ここから本文です

極右派政党から初の大統領誕生か --- 長谷川 良

アゴラ 8/29(月) 16:30配信

オーストリア大統領選の第3ラウンドが10月2日、実施される。第1ラウンドは4月24日、第2ラウンドの上位2候補者による決選投票は5月22日、そして決選投票のやり直し投票が10月2日というわけだ。通常の大統領選より1ラウンド多いのは、同国憲法裁判所が7月1日、5月22日の大統領選決選投票を無効と表明し、やり直しを命じたからだ。その理由は、「選挙関連法には不備はないが、その実施段階で形式的ミスがあった」というもの。

そして夏休みは終わり、第3ラウンドの選挙戦の幕が今月24日、切って落とされた。候補者は野党「緑の党」元党首、アレキサンダー・バン・デ・ベレン氏(72)と極右派政党「自由党」副党首で国民議会第3議長のノルベルト・ホーファー氏(45)の2人だ。前者のバン・デ・ベレン氏は第2ラウンドの決選投票で得票率50・3%、3万0863票の僅差でホーファー氏を破り、当選が決まっていた。それだけに、憲法裁判者の投票のやり直し命令は無念であっただろう。一方、ホーファー氏は大統領府のホーフブルク宮殿入りへのチャンスをもう一度得たわけだ。

バン・デ・ベレン氏の新しい選挙ポスターのタイトルはハイマート(Heimat)だ。“故郷”という意味。難民出身の同氏にとって、ハイマート(本国)は少々複雑な問題だ。それを逆に取って「オーストリア・ファースト」を叫ぶホーファー氏を攻撃しようというわけだ。一方、ホーファー氏の新しいポスターは「Macht braucht Kontrolle」(権力には監視が必要だ」)だ。トーマス・クリスティル元大統領(任期1992~2004年)が選挙戦で使用した選挙ポスターのキャッチフレーズを利用した。

同国の複数の世論調査では、ホーファー氏が一歩リードしている。このままいけば、欧州初の極右派政党出身の大統領が誕生する雲行きだ。同国日刊紙「エーステライヒ」(8月25日付)によると、8月23、24日の両日、600人の有権者に質問した結果、ホーファー氏が約53%でバン・デ・ベレン氏は47%で、両者の差は6%とかなり大きい。

ホーファー氏が先行している理由として、移民問題とトルコ問題が同氏に有利に働いていることが考えられる。極右政党「自由党」は移民、難民の規制を主張してきた。一方、「緑の党」は移民・難民の受け入れを訴えてきた。ここにきて浮かび上がってきたトルコ問題では、ホーファー氏は、「トルコの最大少数民族クルド系住民を攻撃するなど、トルコ国内問題を海外に持ってきて展開し、民族紛争を煽ることは許されない。トルコの欧州連合(EU)加盟は目下、考えられない」とトルコ批判を強め、国民の支持を得ている。

ホーファー氏にとって問題なのは、英国のEU離脱だ。ブリュッセル主導のEUに対して、自由党は過去、英国と同様、EU離脱も辞さない立場を取ってきたからだ。
ホーファー氏は英国のEU離脱決定直後の日刊紙とのインタビューの中で、「EUが加盟国の主権を尊重せず、ブリュッセル主導の政治を継続するなら1年以内に国民投票を要求する」と述べていたが、ここにきて「EUに対する考えは何も変わっていない。EU離脱のシナリオはあくまでも緊急状況下で考えられるだけだ。わが国のEU離脱は目下、考えられない」と説明し、EU離脱支持の路線を修正している。

いずれにしても、高齢な候補者バン・デ・ベレン氏はホーファー氏に対して守勢を強いられている。同氏にとって、「極右派政治家を大統領にしてはならない」といった内外の声が高まることだけが希望だろう。

参考までに付け加えると、今回は3回目の大統領選だが、「今回の投票で問題が生じ、再びやり直しでも要求されたら、それこそ世界の笑いものになってしまう」ということで、同国内務省の選挙担当者は緊張しているという。

ソボトカ内相は関係者に対し、(1)選挙関連法を遵守すること、(2)投票終了の午後5時まで暫定結果などを外部に流さないこと、(3)TVなどのカメラマンに投票場の風景を撮影させないこと、などを通達したという。大統領の栄光を獲得するために3回も選挙戦をしなければならなくなった2人の候補者も必死だが、内務省関係者も投票が無事終わるまで心を休めることができない。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年8月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』(http://blog.livedoor.jp/wien2006/)をご覧ください。

長谷川 良

最終更新:8/29(月) 16:30

アゴラ

記事提供社からのご案内(外部サイト)

アゴラ-言論プラットフォーム

アゴラ研究所

毎日更新

無料

経済、ビジネス、情報通信、メディアなどをテーマに、専門家が実名で発言することで政策担当者、ジャーナリスト、一般市民との交流をはかる言論プラットフォーム