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文化遺産ならぬ顔面遺産!? 抱腹絶倒の「本人遺産」を語る 『本人遺産』 (南伸坊 著)

本の話WEB 8/31(水) 12:00配信

顔をキャンバスにして似顔絵を描き写真を撮る、南伸坊さんの「本人術」。ありとあらゆる人になりきってきた今、その面白さについて伺いました。

――南さんが30年にわたり続けてこられた本人術ですが、この8年は「オール讀物」の「今月の本人」で毎月いろんな人物として登場し、先日惜しまれながらも完結いたしました。そしていよいよ『本人遺産』として刊行されます。『本人伝説』に続き、笑いすぎて涙がとまらない本になりました。

南 月刊だと、こいつは面白いぞと思っても雑誌が発売されるころには当の本人が話題にものぼらなくなってたりで、タイミングがうまくあわないってのが気になって……。

――事件も話題も次から次へと、昔に比べてあっという間に消費されるようになったからでしょうか。

南 そうですね。1年まとめて振り返ったときに、あれ?この人なんでやらなかったのかな、とかね。

――「本人」はどのように選ばれていたんでしょうか?

南 やっぱり顔ですね。顔が面白い人のほうが事件が面白い。事件として面白くても顔が面白くないと選ばないですけど(笑)。

「よく顔で決めるな」とか言いますけど、やっぱり顔でわかることってあると思うんですよ。そう思っているからずっとこんなことやってるんですけど。たいていの人は、顔でどこか判断してる。「本人遺産」の巻末に収録した東海林さだおさんとの対談で、「なんで似ていると面白いのか」って話になったんです。東海林さんになかなか納得していただけなかったんですけど、今考えると、似ていると面白いっていう現象から入ったからなんです。「顔をみればその人がわかる」という考えが実は大前提としてある。ところがその人じゃない人が、つまりぼくですが、その人になって出てくるわけですよね。それがまず、ヘンなんですね。それでおかしい。その人について見る人自身が持っている考えと、ぼくが作った本人の顔が一致してたり、または齟齬があったり、で一瞬のうちに脳が活性化する。それが「面白い」ってことなんじゃないかなと。最近、自分でもそのへんがわかんなくなっちゃってて、何が面白いんだろう?だったんですけど。

――南さんご自身は一致も齟齬も知った上で「本人」をやっているから、脳が活性化する面白さとは違うんですね。

南 そうですね。似たとか似なかったとかで一喜一憂してるだけで(笑)。

――読者は本人の写真を見る面白さに加えて、文章も笑わずにはいられないものですが、これは本人になられたときの状態で書かれているんでしょうか?

南 前は本人が降りてくるんですとか言ってたんですけど、嘘です(笑)。まァ理想は、本人の顔そのままで書くことなんですけど、実はそれもしてない。でも、いったんその人になっちゃったら、もう他人じゃないですからね(笑)。

――羽生結弦さんの頁では、本人が本人を「写真がショック。信じらんなーい」などと批判しています(笑)。

南 本人なら、もうそう言うしかない(笑)。事件の主人公に対して、こういう種類の戯れ文てだいたい皮肉な見方で書くのが普通なんですけど、「本人の立場になる」とそういう当り前とは違う考えにならざるを得ないんですよ。李明博になったらどうしたって、対馬、韓国領にしたくなっちゃう。人はそれぞれの立場がないと生きていけないので、とんでもないような考えの本人になったら、とんでもなくなるしかない。ぼくはそういう危険なことをやってるんです(笑)。

――まえがきに出てくる「イチロー」選手は撮影したけれど収録されなかったそうですが。

南 アハハ、ぜんぜん似なかったんです。前にやってできたっていうのがあったからショックでしたね。カメラマンに言わせると「何年前にやったんだ」って(笑)。いまのイチローの顔よりも、もっと若いころをぼくがイメージしてるってのもあるのかなあ。まだ若かったんですよ、やった時は。

――似る似ないの厳しいラインがあるんですね。

南 すごく似てんのに写真のピントがあってない場合カメラマンの許可がおりなかったりネ(笑)。最近は、女の人になるときがキツイですね。上から光があたるとオデコの横じわがはっきりわかる。オデコの横じわってあると女の人に見えないんです。しわがこんなに顔の印象を作るんだってことが最近わかりましたね。こんなことは女の人は百も承知なんでしょうけど。

 前にヨン様(『本人伝説』収録)をやったときに、印刷所で肌の感じをちょっと直してもらったらものすごくキレイになっちゃって。これやりだすとキリがないと思って写真いじるのはやめました(前作でどうしてもうまくいかなかった篠山紀信さんのカツラを写真で修正した以外は修正なしです)。ところが今回、壇蜜さんのときに明らかにオデコのしわが決定的にダメで……(笑)。カラーでやったオビの写真だけはいじりました。

――南さんがこれまで何百人と本人になられてきた中で特に印象的だったという人はいますか?

南 『本人の人々』(マガジンハウス刊)のときなんですけど、猪瀬直樹。これが似ないんですよ。本当に苦労した。前の仕事場で、鏡の前で顔を作って行くと、編集者とカメラマンが談笑してる。ドアを開けるとこっちを見て、またすぐ話に戻っちゃったんですよ。似てたら「あ、」とか、なんか反応があるじゃないですか。それが全然ない。しょうがないからまた鏡の前に戻って、どうしたら似るんだろうって孤独な作業のやり直しです。結局、形とかより感情なんですよ、表情。猪瀬さんって討論とかしてるとき、何度言ってもわかんないヤツだなあ、もう、「ダ・カ・ラァ……」って顔するじゃないですか。あの気持ちであの顔で入っていったら二人が「アッ!!」って言ったんです(笑)。今作のまえがきで、顔かたちというのは日常の表情の集積だって理屈を書きましたけど、本当にそうだなと。毎日している表情がその人の顔の印象を作っていく。顔の印象が寂しい人で本当はすごく快活な人ってあんまりいないでしょう? やっぱりそういう顔になっていくんですね。人を顔で判断できると思っている人に濃淡があるように、自分の顔に無頓着な人とそうでない人がいる。美人でも自分の顔に無頓着な女の人と意識している女の人では違う。毎日の表情の積み重ねで生まれもったかたちだけじゃないものが出てきますよね。

 顔ってみんな持っているものだからわかっているはずなんだけど、どうわかっているかはわからない。似顔絵とか顔真似とか見ていてなんかの拍子にそのカラクリが垣間見えることがあってそれが面白いんじゃないのかなと思ってます……って、やってることがものすごくバカバカしいくせに大層な理屈を言う、って所がまたおかしいんだけどね(笑)。

南伸坊(みなみしんぼう)

1947年東京生まれ。イラストレーター、装丁デザイナー、エッセイスト。TIS会員。
単著に『おじいさんになったね』『ねこはい』『オレって老人?』『本人伝説』などのほか、共著に『老人の壁』『ハリウッド黄金期の女優たち』『丁先生、漢方って、おもしろいです。』など多数。

聞き手:「本の話」編集部

最終更新:8/31(水) 12:00

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