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宇宙へ羽ばたく「こうのとり」 ――宇宙ステーションへ物資を運ぶ日本の無人補給機

HARBOR BUSINESS Online 8/29(月) 16:20配信

 こうのとりと言えば、赤ちゃんや幸せを運んでくる鳥という言い伝えで有名である。残念なことに日本に生息する種は絶滅危惧種となってしまったが、人工繁殖を経て野生へ返す活動が行われており、かつてのように日本各地に飛来する様子が見られる日が戻ってくるのではとの期待が高まっている。

⇒【画像】ロシアが運用する「プログレス」補給船

 ところで、地球から高度約400kmの上空を飛んでいる国際宇宙ステーションにも、こうのとりがたびたび飛来する。日本が開発した無人の補給船「こうのとり」である。この機械仕掛けのこうのとりは、文字どおり一寸先は闇、孤立無援の宇宙空間で、宇宙飛行士が生きるのに必要な空気や水、食べ物などを運ぶ、きわめて重要な役割を担っている。

 以前配信した記事でお伝えしたように、三菱重工は2016年7月26日、愛知県飛島村にある同社飛島工場で製造中の「H-IIB」ロケット6号機の機体を報道関係者に公開した。今回はこのH-IIBロケットで打ち上げられる、日本の宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)について紹介したい。

◆各国と協力して補給物資を運ぶ「こうのとり」

「こうのとり」は宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発した無人補給船で、国際宇宙ステーション(ISS)へ酸素や窒素などの空気、食料品や水といった人が生きるのに必要な物資をはじめ、衣服や日用品、さらにISSの実験装置や、予備の部品などを輸送することを目的としている。搭載可能な補給物資の質量は約6トンにもなる。

 ISSへの補給を終えたあとは、地球の大気圏に再突入して処分される。その際、機内にはISSで発生したゴミが積み込まれており、機体もろとも処分する役目ももっている。

「こうのとり」の全体は缶のような円筒形をしている。全長は約9.8mで、直径は約4.4m。補給物資を満載した状態の質量は約16.5トンにもなる。これほど大きく重い宇宙船を飛ばすのは大変で、従来日本がもっていたロケットは能力が足りず、そのため前回紹介した日本最大のロケット「H-IIB」が開発された。(参照:「これが三菱重工のロケット工場だ! 日本最大のロケット「H-IIB」6号機を見てきた」)

 製造は三菱重工や三菱電機、IHIエアロスペースなど、日本を代表する航空宇宙企業が共同で手がけている。H-IIBの組み立てが行われる飛島工場でも製造過程の一部を担っており、筆者らが見学に訪れた際にも別の部屋で何らかの作業が行われていたはずだが、「こうのとり」は宇宙で動くため、ロケット以上に慎重な取り扱いが必要となる。とくに製造中は塵や埃が入り込んだり、付着したりすることもっての外なので、その現場に部外者がやすやすと入ることはできず、これまで公開されたことはない。

◆各国の補給船、そしてこうのとりの「役割」

 ちなみに米国やロシアの宇宙機関や民間企業も、能力や性能に違いはあれど、「こうのとり」のような無人の補給船を運用している(かつては欧州の宇宙機関も運用していた)。これら補給船には、それぞれにできること、できないことがあるが、それは優劣というよりは、それぞれの特長や目的、あるいは用途の違いと言ったほうが良い。

 たとえば「こうのとり」は、一度にISSへ輸送できる荷物の大きさが最大という特長をもつものの、他の補給船はその代わりに「こうのとり」より打ち上げ頻度が高い。また、ロシアの補給船はISS全体を押し上げるようにして軌道を変えることができるが、「こうのとり」や米国の補給船にはできない。さらに「こうのとり」はISSに自動でドッキングできず、一旦ロボット・アームで捕まえ、それを操作することで結合する。ロシアなどの補給船は自動でドッキングができるが、一方で「こうのとり」のほうがISSとの間の出入り口が大きく、ロシアの補給船よりも大きな荷物を出し入れすることができるという特長がある。

 つまりどの補給船が欠けてもISSの運用に多かれ少なかれ影響が出るため、それぞれの特長を活かしつつ、互いに連携して運用され、ISSと、そこで暮らす宇宙飛行士の生活を支え続けているのである。

◆1号機から5号機まで連続成功

「こうのとり」は2009年9月11日に1号機が打ち上げられた。正確には技術実証機という位置付けで、とくに日本がこれほどの大型の宇宙機を、それも人が住んでいる施設へ向けて飛ばすのは初めてのことだったため、慎重な運用が行われた。結果的には、細かなトラブルを除けばおおむね順調に進み、無事にISSとの結合に成功。補給を終えた後、同年11月2日に地球の大気圏に再突入して処分され、運用を終えた。

