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北朝鮮、潜水艦発射弾道ミサイルの発射に成功。大きな脅威となりうる技術習得の可能性も

HARBOR BUSINESS Online 8/31(水) 16:20配信

 以前お伝えしたように、今年6月22日、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)は新型の中距離弾道ミサイル「ムスダン」(火星10)の発射試験に初めて成功した(参照:「ついに発射成功か 北朝鮮の中距離弾道ミサイル『ムスダン』、その実力とは」)。それから2か月が経った今、北朝鮮はさらに新しい武器を手に入れたようである。

 北朝鮮は8月24日5時29分ごろ(日本時間、以下同)、東部ハムギョン(咸鏡)南道のシンポ(新浦)の沖の日本海に配置した潜水艦から、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)1発を発射した。この発射は米軍や自衛隊、韓国軍などによって検知、追跡され、それによると約480kmの距離を飛翔し、日本海上に落下したという。米軍や専門家らはこのミサイルについて、「KN-11」と呼ばれる、北朝鮮がかねてより開発している新型のSLBMであったとみている。

 翌25日には、朝鮮中央通信が「金正恩元帥の指導の下、戦略潜水艦の弾道ミサイル水中試射を成功裏に行う」と報じ、さらに「成功の中の成功、勝利の中の勝利」という表現を使い、今回の成功をアピールした。また朝鮮中央テレビは発射の様子をさまざまな角度から撮影した映像を公開している。

 北朝鮮は数年前よりKN-11の開発と試験を続けているが、成功らしい成功が確認されたのは今回が初めてである。本稿では、KN-11の技術や性能、北朝鮮がSLBMを開発する意味、そして懸念される今後の動向について解説したい。

◆潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)とは

 北朝鮮が開発している潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)は、北朝鮮自身は「北極星」という名前で、米国は「KN-11」という独自のコードネームで呼んでいる。発射時の母艦となったのは「新浦」(シンポ)級潜水艦とみられている。新浦級はロシア(旧ソ連)のゴルフ型(629型)潜水艦を輸入して開発されたと考えられており、ゴルフ型もまたSLBMの運用が可能だった。

 北朝鮮がKN-11の発射に成功したのは今回が初めてで、これまで何度も失敗を繰り返していることが確認されている。今回も、飛翔距離は500kmと弾道ミサイルとしては短いものの、韓国軍などは今年6月のムスダン発射と同じように、日本の本土に着弾しないよう、わざと高い角度を付けて打ち上げることで、高度と引き換えに飛行距離を短く抑える「ロフテッド・トラジェクトリー」で発射したのではと分析している。このため、理想的な角度で発射した場合、射程は1000kmを超えるものと推測されている。

 SLBMは、陸地から発射する弾道ミサイルと比べ、難しい技術を必要とする。これまでにSLBMの開発に成功したのが、米国、ソ連、英国、フランス、中国、インドのみであることからも、その難しさがわかる。

 それでも北朝鮮が開発の手を緩めていないのには、SLBMにはその苦労に見合うだけの利点があるためである。

◆SLBMに注力する理由

 一つは発射準備を相手に知られにくいという点である。陸地から発射する際には、上空の偵察衛星によってその動向がわかってしまうため、先制攻撃を受けたり、迎撃の準備を整えられたりといった可能性がある。しかし海中から発射する場合は、ミサイルが海中から飛び出して飛行を始める、まさにその瞬間まで隠し続けることができるため、相手の対応の時間を遅らせることができる。

 また、ミサイルの射程が短くても、潜水艦で目標地まで接近してから発射することで攻撃が可能になる。たとえば射程500kmのミサイルの場合、北朝鮮の本土から撃っても日本には届かないが、潜水艦で日本近海まで進出して発射すればどこでも射程内となるし、理屈の上では米国の海岸沿いの都市でさえも狙うことができる。

 しかし、SLBMの開発や運用は非常に難しい。まずSLBMは潜水艦に積むため、ミサイル機体の全長や直径に制約があり、その中に収まるように造らなくてはならない。また、ミサイルの射程を伸ばそうと機体を大型化することも難しい。

