父市のブランド豚「八鹿豚」は、養父市でたった1軒となってしまった若手の女性養豚農家が「『最後の一軒』を強みにしたい」と精魂込めてつくり上げたブランドだ。養父市発のブランドを育てるべく、市もサポートを惜しまない。

 とはいえ、養父市の取り組みは順風満帆なわけではない。7月31日、市政に激震が走った。三野氏が、6か月あまりの任期を残して突如副市長を辞したのだ。

 表向きは「健康上の理由」とされているが、やぶパートナーズ株式会社が経営しているローソンの不明朗な会計を理由に三野氏を糾弾するだけ糾弾し、市の改革のために旗を振ろうともしない議会に、ほとほと嫌気が差したのだという。

◆「俺が言うから、正しいに決まってるだろ!」

「僕がよく言うのは、『過去の延長線上に未来なし』なんです。市長があれだけエネルギーを持って改革を進めて来たということは、以前と同じ農業をやっていても意味がないということ。でも、地元の重鎮と呼ばれる人たちはあくまで過去にしがみつきたがるんですよ。『俺が言ってるんだから、正しいに決まってるだろ!』と言わんばかりの態度をとるんですね」(三野氏)

 既得権益からの反発や、市民との意識のズレは、広瀬市長の前にも課題として立ちはだかった。

 広瀬市長は、農業委員会から市長への権限移譲はもちろん、地域の高齢者の生活水準を高めるため、シルバー人材センターに登録している会員の労働時間の制限緩和や、タクシーも利用できないような山間部でのライドシェア(相乗り)を訴えてきた。

 しかし、「市民の理解を得るのが、それぞれ高い壁だったのは事実です。その都度、全力で壊れるくらいにぶつかっていきました」と広瀬氏は述べる。ライドシェアを巡り、全国タクシー協会の会長が「市長、それだけはやめてくれ」と直談判に訪れたこともあったという。

◆コンサルタントの地方再生は「絵に描いた餅」

 地方再生の旗振り役と、住民との軋轢は、どこの自治体も抱える根深い問題だろう。今後もやぶパートナーズ株式会社で新たなビジネスを模索しながら養父市に関わっていくという三野氏は次のように締めくくった。

「これはぜひ覚えておいていただきたいんですが、自治体が地域の総合戦略を策定するため、コンサルタントに大金を払うなんて話が往々にしてあるんです。でも、実際は絵に描いた餅なので動かすことができない。コンサルタントはボロ儲けです。ホント、有り得ない話ですよ。

 青写真を描くのは行政でも、実際に手を動かすのは民間。地方再生は、公民が連携してやっていかなければならないことなんです」(三野氏)

 “読めない町”養父市の行き着く先が、全国の悩める自治体にとっての光明なのか。それとも、暗く深い迷宮なのか。それは地域住民ひとりひとりが「自分ゴト化」できるかどうかにかかっているのかもしれない。

<取材・文/小泉ちはる>

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:8/28(日) 9:45

HARBOR BUSINESS Online

なぜ今? 首相主導の働き方改革