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「患者らしく」より「自分らしく」 株式会社TOKIMEKU JAPAN塩崎良子さん - 湯川鶴章 湯川鶴章のテクノロジーフィクション

ニューズウィーク日本版 8/30(火) 16:00配信

<ファッションバイヤーとして世界を飛び回っていた30代前半の時に乳癌の告知を受け、治療の副作用で「キラキラした」自分も失わなければならなかった癌サバイバーが、お洒落で思いやりのこもった癌患者向けのお見舞いギフトボックスを作った。辛い経験から学んだこととは?> 

 塩崎良子さん(35)が乳がんで入院したときのこと。多くの友人が見舞いに来てくれ嬉しかったが、癌になると生活が変わり、せっかくいただいたお見舞い品を使うことができなかったという。癌サバイバーだからこそ分かる、癌患者に必要なお見舞い品。株式会社TOKIMEKU JAPANを経営する塩崎さんは、癌患者に贈る最高にお洒落でハートフルなお見舞いギフトボックス『TSUNAGU-BOX』を9月2日よりクラウドファンディングでリリースする。

 ギフトボックスの中には患者さんが本当に欲しいと思う厳選した商品と、患者さんを想う気持ちを詰め込むつもりだ。

【参考記事】「支える人を支えたい」慢性疾患の重症化予防ベンチャーに参画した研究者 小坂志保 

 例えば、癌の経験者や医師からのはげましの言葉が入った冊子や、抗ガン剤治療で髪の毛が抜けた際にかぶるおしゃれなケア帽子などだ。「癌患者のケア用品って、全然おしゃれじゃないんです」。ケア帽子はアパレル会社と提携して、デザインと品質に徹底的にこだわって製作した。癌になっても自分らしくあってもらいたいんです」と塩崎さんは言う。「患者さんが、周りの人たちがギフトボックスに詰めた想いを受け取って、その想いを、辛い治療をを乗り越えるエンジンにしてもらえればいいなと思っています」。

キラキラしていたのに

 塩崎さんは小さなころから、おしゃれが大好きな少女だった。大人になったらセンスと感性を生かす仕事をしたい。そう考えていた。社会に出てからは、ファッションバイヤーとして世界を飛び回ったあと自ら起業し、セレクトショップやレンタルドレスショップを自ら経営した。乳癌の告知を受けたのは、自分の夢が叶いつつある、キラキラとした人生のまっただ中だった。

【参考記事】抗酸化物質は癌に逆効果? 

 目の前が白黒の世界になった。どうして自分にこんな運命が押し寄せたんだろう。



 治療がうまく行かず、放心状態になったこともあった。美しさを仕事として提供してきた自分なのに、自分自身は抗癌剤治療で顔がむくみ全身の毛が抜けた。「エイリアンのような」醜い容姿になっていたと言う。

 いろんなことを考えた。このままだと恋愛ができないのではないか。子供が持てないかもしれない。頭の中が不安でいっぱいになった。

 そしてときおり押し寄せる死の恐怖。死の何が怖いのか、紙に箇条書きすることで恐怖に打ち勝とうとした。

「女性の美しさ」についても考え抜いた。これまでの仕事は華やかではあったが、どこかに自分自身の薄っぺらさを感じていたのも事実。本当の「美しさ」って何だろう。自問自答が続いた。

乳癌患者のショー

 そんなとき主治医から、乳癌患者だけが登壇するファッションショーを開催してはどうかと持ちかけられた。自分の選んだファッションを、癌患者たちが本当に着たいを思ってくれるのだろうか。分からなかった。

 でも当日は、治療中の患者でさえ勇気を振り絞ってモデルとして登壇してくれた。ランウェイでは癌患者の女性たちが、みんなまぶしく輝いて見えた。「美しさって外観だけじゃない。女性の本当の美しさってこういうことなんだなって思いました。限りある人生、今この瞬間を、自分らしくまっとうする姿なのかも知れないって思ったんです」。

 今は一応、治療はすべて終わった。再発しないか経過観察中だ。仕事を再開することにしたが、前の仕事をもう一度したいとは思わなくなっていた。

「病気って、人生の問題点を浮き彫りにしてくれるんだって気付きました」。

 本当に自分がしたいことは何なのか。自分の欲しいものは何なのか。

 病気はそれを教えてくれた。

 病気になってよかった?とちょっと意地悪な質問をすると「いえ、苦しいことのほうが多いので病気になってよかったとは決して思えないけど」と言ってから黙った。そしてしばらくしてきっぱりとした口調で「でも価値ある体験だと思います」と語ってくれた。



 今もまだ再発の可能性が、残っている。「治療中は癌細胞という倒す敵がいるので、そこに集中していればよかった。でも今は、無治療になり、もしかしたら突然、敵が飛び出してくるか分からない状態。気持ちを奮いたたせるのに少しだけパワーがいるんです」。

 時々、不安に押し潰されそうになる。でも、仕事を始めたことで、病気のことを考える暇もなくなった。

「事業を将来的にこんなふうにしたいという思いはありますが、それよりも今できる事を精一杯やる。一日一日、今この一瞬、自分の人生にトキメいていたい。そういう風に気持ちを切り替えるようになりました」。

患者ではなく自分として

 癌患者は、自分のアイデンティティが癌患者になり、時として、社会やマスコミが作り出した「癌患者」という「枠」に、いつの間にか自分を押し込めてしまう。そして次第に「自分らしさ」を失ってしまうケースが多い。「私も癌ザバイバーの一人として、このビジネスを通じて、患者として生きるのではなく、『自分らしく』生きていきたい。逆境をかかえる多くの人たちと共に人生のもつ喜びとトキメキを共有したい」。塩崎さんは、そう願っているのだと言う。

 見た感じは、20代前半。話を聞かなければ、苦労を一切知らないようなお嬢様に見える。ビジネスの最前線にいる起業家で、しかも癌サバイバーに向かって、そう感じるのは失礼かなと思ったのだが、「若く見えますね」と素直に感想を述べた。

「そう言われるのが一番うれしいんです。ビジネスセンスがありますね、とか、優秀ですね、って言われるより、若いですね、って言われたい。そう言ってくれた人のことは一生忘れませんから!」とお茶目な笑みを浮かべた。

 癌サバイバーではなく、自分らしく生きている女性の美しさが、そこに見えたような気がした。

2歩先の未来を創る少人数制勉強会TheWave湯川塾主宰
有料オンラインサロン

湯川鶴章

最終更新:9/9(金) 15:14

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