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鳥貴族と塚田農場、「脱・ブラック居酒屋」を掲げるも思わぬ誤算

HARBOR BUSINESS Online 8/30(火) 16:20配信

 1990年代から2010年代初頭までの長きにわたり、圧倒的な低価格を実現、人気を博していたワタミなどの激安居酒屋。かつては「デフレの勝ち組」と呼ばれていたが、アベノミクスのあおりを受けて、求人倍率は上昇。雇用確保に高い賃金が必要になり、人手不足が生じたことで一転、こうした「ブラック外食」のビジネスモデルは限界を迎えた。

⇒【資料】鳥貴族・塚田農場の売上推移

 そこに取って代わる形で台頭してきたのが、「塚田農場」を手がけるエー・ピーカンパニーと、「鳥貴族」だ。両社はともに駅チカへの出店という居酒屋の常識を覆し、駅から離れた二等地に店舗を構え、地代を抑えた。

◆曲がり角を迎えた「ホワイト居酒屋」

 自前で農場を持つ「塚田農場」は「みやざき地頭鶏」というブランド鶏を育て、流通・商品企画に役立てる垂直統合モデルを確立。「鳥貴族」はメニューを鶏関連の簡単なものに絞り込み無理なく従業員の省力化を進め、「安い割に美味しい」価値を提供することで、急速に売上を伸ばしてきた。

「鶏肉」を軸にした新時代の居酒屋チェーンともいえる両雄だが、ここ1年で壁にぶつかっている。エー・ピーカンパニーの株価は1年で約3分の1に、鳥貴族も約2分の1に落ち込んだ。一体、何が起きているのか。決算書の分析により、深層に迫りたい。

 売上の推移を見ると、エー・ピーカンパニーと鳥貴族はほぼ同じペースで歩んできていることがわかる。

 ただ、出店数は塚田農場のほうが少ない。代わりに同社は高単価なオリジナル鶏料理を提供し、客層も大学生に限らず若手社会人も取り込んでいて、客単価が高い。しかし、ここ1年半ほど既存店の前年同月比で100%割れがずっと続いている。

 店舗数は伸びているため、トータルの売上高は上がっているが、既存店が稼ぎ出す利益は減少し、’15年度期は通期で前年比減益、最新の四半期決算ではついに最終赤字に陥った。

◆塚田農場はなぜ赤字化したのか?

 塚田農場の売上原価は30%ほどで、ワタミや大庄と比べて低い。自前で農場を持っていて原料の調達コストが安く済むからだ。その代わり、販売費および一般管理費の占める割合が高い。塚田農場はあえて駅から遠いところに出店しているので、店舗の宣伝コストがかさむのだ。

 店内では独特の衣装に身を包んだ店員が様々な工夫を凝らしたサービスを行っている。そうした従業員の教育コストも無視できない要因だろう。

 それでもきちんと客を獲得できていれば問題なく利益が出せるが、苦戦が続いている。一体、なぜだろうか。同社のウリであるリピート率の高さは、ここ1年も変わっていない。

 塚田農場にきたことがある人はフレンドリーな店員による接客と美味しい料理に高い満足感を覚えて、その後も来店する。

 問題はその頻度と絶対的な来客数の少なさだろう。

 ここからは筆者の実体験に基づく主観も入るが、塚田農場で普通に飲み食いするとだいたい3000円以上、4000円未満はかかる。安い焼肉屋の食べ放題などと競合してくる値段だ。とにかく安いところに行こうというときには選ばない。学生や若手社会人がそれなりにお金を使って飲み食いする際の選択肢には挙げられるが、絶対的な決め手には欠ける。カップルが行くところしても悪くはないが、ベストではない。

 ユニクロのように原料(鶏)の生産・流通・販売を一貫して行う垂直統合モデルの導入や、地代コストを抑える代わりに店舗の内装・接客や宣伝にお金をかける。そんな一味違ったビジネスモデルの構築は巧みだったが、肝心かなめの「誰がどういう目的で店に来るのか?」というマーケティングが甘かったのではないだろうか。

