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新聞社の元・報道写真家がSNS時代に伝える「写真を超えた何か」 - Q.サカマキ Instagramフォトグラファーズ

ニューズウィーク日本版 8/30(火) 10:54配信

<さまざまなテクニックやテクノロジーを巧みに組み合わせながらも、その匂いはほとんどしない――。アンリ・カルティエ=ブレッソンやウィリアム・クラインらを尊敬しつつも、典型的なフォトジャーナリストとして働いてきたリチャード・コッチ・ヘルナンデスが辿りついた境地>

 今回紹介する写真家は、リチャード・コッチ・ヘルナンデス。ヴィジュアルアーティストであり、カリフォルニア大学バークレー校でニューメディア・ジャーナリズムを教える准教授でもある。インスタグラムを中心とした写真・ヴィデオ界では、彼のミドルネームであり、インスタグラムのユーザーネームでもあるコッチとして知られている。

 コッチの作品には、なぜかアインシュタインのイメージがつきまとう。物理学者と写真家、まったく異なるように思えるが、2人とも感覚的エクスシーを極限まで追い求める人物だ。アインシュタインは、光と追いかけっこをした夢を見て、その視覚的感覚を追求した結果、相対性理論を生み出した。それまでの理論構築や実証実験は、それがどれだけ偉大なものであっても単なる過程だ。

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 それに対し、コッチは物理学の理論の代わりに、さまざまな写真アプリやテクニック、デジダル技術だけでなく、時には回帰的にフィルム時代のそれも取り入れながら作品を創り出している。光と影、構図、幾何学性、しばしば使われるダブルエクスポージャー、あるいはモンタージュ......そうしたものが、誇張されながら巧みに組み合わされている。

 だが、テクニックの匂いはほとんどしない。伝わってくるのは、写真を超えた何か。時に都会的で孤独で、研ぎ澄まされているのに重く、同時に飛び散ってしまいそうな感情の動き――彼の言葉を借りればコッチ自身の内面的な動き――である。また、ユーモアを見せてくれる場合もある。

"From there to here, and here to there, funny things are everywhere." -dr Suess #grammasters3 #tiny_collective Richard Koci Hernandezさん(@koci)が投稿した写真 - 2016 3月 5 7:12午後 PST




Artistically I am still a child with a whole life ahead of me to discover and create. I want something, but I won't know what it is until I succeed in doing it. Alberto Giacometti #tiny_collective Richard Koci Hernandezさん(@koci)が投稿した写真 - 2016 8月 10 6:23午前 PDT


Geometry is the language of time. Khalid Masood #tiny_collective Richard Koci Hernandezさん(@koci)が投稿した写真 - 2015 6月 28 9:14午後 PDT


 加えて、キャプション欄にはほぼ常に、著名人の引用が付け足されている。それはコッチの写真と相重なって、静的か動的かを問わず、よりエモーショナルな相乗効果を生み出している。

 とはいえ、テクニックを駆使し、自らのパーソナルな感情をも追い求めているその作品は、彼のキャリアを知っている者にとっては驚きだろう。なぜならコッチは、過去15年以上もサンホセ・マーキュリー・ニューズという新聞社で、スポーツや日々の事件の決定的瞬間をカラーで撮影する典型的なフォトジャーナリストとして働いてきたからだ。

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 だが彼自身には、過去と現在の間に葛藤はない。人間は年齢とともに成長する、それに伴って写真が変わっていくのは当たり前だという。また、現在の彼の写真の基盤はストレートに写真を撮る新聞社時代に築かれた。加えて、当時からコッチは、クラシックな白黒写真のストリートフォトグラフィーで名を馳せたアンリ・カルティエ=ブレッソン、ヘレン・レヴィット、ウィリアム・クラインらを尊敬し、プライヴェートでは、自らもフィルムでストリートフォトを撮影していたという。

 SNS時代のフォトジャーナリズムやフォトドキュメンタリーについても、彼はこう話す。SNSという大きなうねりがある今、写真にもそれを取り入れるべきだ――。コッチ自身、編集者やクライアントに恵まれた一面はあったにせよ、SNSを取り入れたからこそ幸運をつかめたという。マグナムのマット・ブラックやデビッド・アラン・ハービーも、SNSを巧みに利用し、それが2人のスタイルや写真そのものを、より個性的に、より力強いものにしていると、コッチは言う。

 大切なことは、SNSやテクノロジーがどう発展していこうと、自らのヴィジョン、情熱、そのクリエィティヴ性を信じることだ。そして、最も大切なことは昔も今も変わらず、決定的瞬間を頭ではなくハートで撮ることだ、と彼は締めくくった。

今回ご紹介したInstagramフォトグラファー:
Richard Koci Hernandez @koci

"So many people live their lives not knowing the real and exact reasons why they live. They follow anything for something and they do something for anything. When you live life with a blurry vision, you live a blurry life. Vision is life, and a life without vision is a dead life" -Ernest Agyemang Yeboah #grammasters3 #tiny_collective Richard Koci Hernandezさん(@koci)が投稿した写真 - 2016 3月 5 7:07午後 PST

Q.サカマキ

最終更新:8/30(火) 10:54

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