 何より、潜水艦の中から水中へ射出し、水の中を進んで海上へ飛び出し、さらにロケットに点火して飛んでいかねばならない。海中と空中ではミサイルをとりまく環境がまったく異なり、その中できちんと動くミサイルを開発するのは至難の業である。かといって頑丈に造ろうとすれば、機体が大きく、また重くなり、ミサイルとして役立たない上に、前述のように潜水艦に積めなくなってしまう。

 こうした技術的な困難がありながら、そして実際に難航しながらも、北朝鮮がKN-11の開発に躍起になっているのには、彼の国がSLBMのもつ利点を重視し、この技術を何としてでも手に入れたいという思惑があるのだろう。

◆KN-11は、R-27やムスダンとは別の技術を使うミサイル

 KN-11と、北朝鮮がすでに開発、製造に成功している「スカッド」や「ノドン」、「ムスダン」といったミサイルと比べた際に、潜水艦から発射するか、それとも陸からか、という違い以外に、ミサイルそのものの技術にも大きな違いがある。

 KN-11はこれまで、かつてソ連で開発された液体燃料のSLBM「R-27」を基に開発されたミサイルだと考えられていた。R-27は1960年代、当時のソ連がもつロケット技術の粋を集めて開発されたミサイルで、高度な技術と、それによる高性能さが特長だった。すでにソ連(ロシア)からは退役しているが、北朝鮮は1990年代に、ソ連崩壊の混乱に乗じてR-27の技術を手に入れたといわれている。ムスダンはまさにこのR-27を基に開発されてミサイルで、今年6月に発射に成功したことから、北朝鮮は一応はR-27の技術を習得したものと考えられる。

 原型であるR-27がSLBMだったことから、KN-11もまたR-27が基になっているのでは、言葉を変えるとムスダンのSLBM版なのでは、という見方をされるのは至極当然のことだった。ところが、今回の発射試験をはじめとして、これまでに北朝鮮が公開したKN-11の写真や映像を見る限り、外見こそR-27やムスダンに似ているものの、使っている推進剤が異なることがわかっている。

 ミサイル(ロケット)の推進剤(燃料と酸化剤)には、液体推進剤と固体推進剤の大きく2種類がある。液体推進剤は、たとえば液体水素と液体酸素、ケロシン(ジェット燃料)と液体酸素といったように、推進剤が文字どおり液体の状態のものを指す。固体推進剤もまた文字どおり、推進剤が固体の状態のものを指す。液体推進剤を使うロケットを「液体ロケット」、固体推進剤を使うロケットを「固体ロケット」とも呼ぶ。

◆なぜムスダンなどと異なる「固体ロケット」なのか?

 固体推進剤の中で一番身近なのは火薬だろう。ただ、実際の宇宙ロケットやミサイルでは「コンポジット推進薬」と呼ばれる、ポリブタジエンなどのゴムの一種を燃料に、酸化剤として過塩素酸アンモニウムと、さらに勢い良く燃えるように粉末のアルミニウムを混ぜて生成したものが使われる。

 液体ロケットと固体ロケットのどちらが優れているかは一概には言えず、目的によって異なる。たとえば液体ロケットは、エンジンを繰り返し点火したり停止したりでき、また推力を調節することもできる。一方の固体ロケットは、推力の調節などはできないものの、液体よりも比較的大きな推力を出すことができ、長期保存ができるなど取り扱いもしやすいという特長がある。

 また、よく固体ロケットの特長として「造るのは簡単」と言われることもある。たしかに液体ロケットは、エンジンの中を配管などが這い回っているため構造が複雑で、誰の目から見ても製造は難しいと感じる一方、固体ロケットは巨大なマカロニ、あるいは竹輪のような形状をしているため、一見すると簡単に造れるようにも感じられる。しかし、実際には固体ロケットはノウハウの塊であり、決して簡単というわけではない。したがって、液体も固体もそれぞれ違った難しさがあると言うほうが正しい。

 弾道ミサイルとして使う場合には、圧倒的に固体のほうが好まれる。基本的に火を点ければすぐに飛ばせるため、発射前に推進剤を充填する必要がなく、敵から準備の動向を知られにくい。長期保存ができる点もミサイル向きである。すでにスカッドやノドン、そしてムスダンといった液体推進剤のミサイルをもつ北朝鮮が、技術的にまったく別系統の固体ロケットの開発にわざわざ手を出したのは、まさにこの利点を重視してのことだろう。