◆不祥事が相次ぐ「鳥貴族」の実情

 では、一方の鳥貴族はどうか。こちらはマーケティングの面では文句のつけようがない。とにかく安くそれなりに美味しいものを食べたい人が対象だ。大都市圏の大学生が友達と飲むのを安く済ませようというとき、一番初めに想起するのは、主要なメニューが280円均一で、キャベツがおかわりし放題の鳥貴族である。

 鳥貴族の売上高原価率は20%台で、エー・ピーカンパニーよりもさらに低く、ワタミの半分ほどである。

 同社は「安さにこだわれる秘訣は従業員の酷使によるものではない」と、精一杯PRしてきた。新卒ページでは「日本一の、ホワイト企業をつくろう」と謳い、実際、平均給与は446万円で、エー・ピーカンパニー、ワタミ、大庄といった同業他社のどこよりも高い。

「ただ焼くだけ」のような簡素なメニュー中心にしたことでオペレーションコストも抑え、店員に無理をさせないようにしているというのも同社のウリの1つだ。

 しかし、そんな鳥貴族では今年に入って不祥事が相次いで発覚している。4月には、鳥貴族のフランチャイズ会社の担当者が従業員400人分のマイナンバー情報を流出させてしまう事件が起きた。

 ドリンクサーバーに誤ってアルコール製剤の容器を接続してしまい、顧客にアルコール製剤入りの酎ハイを提供してしまった不祥事は今月起きたばかりで、まだ記憶に新しい。規模拡大のスピードに、従業員へのガバナンスが追いついていないのではないか。

 決算書を読み解くと、この疑問に答えるヒントが隠されていた。

◆従業員1人あたりの負担が増えている

 公開されている鳥貴族の製造原価を見ると、その内訳である原材料費・労務費・経費のうち、原材料費だけが明らかに伸びていて、労務費は3%ほどしか変動がないのだ。

 店舗を拡大し従業員を増やしているのに労務費が変わらないということは、従業員1人あたりのコスト削減が進み、負担は増しているということである。「メニューの簡素化」だけで負担はしのげるのだろうか。逆に、しのげるようにとメニューをより簡素なものに変えるのであれば、エンドユーザーへの提供価値を下げることになる。

 鳥貴族はやはりある程度、従業員に無理をさせており、アルコール混入などの事件は起きるべくして起きた、とは言えないだろうか。

 鳥貴族にはもう1つ懸念がある。ずっとプラスが続いてきた既存店の前年比売上高が、今年の4、5月にマイナスに転じたことだ。

 6、7月はまたプラスに戻したが、そろそろ天井が見えてきていると言える。店舗の面積が変わらなければ客数を増やすには限度があるから客単価を上げていく必要があるが、そうすると「激安」ブランディングと真っ向からぶつかることとなる。

 塚田農場も鳥貴族も、現在のブランディングと、それを実現するために構築したユニークなビジネスモデルの見直しを迫られている。しかも両社とも積極的な銀行借入によって負債も膨らんでいるため、着実にキャッシュを稼ぎながら会社の舵取りを変えるという荒技を強いられる。

 拙著『進め‼ 東大ブラック企業探偵団』では「外食ほど長期的な生き残りが難しい業界はなく、どこも寿命は5年だ」というメッセージを発した。デフレ時代の徒花となった「ブラック居酒屋」と同じ道を2社が辿らないことを祈りたい。

【決算書で読み解く、ビジネスニュースの深層】

<文/大熊将八>

おおくましょうはち○現役東大生にして、東大・京大でベストセラーの企業分析小説『進め!! 東大ブラック企業探偵団』(講談社刊)著者。twitterアカウントは@showyeahok

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最終更新:8/30(火) 18:27

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