ここから本文です

表紙とは裏腹なサイバーパンクだったのか? 吉川兵保『アキバ戦記 異能力を封印した俺が、2.5次元の姫を護衛する』

おたぽる 8/31(水) 11:00配信

 ラノベの呈を装っているけど、ガチなSFなんじゃなかろうか。

 そんな感想を抱いたのが、吉川兵保『アキバ戦記 異能力を封印した俺が、2.5次元の姫を護衛する』(角川スニーカー文庫)である。

 まず、あらすじを説明しておこう。物語の舞台は近未来の秋葉原である。この世界における秋葉原は、世界のどこの国にも属さない自治都市になっている。そして、そこの住民たちは二次元を具現化するような超能力の持ち主なのである。数年前、その得意な能力に恐れをなした世界中の軍隊は秋葉原に進行。しかし、その危機は英雄「蒼蛇」によって、救われたのである。

 ところが、世界を救ったはずの「蒼蛇」は、ネットで厨二病的なネーミングセンスゆえに嘲笑の的に。おまけに、掲示板に本人が降臨して名前を由来を説明したりしたものだから、さらにひどい事態となってしまったのである……。

 こうして、己を恥じた「蒼蛇」は、過去を隠して、本名・田中田作として高校生活を送っていた。そんな彼は、かつての能力を知る恩師から、秋葉原を統治する「アキバ王」の娘であるリシェーラの護衛任務を命じられた。

 こうして始まる物語であるが、まず度肝を抜かれるのはぶっ飛び過ぎた設定である。冒頭のプロローグでは、かつての「蒼蛇」の活躍が描かれ、そして本編へと移行していく。

 その中で、この世界の秋葉原がどういう都市であるのか、主人公たちはいかなる能力を持っているのかという説明は行われる。行われるんだけど、設定が珍妙すぎて、まったく頭に入ってこないのである。一読してわかるのは、とにかくキモヲタの妄想がなんでも実現できそう、だけど能力を使って悪事を働くヤツもそんなにいない、優しい世界といったところか。

 そんな、読者がついていけない世界観になっていれば「駄作」として終わるところだろう。

 でも、本作が不思議なのは読ませてしまうところにある。なぜなら、ただでさえ、頭のおかしい物語なのに、頭のおかしすぎる設定が挿入されていく。おまけに頭の悪そうな設定も挿入されていく。それが、妙な感じに脳を刺激していくのである。

 とりわけ、リシェーラが登場する前段での「アキバ王」の説明がヒドすぎて笑える。

 なんでも「アキバ王」は架空の存在に命を吹き込むという、とんでもない能力を持っていて、リシェーラの母である彼の妻・黒姫エトワールはギャルゲーのキャラクターという設定なのである。ここで読者は、あっけにとられるだろう。この世界、三次元で二次元を嫁にすることができる次元の壁を超越したことが可能になっているのだと。

 こうしたぶっ飛んだ設定を繰り返し提示することによって、物語を追いながらも、脳の想像力が追いつかず痺れる感覚に囚われる。だから、どうしても「駄作」とは思えず先を読んでしまうのだ。

 この脳が痺れるという感覚で思い出されるのは、ウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』であろう。サイバーパンクの古典的小説ゆえに、読んだことのある人も多いだろうが、あれも名作とはいわれているけど最初は「なにが書いてあるか、よくわからん」と読んでいて混乱した人が多いハズ。この作品は、それと似たような感覚を与えてくれるのだ。果たして、これは作者の意図したものなのか、偶然の産物なのか。いったい、ほかの人はどんな感想を抱いているのかと、Amazonのレビューを見てみれば、レビューは2件だが星5つ。

 どうも超マニアックに支持を受ける作品の様子。好きか嫌いか、まずは各人が読んでみて判断することをオススメしたい。
(文=是枝了以)

最終更新:8/31(水) 11:00

おたぽる

なぜ今? 首相主導の働き方改革