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Fedは米株リターンが最低の9月に利上げを行うのか --- 安田 佐和子

アゴラ 8/30(火) 16:31配信

バロンズ誌、今週のカバーは配当銘柄の推奨トップ10を掲げる。不透明性と低金利の時代に突入するなか、2.4~4.3%もの高い配当利回りを誇る銘柄は通信大手ベライゾン・コミュニケーションズ(VZ)、保険大手メットライフ(MET)、製薬大手アブビー(ABBV)、 ダウ・ケミカル((DOW)、半導体大手クアルコム(QCOM)、ネットワーク機器大手シスコ・システムズ(CSCO)、 中低所得者層向け百貨店ターゲット(TGT)、クルーズ旅行大手カーニバル(CCL)、米銀JPモルガン・チェース(JPM)、米銀U.S. バンコープ (USB)が並んだ。詳細は、本誌(http://www.barrons.com/home-page)をご覧下さい。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリートは、マーケットを揺るがしたジャクソン・ホール会合に焦点を当てる。抄訳は、以下の通り。

Fedのジャクソン・ホール・サーカス―Fed’s Jackson Hole Circus

「ピエロは左に、ジョーカーは右に」とは、スティーラーズ・オブ・ウィーラーズの“Stuck in the middle with you”の一節だ。ジャクソン・ホールでのイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長の講演を受け、市場参加者の脳裏にこの歌詞が頭をよぎったに違いない。

中央銀行、著名エコノミストなどが結集するジャクソン・ホール会合以前にFed高官は利上げに反対する市民団体“Fed Up(Fedにはウンザリだ)”のメンバーと協議の場を持った。“Fed Up”が黒人やヒスパニック層に失業率低下を妨げると懸念するに対し、サンフランシスコ連銀のウィリアムズ総裁は「経済を活性化させ、失業率を低下させる」と返答していたものだ。

Fedと言えば18日(http://www.federalreserve.gov/newsevents/press/other/20160818a.htm)にフェイスブック・ページ(https://www.facebook.com/federalreserve)を立ち上げ、1万1,000件もの“いいね”を集めた。しかし、金融・銀行誌アメリカン・バンカーが“悲惨だ”と評したようにコメント欄は“嫌悪感”が渦巻き、ある者は「米国に存在する全ての問題の元凶」とまで舌鋒鋭く批判していた。

Fedの業績と言えば、インフレが挙げられる。と言っても消費者物価指数(CPI)ではなく、資産価格においてだ。バーナンキFRB前議長が量的緩和(QE2)を示唆した2010年(http://mybigappleny.com/2015/02/24/chronicle-qe-policychange-fed/)から、米国株の時価総額は100%以上(13.3兆ドル)も増加した。2012年9月にQE3を打ち出した当時からは、50%(8.6兆ドル)も増加している。同時に金利はゼロ近辺を推移し資産価格上昇の一助を担ったと同時に貯蓄者に打撃を与えてきた。持つ者と持たざる者の間で効果が分かれるだけに、持たざる者が怒りの矛先をFedに向けるのも致し方ない。

社会学や政治がFedの金融政策を左右すべきではないだろうが、決定を下す上での背景として存在する。もっとも、イエレンFRB議長はジャクソン・ホール会合で「ここ数ヵ月で、FF金利が上昇する論拠は強まった」と発言(http://mybigappleny.com/2016/08/26/yellen-jacksonhole/)。米雇用統計が6~7月に改善し非農業部門就労者数(NFP)の3ヵ月平均が19.0万人増となったためだろう。イエレンFRB議長のコメント直後には、フィッシャーFRB副議長が次回利上げの時期に対し、市場関係者が予想するより早まる可能性を示唆(http://mybigappleny.com/2016/08/26/yellen-jacksonhole/)した。

同副議長は「最大限の雇用と思われる水準に十分近づいている」、「インフレは昨年より高く、2%にたどり着いていないが、上昇中だ」と発言するに至った。事実上、フィッシャーFRB副議長は米4~6月期国内総生産(GDP)改定値が下方修正されたもののを一蹴した格好だ。アトランタ連銀の7~9月期GDP予測値が3.4%増、NY連銀の予測値が2.8%増と改善余地が大きいことも一因だろう。米8月雇用統計・NFPは前月比20万人増が予想されている。