 なお、外見がR-27やムスダンに似ている理由は定かではないが、おそらくR-27は実際にソ連でSLBMとして使われていたため、その姿形を流用することで、開発のリスクを少しでも減らしたかったのだろう。

◆まだ未熟な北朝鮮のSLBM技術

 もっとも、KN-11の発射成功が確認されたのは今回が初めてであり、北朝鮮のSLBM技術はは、まだまだ未熟である。

 さらに今回公開された映像を見る限り、海上へ飛び出してロケットに点火した直後と、しばらく飛翔したところの少なくとも2回、ロケットのノズルから火花のようなものが飛び散っている。これは明らかに異常で、機体の構造や、もしくは固体推進剤の品質などに問題を抱えている可能性が高い。前述したように固体ロケットの開発や製造には難しい技術とノウハウが必要なため、そのあたりの知見がまだ無いのだと考えられる。したがって、一般的に実戦配備と呼ばれる状態に入るにはまだ数年かかるとみられる。

 また、SLBMはたしかに利点は多いものの、しかし北朝鮮の新浦級はディーゼル・エンジンを使う旧式の潜水艦で、原子力潜水艦のような静音性はない。また、その動向もおおよそ把握されているため、たとえば日本に近付いて撃とうとしたり、あるいは米国本土に近付こうとしても、それ以前に日米韓らによって捕捉されることになろう。いずれSLBMを発射できる原子力潜水艦を配備する可能性がないわけではないが、それはまだ先のことだろう。

◆次の脅威は固体推進剤の陸上発射型弾道ミサイル

 目下のところ一番の懸念は、固体ロケットの技術のさらなる進歩と、それによるミサイルの大型化、そして陸から発射される弾道ミサイルへの転用だろう。

 現在、北朝鮮がもつスカッドやノドンといったミサイルは、すでに韓国や日本を射程に収めている。しかしスカッドもノドンも、さらにいえばテポドンも、液体の推進剤を使っているため、発射の前日などにその動向を捉え、迎撃準備などの対応を取ることができる。実際、6月にムスダンが発射されたときも、日米韓は前日にその兆候を掴んでいた。

 しかし固体推進剤を使ったミサイルであれば、発射の直前までトンネルなどに隠しておき、いざ発射する段になってから上空が開けた場所に出し、ミサイルを直立させ、火を点けるだけで発射することができる。日本はもちろん米国の偵察衛星も、北朝鮮を24時間監視できるわけではないし、また衛星の軌道もおおよそ明らかになっているため、その隙を突いて発射することは不可能ではない。そうなれば先制攻撃などの対応を取ることは難しくなるだろう。

 これまでスカッドやノドンが担っていた韓国や日本への攻撃手段が、より弾道ミサイルとして効果的な、即応性に優れた固体推進剤のミサイルへ取って代わることになれば、その脅威度は大きく上がることになる。

 米国まで届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発にもつながる、ムスダンの高性能液体ロケット技術と、即応性に優れた固体ロケット技術。この二つの異なる技術開発を同時に進め、そして曲がりなりにも着実に結果を残しつつある北朝鮮を、決して侮ってはならない。

<文/鳥嶋真也>

とりしま・しんや●宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。

Webサイト:http://kosmograd.info/about/

【参考】

・USSTRATCOM Detects, Tracks North Korean Submarine Missile Launch – U.S. Strategic Command(https://www.stratcom.mil/news/2016/632/USSTRATCOM_Detects_Tracks_North_Korean_Submarine_Missile_Launch/)

・防衛省・自衛隊:北朝鮮による弾道ミサイルの発射について(http://www.mod.go.jp/j/press/news/2016/08/24b.html)

・(2nd LD) N.K. leader calls SLBM launch success, boasts of nuke attack capacity(http://english.yonhapnews.co.kr/national/2016/08/24/35/0301000000AEN20160824009552315F.html)

・North Korea’s SLBM Program Progresses, But Still Long Road Ahead | 38 North: Informed Analysis of North Korea(http://38north.org/2016/08/slbm082616/)

・KCTV (DPRK SLBM Underwater Ballistic Missile Test-Fire) – YouTube(https://www.youtube.com/watch?v=JAUNcCV3hOg)

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:8/31(水) 18:05

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