 なお、このときはまだ「こうのとり」という愛称はなく、計画・開発時からの名称である「HTV」とのみ呼ばれていた。HTVとはH-II Transfer Vehicle(H-IIロケットで打ち上げる輸送機)の頭文字から取られている(その後、実際に打ち上げるロケットはH-IIBになったが)。

 その後、2011年に2号機が打ち上げられ、このとき一般公募によって「こうのとり」という愛称が付けられた。そして2012年に3号機、2013年に4号機、2015年に5号機が打ち上げられ、細かなトラブルはいくつかあったもののおおむね順調に運用され、ミッション自体はすべて成功を収めている。

 こうして運用が続く中で、それまで輸入品を使っていた部分を国産部品に変えたり、運用をより効率良くできるように手順を見直したりといった改良が徐々に行われており、また、NASAから緊急で送り届けなければならない物資の輸送を任されるなど、他国からの信頼と実績も重ねてきている。

 そして現在、6号機の打ち上げ準備が進んでいる。機体はすでに打ち上げが行われる種子島宇宙センターにあり、また先日公開されたH-IIBロケット6号機も同センターに到着。それぞれ試験などを経て、最終的にロケットの上に「こうのとり」が載せられ、最後の試験などを行った後に打ち上げられる。

 なお、当初打ち上げは2016年10月1日に予定されていたが、「こうのとり」6号機を種子島宇宙センターで試験中に、小型エンジンの燃料配管に漏れが見つかったため延期が決定された。新しい打ち上げ日の目処は立っておらず、未定となっている。修理のためには一度機体を分解する必要があり、最低でも1か月は必要になるという。

◆「こうのとり」の未来

「こうのとり」は今後、9号機まで運用されることが決まっている。そしてその後は「HTV-X」と名付けられた、改良型の「こうのとり」の運用に移ることが計画されている。

 HTV-Xは「こうのとり」の設計を全面的に見直し、より多くの物資を積み込めるようにしたり、エンジンなどの取り付け場所を変えることで運用性を向上させたりといった改良が施される計画で、製造コストは今の「こうのとり」の約半分になり、運用コストも低減できるという。すでに今年度(2016年度)からすでに開発が始まっており、初打ち上げは2021年度に予定されている。

 またHTV-Xやその技術は将来的に、ISSとは別の軌道や、月や火星へ行く際の足となる「軌道間輸送機」や、さらに無人のカプセルを積み、宇宙で実験した試料(マウスなどの生物や、新しい材料など)を地上へ回収することができる機体への発展も考えられている。

 となると、誰もが期待する次の発展の形は当然、人が乗れる有人宇宙船だろう。残念ながら、現時点でそのような計画や構想はない。そもそも、ISSと地球との往復にはロシアや米国の宇宙船が使えるし、ISS以降の有人宇宙活動も、日本が単独で何かを行うという可能性はほとんど無いため、日本が独自の有人宇宙船を開発する必要性は乏しい。また、宇宙から安全に帰還する技術や、宇宙船の中で人が生活するためのシステムなど、これから開発しなければならない要素もまだ多いが、日本の宇宙予算には、その開発に割ける余裕もない。

 しかし、「こうのとり」の開発と運用によって、日本は有人宇宙船につながる、技術の一端を手にすることができたのは事実である。そしてHTV-Xによって、その技術はさらに磨かれていくことだろう。

 今後も着実な歩みを重ね、そしていつか時代が許し、そして求めれば、「こうのとり」が有人宇宙船という子供を連れて来てくれる日が来るかもしれない。

<文/鳥嶋真也>

とりしま・しんや●宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。

Webサイト: http://kosmograd.info/about/

【参考】

・宇宙ステーション補給機(HTV) – 宇宙ステーション・きぼう広報・情報センター – JAXA(http://iss.jaxa.jp/htv/mission/htv-6/)

・JAXA | H-IIBロケット6号機による宇宙ステーション補給機「こうのとり」6号機(HTV6)の打上げ延期について(http://www.jaxa.jp/press/2016/08/20160810_h2bf6_j.html)

・宇宙ステーション補給機 こうのとり」6号機(HTV6)の概要(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/060/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2016/07/08/1374186_1.pdf)

・HTV‐Xの開発状況について(http://www.jaxa.jp/press/2016/07/files/20160714_htv-x_01_j.pdf)

・HTV-X(仮称)の開発(案)について(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/059/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2015/07/16/1359656_5.pdf)

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:8/29(月) 16:32

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