フィッシャー発言をきっかけに、9月20~21日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)の利上げ織り込み度は1週間前から倍増の42%まで跳ね上がった。12月の織り込み度も62.6%と、50%付近だった前週から上昇した。

多くのFedウォッチャーが年内利上げを予想していなかったところ、ダドリーNY連銀総裁がマーケットが利上げの可能性を過小評価していると述べた点も印象的だった。ゴールドマン・サックスの主席エコノミストとして勤務してきた経歴を踏まえれば、同総裁が自身の発言がもたらす影響を意識していないはずはない。

ジャクソン・ホール会合を受け、米債利回りは基本的に上昇した。米2年債利回りは10bp上昇し0.845%と6月2日以来の高水準をつけ、米10年債利回りは5bp上昇の1.631%と英国民投票が行われた直後にあたる7月23日以来の高水準を示した。米30年債利回りのみ、2.55%から2.29%へ低下する程度だった。

米株安を迎えた局面で米債利回りは低下する傾向が高いものの、今回は米債安と米株安が同時進行した点は興味深い。公益事業セレクトセクター SPDR(XLU)は26日に2%下落し直近高値から7%下落し、iシェアーズ 米国通信 ETF(IYZ)は26日に0.5%下落しつつ直近高値から8.8%下落し、iシェアーズ 米国不動産 ETF(IYR)も26日に0.9%下落し直近高値から4.8%下落し年初来の上昇を打ち消した。

このようなパフォーマンスは近い将来の下落を先取りしているかは別として、9月は年間で最も弱いパフォーマンスを示す月だ。ストック・トレーダーズ・アルマナックによると、1950年以降でS&P500の9月平均リターンは0.5%安であり仮に9月だけに投資すれば資産の31.6%を失う羽目になるという。

9月と言えば、歴史を振り返ると1931年9月21日に英国が金本位制を停止し、54年後にあたる1985年にはプラザ合意によりドルが急落する事態が発生した。そのほか1873年(筆者注:1873年恐慌)、世界恐慌にあたる1929年、1987年(筆者注:ブラック・マンデー自体は10月も下落は9月に開始)、1989年(筆者注:10月のミニ・クラッシュ、航空持ち株会社UALへのレバレッジド・バイアウト資金調達の失敗に端を発した急落)、1998年のLTCM危機、2008年のリーマン・ショックと後を絶たない。

今年で言うなら、FOMCは9月20~21日に開催される。その約1週間後には、民主党と共和党の正式候補者による米大統領選・第一回討論会が実施される予定だ。討論会以前にトランプ候補、クリントン候補に関する暴露、情報漏えい、候補者の公約変更などが発生してもおかしくはない。



――無風で終わるかに見えたジャクソン・ホール会合を受け、フィッシャーFRB副議長の援護射撃により9月利上げ織り込み度は俄に高まりました。CNBCのFedサーベイでは次回利上げ時期が年明けに持ち越されるほどだったので、Fed関係者とすれば御の字でしょう。問題は、本当に利上げを行えるのか。過去3年間での米8月雇用統計・NFPは21万人増であるだけに、利上げの可能性が残ることは否定できません。ただし好調だった6~7月分の反動が現れる余地を残すほか、シスコ・システムズが5,500人の人員削減を発表したことも事実です。米株のパフォーマンスが9月に弱いという事実もあり、既に始まった感のある米株とFedのチキンレースでどちらが勝つかは不透明。9月利上げをめぐりdone dealと言い切るのは、早計かもしれません。金融危機後の政策決定では確かに9月に集中していたものの緩和策でしたから、今回とは勝手が違います。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE - NEW YORK -」2016年8月28日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE - NEW YORK -(http://mybigappleny.com/)をご覧ください。

安田 佐和子

最終更新:8/30(火) 16:31

アゴラ

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