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警官が黒人を射殺する理由、アメリカ社会の欺瞞を告発する

Wedge 8/31(水) 11:20配信

■今回の一冊■
Between the World and Me
筆者 Ta-Nehisi Coates
出版社 Spiegel & Grau

 当然のように黒人が警官に射殺されるアメリカ社会の欺瞞を告発する書だ。黒人のジャーナリストが自身の15歳の息子に語りかけるスタイルで書き上げた。黒人に生まれた以上、些細なことで警官に殺されるリスクがあるから気をつけるよう、息子に切々と訴える内容だ。黒人奴隷を酷使して経済的な繁栄の基礎を築いてきたアメリカでは、アメリカン・ドリームなど幻想だと戒める。

 黒人を虐げてきたアメリカの歴史に対する怨嗟、消えてなくならない黒人差別から目を背けるアメリカ社会に対する怒りに満ちた書だ。将来に甘い希望を持つことなく、自分の身を守るよう息子を教え諭す。息子にあてた手紙というスタイルを貫いており、現実との妥協や打開策を模索する姿勢をまったくみせない。

「奴隷であった期間の方が、 自由の身になってからの時間よりも長い」

 人種差別というアメリカ社会の闇が浮き上がるだけで、まったく救いのない本だ。しかし、50週以上つまり1年以上にわたり、ニューヨーク・タイムスのベストセラーリスト(ノンフィクション単行本部門)にランクインを続ける超ベストセラーだ。

 本書の主張は次の一文に集約されるだろう。

 In America, it is traditional to destroy the black body―it is heritage.

 「アメリカでは昔から黒人の体を破壊する伝統が続いている―これは定めなのだ」

 この夏も、アメリカでは丸腰の黒人青年が警官に射殺される事件がいくつか起きた。本書の主張にならえば、アメリカは昔から黒人を殺し続けているし、これからも同じことが続くということだろう。筆者はだからこそ、自分の息子に気をつけろと次のように警告を発する。

 ・・・・the police departments of your country have been endowed with the authority to destroy your body. It does not matter if the destruction is the result of an unfortunate overreaction. It does not matter if it originates in a misunderstanding. It does not matter if the destruction springs from a foolish policy. Sell cigarettes without the proper authority and your body can be destroyed. Resent the people trying to entrap your body and it can be destroyed. Turn into a dark stairwell and your body can be destroyed. Destroyers will rarely be held accountable. Mostly they will receive pensions. And destruction is merely the superlative form of a dominion whose prerogatives include friskings, detainings, beatings, and humiliations. All of this is common to black people. And all of this is old for black people. No one is held responsible.

 「・・・・お前の国の警察は、お前の体を破壊する権限を与えられてきた。破壊が不運な過剰反応の結果なのかどうかは問題ではない。誤解から破壊が生じたのかどうかも関係ない。破壊が馬鹿げた政策のせいなのかどうかはどうでもいい。ちゃんと許可をとらずにタバコを売ると、お前の体は破壊されるかもしれない。お前の体を拘束しようとする人々に抗うと、お前の体は破壊されかねない。暗い階段に身を入れると、お前の体は破壊されうる。破壊者たちが責任を問われることはまれだろう。むしろ、破壊者たちはほとんどの場合、何事もなかったかのように勤め続け、退職した後は年金を受け取るだろう。また、破壊とは支配権の最上の様式にすぎない。支配権が持つ特権には、身体検査や拘留、殴打、辱しめることも含むのだ。黒人にとってこれらのことはすべて、当たり前のことだ。また、黒人にとって、これらのことはすべて昔からあることだ。誰も責任を問われないのだ」

 結局は、黒人の奴隷を利用して繁栄したアメリカにおいて、黒人差別がなくなるという楽観を筆者は持てないでいる。息子に呼びかける次の一文も印象に残る。

 Never forget that we were enslaved in this country longer than we have been free.

 「けして忘れるな。われわれはこの国で、奴隷であった期間の方が、自由の身になってからの時間よりも長いことを」

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最終更新:8/31(水) 11:20

Wedge

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