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『とと姉ちゃん』“商品試験”が問いかける、企業批判者の責任と覚悟

リアルサウンド 8/29(月) 6:10配信

 商品試験による企業批判の爽快感と、ペンがもたらす暴力が描かれた『とと姉ちゃん』第20~21週。

 時代は昭和30年となり、日本は神武景気に沸いていた。『あなたの暮し』の売上は15万部を超え、新企画として各メーカーの商品を審査する商品試験をスタートする。最初に検査したのは石鹸で、結果は大手メーカーのものよりも無名の会社のものの方が、質がよかったという結果となる。常子たちはすぐに記事にしようとするが、商品分析を担当した検査機関からは、大手メーカーとは仕事上でのつながりがあるために、検査結果を取り下げるか、メーカー名は伏せてほしいと言われる。仕方なく会社名を伏せて記事にした常子たちは、事務所の一階に実験スペースを作り、今後は自社で商品検査を試みることに。

 西田征史が脚本を担当した『実験刑事トトリ』(NHK)には科学的な実験をエンタメとしてみせるテイストがあったのだが、この商品試験のエピソードはその面白さが全開で、バラエティ番組を見ているみたいである。それは元々、『暮しの手帖』にあったテイストなのだろう。トースターで焼いたパンを積み上げた写真のビジュアルや石油ストーブの燃える写真など、雑誌に掲載された写真をみると、作っている側は、さぞかし楽しかったに違いない。花森安治のイラストで雑誌の品位を保ち、写真を使ってセンセーショナルな見せ方をする攻守の使い分けは見事で、そのスタイリッシュな実験精神は『とと姉ちゃん』にも受け継がれている。

 だが、この商品試験は爽快感と同時に少し嫌な気持ちにもなる。

 広告を入れないというスタンスもそうだが、試験を厳選におこなうために、全ての企業とのつながりを断とうとする『あなたの暮し』の編集方針は純粋で美しいものだ。だが一方で、企業を批判する振る舞いが、社会正義に酔って暴力を正当化しているように見えて、批判される側はたまったものじゃないなと、思ってしまう。

 もちろん、花山伊佐治(唐沢寿明)は自分のペンが暴力だということに自覚的だ。だからこそ、どれだけ横暴に振る舞っていても、ペンを握る時は神妙な顔となる。そこには自分が傷つける側であるという覚悟があり、戦時中に戦意高揚に加担したことに対する罪悪感がうかがえる。

 また、商品試験を見ていて連想したのが、インターネットにあふれている企業批判の記事だ。

 企業の担当者が吐いた暴言を秘密録音したものをWEBに公開して反響を呼んだ1999年の東芝クレーマー事件以降、ネット発の批判は企業に対して、大きな影響力を持つようになってきている。最近では、認知症の高齢者と交わしたサポート契約の解除の際に、高額の料金を請求してきたPCデポを、告発した被害者の孫の発言が大きな話題となった。詳しい内容は、相談に乗っていたライターのヨッピーの「PCデポ 高額解除料問題 大炎上の経緯とその背景」という記事にまとまっているが、横暴な企業を告発する消費者の声を届ける装置としてネットが機能した成功例だと思う。(参考:PCデポ 高額解除料問題 大炎上の経緯とその背景)

 だが一方で、ネットにおける消費者のクレームはそれ自体が自己目的化して暴走することもある。PCデポの件は、告発した男性とヨッピ-のスタンスが冷静だったため、うまく機能したが、一方で、素人の批判的感情が暴走してしまったことで、共感を得られないケースも多い。

 戦後直後に創刊された『暮しの手帖』の商品試験と、ネットのクレーム記事が重なってみえるのは、そこに批評やジャーナリズムの本質があるからだろう。雑誌でもネットでも、どんなに正しいことでも制約なく発言すれば、多くの人々を傷つけることになる。今回の商品試験が描いたのは、ペンを握る側にその責任と覚悟はあるのか? という問いかけだ。

成馬零一

最終更新:8/29(月) 6:10

リアルサウンド

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