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甲子園取材後記。テレビには映らない 広島新庄コーチの「神ノック」

webスポルティーバ 9/1(木) 15:10配信

 夏の甲子園の取材をしていると、テレビには映らない貴重な場面に遭遇することがある。今年の大会でいえば、広島新庄の試合前のシートノックがまさにそうだった。

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 思わずうっとりしてしまった。

 甲子園球場の茶色いグラウンドに、きれいな回転をした白球が弾む。選手たちのフィールディングも見事だったのだが、何よりもノッカーのバットさばきが美しかった。ヘッドをしならせ、バットを内側から出して、自分の意図する打球をそのまま打っている。選手の正面を中心に決して難しい打球を打つわけではないのに、見ているだけでなぜか心地よさが感じられた。

 内野ノック、外野ノックを打ち終えると、最後はキャッチャーフライ。1球打ち損じてバックネットに当てたものの、次に打ち直した打球は約6秒間、甲子園の空を漂ったのち、ホームベース付近でキャッチャーが構えたミットに収まった。

 こんなノッカーにノックを打ってもらえたら、選手はうまくなるよなぁ……と思っていたら、そのチーム・広島新庄は初戦から堅守を発揮して勝ち進んだ。3回戦で木更津総合(千葉)に0対2と惜敗したものの、3試合で失策はわずかに1。堅い守りを強く印象づけた。

 遊撃手の田中亮太はこう証言する。

「高校に入ってから、こんなにノックがうまい人がいるんだとビックリしました。試合前は自分たちの捕りやすい打球を打ってくださるんですが、いつもは捕れるかギリギリのところも打っています。普段から守備はよく練習しているので、甲子園ではすごく守りやすかったです」

 ノッカーの名前は宇多村聡(うたむら・そう)という。広島新庄のコーチを務めている29歳だ。

 関東一(東東京)に延長12回の末に粘り勝ちした1回戦の試合後、「素晴らしいノックですね」と声を掛けると、宇多村コーチは控え目に笑ってこう答えた。

「ありがとうございます。ノックを打つことは自分の仕事なので。彼らが思い切って試合に入っていけるように、ノックを打っているだけです」

 宇多村コーチは「広商」こと広島商業出身で、現役時代は捕手としてプレーした。2004年夏には岩本貴裕(現・広島)とのバッテリーで甲子園に出場している。当時の広商の監督が、現在は広島新庄の監督を務める迫田守昭監督だった。大学卒業後、迫田監督に「部員も増えて大変だから手伝ってくれ」と請われる形で広島新庄のコーチに就任し、今に至っている。

「ノックを始めたのは、コーチになってからです。監督からは『見れたもんじゃない』とよく怒られていました(笑)。ノックを打ちながら『こういう打球ならどうかな?』と試行錯誤していきました。だから僕の仕事というのは、彼ら(現役選手)の先輩たちが築き上げてくれたものだと思っています」

 母校の広商は春1回、夏6回の全国制覇を成し遂げた名門である。堅い守備は伝統になっており、宇多村コーチの高校時代には荒谷忠勝コーチ(現・副部長)という名ノッカーがいた。こうして育ってきた環境もまた、宇多村コーチのノック技術を自然と磨いていったに違いない。

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最終更新:9/1(木) 16:04

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