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いずれ跳ね返ってくるトルコ強権政治の報い

Wedge 8/29(月) 12:11配信

 トルコではクーデター未遂事件から1カ月強が経過した。エルドアン大統領は7月20日、背後にいるとする反政府勢力ギュレン派の一掃を狙い非常事態を宣言した。

日本にまで触手伸ばしていたギュレン派

 同派は1960年代に誕生した教育活動や貧困問題の解決を目指す社会運動の信奉者を指す言葉だ。宗教指導者のフェトフッラー・ギュレン氏の名前をとりギュレン運動と呼ばれたり、奉仕を意味するトルコ語からヒズメット運動と呼ばれる。

 同氏の傘下組織は、日本でも90年代後半から資金調達を行う貿易事業と学校法人を運営する教育文化事業活動を開始し、一時は宗教活動も行うのではと当局が注視していた。

 エルドアン首相(当時)は同運動を利用し権力を拡大した。だが同首相の関与が疑われる汚職疑惑の発生を機にギュレン氏との間に溝が生まれた。袂を分かった同首相はギュレン派が軍や警察、メディア、司法界、経済界などに根を
張っていると危険視し、13年秋以降、政権内部に同派の「並行国家」が組織されたとして関係者の多くを逮捕・訴追してきた。

 14年に大統領に就任したエルドアン氏が今回のクーデター未遂事件発生後、同派の画策であると主張し、軍人・警官・公務員など6万人超を拘束・解雇したのはそのためだ。

 だが強権的手法での政敵パージは安定性を損ねる危険性を秘める。まず懸念されるのが軍人・警官・裁判官・公務員などの大量拘束・解雇による行政能力の低下と地下抵抗組織の発生だ。イラク戦争後の同国は一党独裁のバース党党員と軍人を公職から追放したことで行政能力が低下。反政府組織も誕生し、混乱を収められずにいる。

変化する対外関係

 次に気になるのが米国・EU諸国との関係の悪化だ。トルコは北大西洋条約機構(NATO)の一員で、南部軍事基地を米国や英国など、ISを空爆している有志連合の前線基地として提供している。

 さらにシリアから欧州を目指す難民の通過国である。それゆえ、米欧は強い姿勢に出られないと読んでいる。

 だがペンシルバニア州在住のギュレン氏の身柄引き渡しを求めるトルコ政府とオバマ政権の関係は早くもぎくしゃくしている。EUもエルドアン大統領の死刑制度復活を示唆する発言に強く反発している。

 米欧との関係悪化は海外からの資金流入にマイナスの影響を与える。概ね好調なトルコ経済の弱点は慢性的な経常収支の赤字である。それを補てんしてきたのが海外からの直接投資や株式などへのポートフォリオ投資だ。日本企業もトヨタ自動車、ブリヂストン、日清食品、味の素、武田薬品工業など100社超が過去5年で投資している。しかし、マネーはリスクを極端に嫌う。強権手法で反対派をねじ伏せたリスクが、いずれエルドアン政権に跳ね返ってこないことを願いたい。

畑中美樹 (国際開発センター エネルギー・環境室研究顧問)

最終更新:8/29(月) 12:11

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