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「貧困たたき」と『「貧困たたき」たたき』には、どちらも具体策がない - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 8/30(火) 15:00配信

<NHKの報道番組をきっかけに巻き起こった「貧困たたき」と『「貧困たたき」たたき』の応酬は、どちらの側にも具体的な政策提案がないため議論が前進しない>

 NHKの報道番組の取材を受けて貧困の窮状を語った、シングルペアレントの家庭の高校生が、個人情報を特定されてインターネット上で中傷された事件は「貧困たたき」と名付けられています。

 なかでも、参議院比例区選出の片山さつき議員が、その取材を受けた高校生について、「ご本人がツイッターで掲示なさったランチは一食1000円以上。かなり大人的なオシャレなお店で普通の高校生のお弁当的な昼食とは全く違うので、これだけの注目となったのでしょうね」などというツイートをしたのが典型的な「貧困たたき」だとして批判を浴びているようです。

 この問題ですが、仮に超富裕層を10として、貧困で苦しんでいる層を1とした10段階で考えてみると分かりやすいと思います。片山議員のツイートは、確かに品はないですが、

「1のグループに再分配しろと7とか8のグループが大声を上げるたびに、再分配の恩恵を受けたくても受けられない自分たち3とか4のグループは怒りを覚える。まして、そのことを批判すると、7とか8のグループから、お前たちは1を差別する極悪人だと罵倒されるので二重の怒りを感じる」

 という「自称3や4」のグループを、自分の有権者層として意識しているということ、それ以上でも以下でもないように思います。

【参考記事】日本の貧困は「オシャレで携帯も持っている」から見えにくい

 一方で、こうした動きへの批判もあるわけですが、街頭でデモまであったというのには驚きました。「生活苦しいヤツは声あげろ 貧困たたきに抗議する新宿緊急デモ」というのが27日、東京・新宿であったそうです。作家の雨宮処凛氏も加わったことが新聞で報じられていますが、実際には政治家の福島みずほ氏も駆けつけていたようです。

 前者が「貧困たたき」であるのなら、こちらは『「貧困たたき」たたき』というわけですが、こちらもあまり筋のいい話ではありません。

 先ほどの10段階のカテゴリで言えば、「1を救え」という声の上げ方が「7とか8」のカルチャーに寄り添ったもの(ご本人たちには心外かもしれませんが)であり、結果的に「3や4」の不満を抱えた層へのバッシングという回路に入っているからです。

 「貧困たたき」も『「貧困たたき」たたき』も結局は同じことではないでしょうか?



 子どもの貧困というのは大変な問題です。まして、大学進学を希望しているのにそれが難しいという状況は深刻です。ただでさえ少ない若い世代の才能を伸ばすことができないというのは社会的損失ですし、そんな制度の下では社会階層が固定化して、学歴の世襲のために高学歴層が不活性化してしまうからです。

 同じことというのは、具体的な政策論がないということです。具体的・実務的な政策提案が必要で、その上での論戦を勝ち抜いていくだけの戦術・戦略が必要です。イデオロギーを同じくする人間にしか届かないメッセージ発信をして、自分たちのカルチャーの自己確認をしているだけでは、まったく前進は期待できません。

 政策論としては、やるべきことはたくさんあります。

【参考記事】2050年の「超高齢化」日本に必要な意識改革

 まず、社会の活力を高めるためにも、再分配を強化することは必要だと思います。その場合に、財源として富裕層課税、資産課税をした場合に富裕層の国内消費が細って国内経済が細り、その結果として貧困が進むのでは元も子もありません。その点を検証する必要もあるでしょうし、「そうではない」ということを証明できれば、論争にも弾みがつくのではないでしょうか。再分配に関しては、1だけが救われて2から4が放置されるのではなく、1から4まで全員が救われるような制度のありかたも考える必要があるでしょう。

 教育制度として、例えば教材費・修学旅行費や制服(なくしてしまうべきという考えもありますが)なども含めた高校以下の無償化を考える必要もあるでしょうし、奨学金制度の充実も必要です。また、大学などが新入生を選考するにあたって、貧困経験者のような「濃い履歴」に才能を感じるかという問題、またそのような才能を使いこなせる社会にしなくてはならないという問題もあると思います。

 シングルペアレントの年収が低い背景には、残業のできない人間は「正規雇用になれない」という、世界中でほぼ日本だけの状況をどうするのかという問題がまずあり、これに加えてもう一方の親の養育費の支払いに強制力を持たせるような制度改正も必要でしょう。

 日本経済全体が成長する仕組みについての議論も必要です。空洞化に歯止めがかからない中、日本企業が繁栄すればそれでいいのか、それとも空洞化をスローダウンさせるような政策・税制が必要なのか、あるいは海外で生まれる利益をもっと還元させる仕掛けができないのか、といった観点は非常に重要です。

 日本の1人あたりGDPは、既に3万5000ドルを割っています。3万ドルを割るということは、要するに先進国から脱落するということで、子どもの貧困どころか、国全体が貧しくなるということです。その意味で、「もう成長はいらない」などという言説こそ、貧困問題の最大の敵だという考え方も必要だと思います。

冷泉彰彦

最終更新:8/30(火) 15:01

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