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ソフトウェア企業へと進化するGEのデジタル戦略

Forbes JAPAN 8/29(月) 8:30配信

2015年に稼ぎ頭の金融事業を売却したGE。なぜ、同社はソフトウエア企業を目指そうとしているのか?上級副社長兼最高デジタル責任者のビル・ルーに訊く、デジタルの世界で勝つ「魔法の方程式」。



「これまでの仕事で最も難しく、そしてつらい決断だった」

GEの会長兼CEO、ジェフ・イメルトがそう言って声を詰まらせたことがある。2015年7月9日、東京・六本木のグランドハイアット東京には社員250人ほどが集まっていた。

ー本当にやるんですか?

来日したイメルトはそこでGEキャピタルの売却理由を問われ、感傷的になったのだ。あっけにとられる社員を前にイメルトはこうつぶやき、会場を後にしたという。

「変わらなければならないのです」

確かに、それより7年前のリーマン・ショックのときGEキャピタルは瀕死の状態になった。同時にGE全体も深刻な状態に陥り、債務に対する巨額の政府保証を受けてようやく存続できた経緯がある。

それでも、GEキャピタルはその後もグループ全体の利益の半分近くを稼ぐ主力事業であり続けた。しかも、それは「20世紀最高の経営者」との呼び声も高いジャック・ウェルチ前CEOが築いた大切なビジネスモデルだった。

そのような稼ぎ頭を切ってまで事業ポートフォリオを変える理由は何か。デジタル化のうねりが、やがて製造業を覆い尽くし、そのあり方を根幹から変えてしまうー。イメルトには、そんな未来図が見えていたのだ。

リーマン・ショックの3年後、イメルトはある男と会っている。「イメルトCEOとは初対面でしたが、すごいセールスパーソンだと思いました(笑)。話しているうちに、彼が示す将来のビジョンに引き込まれ、あっという間に、この人と一緒に働きたいと思うようになったのです」

GE上級副社長兼GEデジタルCEOのビル・ルーは、そう笑う。当時、シスコシステムズの副社長だったルーは、それまで30年にわたってシリコンバレーで企業向けの統合アプリケーションの技術開発に携わってきた。いわばデジタルの先駆者だ。そんな彼をイメルトは、「これからのGEのデジタル戦略のすべてを任せたい」と口説いたのである。

これにルーは驚いた。

「まさか重工業企業のGEで働くことになるとは夢にも思っていませんでした。しかしそのころ、コンシューマー・インターネットには大きな変化が起きていました。それまで消費者だけのものだったIoT(モノのインターネット)が、産業界でも始まろうとしていたのです」

1878年に発明王トーマス・エジソンが創業したアメリカを代表する巨大コングロマリットのビジネスモデルを変える仕事ができるー。だが、ルーには「30万人の社員を抱えるこの企業を本当に動かすことができるのか」という迷いがあった。

「それこそ、それまでの成功体験が足かせとなって新興企業に後れを取ってしまうのではないか。そんな恐怖感みたいなものがありました」

その一方で、ルーには自信もあった。ソフトウエア業界で培ってきた「デジタル化を実現する魔法の方程式」である。

デジタルの世界で勝者になるために大切なのは、完璧な解決策を求めるよりもスピードだ。大企業にはなかなかそういった瞬発力がないかわりに、それこそ規模の経済ある。すなわち「スピードxスケール」によって、シリコンバレーのスタートアップに対抗できるのではないか、と考えたのだ。
--{ビジネスの進化で生き残る}--
ルーはイメルトの強力なバックアップのもと、向こう3年間で10億ドルの予算を獲得し、カリフォルニアにソフトウエアセンターを設立。そして2014年、産業用データを分析するソフトウエア「Predix(プレディックス)」を発表したのだ。

「そこはグリーン・フィールド(未開の地)で、脅威となる競合はいませんでした。我々はさらに、新組織GEデジタルを立ち上げ、20年までに50億ドルの売り上げ目標と、世界で500億台の産業機器をネットでつなげるというビジョンを打ち立てました。GEはソフトウエア企業を標ひょう榜ぼうし、世界全体でトップ10に入るという覚悟をもって臨んでいるのです」

クラウドを基盤にした開かれたプラットフォーム、それがプレディックスの最大の特長だ。プレディックスを採用する日本の住宅設備メーカー、LIXILのグループ会社では、毎月1,000件の施工を受注し、50社以上の施工業者が稼働している。

これまでの案件ごとに適切なチームを振り当てるオペレーションは煩雑で、それに関わるスタッフには高度なノウハウが求められていた。そこで、同社は自社仕様のプレディックスを導入。管理職や現場スタッフのノウハウをデータベース化し、それをクラウド上でひも付け、業務効率を改善することができた。

このように、顧客はプレディックスを使ってさまざまなアプリケーションの開発ができる。つまり自由にカスタマイズし、柔軟にビジネスモデルを変えることができるのだ。

環境変化に合わせ、進化し、かたちを変えていくー。その発想はGEの変遷に重なるのでは?そう問うと、ルーはけむに巻くように笑った。

「イメルトが、なぜ私をGEに呼んだのか。プレディックスは、そんな質問に対する答えになっているのかもしれませんね」

Bill Ruh ビル・ルー◎GE上級副社長兼最高デジタル責任者、GEデジタルCEO(最高経営責任者)。カリフォルニア州立大学大学院修了。シスコシステムズのバイス・プレジデントなどを歴任し、2011年にGE入社。同社のインダストリアル・インターネット戦略を統括する。


GEが開発したインダストリアル・インターネットの秘密兵器

GEが開発した「Predix(プレディックス)」はクラウドベースの産業用ソフトウエア・プラットフォームである。産業機器がネットワーク化した「インダストリアル・インターネット」の時代を迎え、GEも自らが手がける発電所などでプレディックスを活用し、すでに生産性向上に成果を上げている。

だがプレディックスは、GEのような重工業企業のためだけのものではない。これからの世界がデータアナリティクスの価値を社会全体で活用できるようにするためには、オープンで水平展開が可能なシステムが不可欠。プレディックスは、そんな発想に基づいて開発された。

日本では、ソフトバンクがGEと戦略的提携を締結し、外販を担っている。住宅設備・建材メーカーのLIXILのグループ会社はソフトバンクを通じてプレディックスを導入。複数の業者が関わる煩雑な工事プロセスを改善させた。そして、そのデータはクラウド上に蓄積され、付加価値となり、さらなる顧客満足の向上につながっている。

北島 英之

最終更新:8/29(月) 8:30

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