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インターネットの本当の親はグーテンベルクだった

JBpress 9/1(木) 6:00配信

 (文:村上 浩)

 体重わずか数グラムのハチドリは、ほとんどの鳥が真似することも困難なホバリングをすることができる。空中の定位置に留まるためには、羽を打ち上げるときも打ち下げるときも揚力を発生さるような、回転可能な羽を進化させる必要がある。

 ハチドリがこの独特なデザインの羽を持つようになったのは、花蜜を吸うためであると考えられる。ホバリングは、花蜜を取り出すために威力を発揮し、ハチドリの小さな身体に十分な栄養をもたらすのだ。

 ハチドリの羽の進化を促した花蜜は、顕花植物と昆虫の共進化の産物である。花は花粉を昆虫に運んでもらうために色やにおいを進化させ、昆虫は花からより多くの花粉を取り出して他の花に受粉させるような装備を進化させた。この植物と昆虫の共進化の果てに、高密度なエネルギーをもつ花蜜が生まれ、その花蜜を栄養源とするハチドリへと至ったのだ。

 著者は、このようなイノベーションの連鎖を「ハチドリ効果」と呼ぶ。これはカオス理論の「バタフライ効果」とは異なる。バタフライ効果による連鎖の因果関係は説明がつかないが、ハチドリ効果の影響はより明確なのである。花蜜の存在は、明らかにハチドリの姿に影響を与えている。花蜜の誕生はハチドリへの進化を約束するものではないが、その可能性を間違いなく切り開いた。

■ グーテンベルクの発明がガラスを進化させた

 本書『世界をつくった6つの革命の物語 新・人類進化史』では、このように「ある分野のイノベーション、またはイノベーション群が、最終的に、まるでちがうように思われる領域に変化を引き起こ」した6つの物語が紹介され、人類がどのように現代のテクノロジーを手にしたかを明らかにしていく。

 グーテンベルクによる印刷機の発明はインターネットへ繋がり、冷房の発明がアメリカ大統領選挙の結果を変え、衛生観念の発達が高性能マイクロプロセッサをもたらしたと著者は言う。なんとも突飛に思えるこれらの因果の鎖を、著者は巧みなストーリーテリング能力で繋げていく。6つのテーマ(「ガラス」「冷たさ」「音」「清潔」「時間」「光」)のどれから読み始めても、好奇心をくすぐってやまないエピソードが満載で、テクノロジー進化の歴史を楽しみながら知ることができる。

 グーテンベルクの印刷機が世の中を大きく変えたことは誰もが認めるところだが、この発明が人類のある弱点を浮き彫りにしたことはあまり知られていない。その弱点とは遠視である。

 文字がびっしりつまった印刷物を手にするまで、多くの人々は自身が遠視であることを知らなかった。文字を読みたいという新たな欲求は、眼鏡の需要を急増させ、それまでは珍しかったレンズが大量に製造された。この一連の流れはレンズ製造技術を格段に向上させ、顕微鏡や望遠鏡の発明へと繋がっていく。

 ハチドリ効果は、ある分野のイノベーションが他分野の技術の欠陥(この場合は人間の遠視)を顕在化させ、また別の分野でのイノベーションを誘発することでもたらされる場合がある。

 ハチドリ効果はまた、「何かを測定する能力の劇的な向上と、測定のためにつくられた道具の改善」によって発生することが多い。

 19世紀の物理学者チャールズ・ヴァーノン・ボーイズは、繊細な物理効果の測定方法を追い求めてガラスに目をつけた。ボーイズは熱して軟らかくなったガラスを矢にくっつけて、その矢を的に向けて放つことで、極細のガラスを手に入れる。こうして得られたガラスの繊維は想定外なことに、同じ太さの鋼鉄線と同等以上の強度を示し、それまで注目されることのなかったガラスの強さという特性が利用されるきっかけとなった。これは今ではガラスファイバーと呼ばれ、断熱材、ヘルメットや回路基板などに利用され、現代社会に欠かせない存在となっている。

 ガラスの進化はここでは終らない。1970年代にそれまでの常識を超えるほどに透明なガラスが発明され、レーザー光線と掛けあわせることによって、地球規模のインターネットを支える光ファイバーが現実のものとなったのだ。

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最終更新:9/1(木) 6:00

JBpress

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