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バーチャル・リアリティで途上国の現実を「実体験」するプロジェクト

HARBOR BUSINESS Online 9/1(木) 9:10配信

 2016年は最新技術の「VR(バーチャル・リアリティ)元年」と言われている。これまではデバイスが高価なこともあってなかなか手を出しにくかったが、最近では安価な追加部品をスマホに装着することで利用できたり、新型のプレイステーションVRも発売が噂されたりするなど、どんどん身近なものになってきている。

 ゲームなどエンターテイメント性が強いイメージのVRだが、その技術を使って戦争や開発途上国の現実を伝えようとチャレンジしている女性がいる。報道番組などでおなじみのフォト・ジャーナリスト、安田菜津紀さんだ。

 安田さんはこれまで自分の見た世界を、写真や文章で多くの人々に伝えてきた。それが、VRという手法をとろうとしているのはなぜなのか。

◆風景の中のどこを見つめるのかを、自分で選んでいける

「例えば写真は、撮影者が立っている空間から、カメラのファインダーの枠の中だけを切り取ったもの。撮影者の視点を通して、現地で起きていることを追体験するのが写真です。テレビで放送される映像などもそうです。もちろん、それは悪いことではありません。優れた撮影者を通せば、そこで何が起こっているのかを理解できます。加えてVRを使えば、その風景のどこを見つめるのかを自分で選んでいけます」(安田さん)

 具体的にはどんなことができるのだろうか?

「例えば、あなたがVRでイラクの市場の映像を見ているとします。痩せた男の子が露天で物を売っている。その後ろでは誰かが目を光らせている。右を見ればどのような人が道路を歩いていて、どんな顔をしているのかを見ることができる。

 昨年、シリアからイラクに逃れてきた難民家族が身を寄せるアパートに、一晩泊めてもらったんです。そこには日本と変わらない生活の厳しさがあり、そして幸せがありました。日本のニュースではISの残虐な行為だけがクローズアップされますが、それはとても一面的な見方です。自分で選択しながら、その現場にあるさまざまな面を見てもらいたいんです」(同)

◆これまで実体験を持って語れなかった、海外の「現場」を体験できる

 安田さんが「VRが必要だ」と感じたのは、教育現場の先生たちの声を聞いたことがきっかけだったという。

「生徒たちに、ニュースで伝え聞くISのことや紛争のことを聞かれることがあるとのことです。ただ先生自身も報道を通して情報を受け取っているため、実体験を持って語れるわけではないという葛藤があります。子どもたちもいわゆる『イスラム国』という言葉は知っていても、それが人々の暮らしをどれほど脅かし、影を落とし続けるのかを知る機会はそう多くはないのではないかと思います。

 ですが、VRを通せば『自分が経験を積む』という形で現場を知ることができます。子どもの頃に訪れた場所や出会った人々のことは、原体験として長く記憶に残ります。映像ができたら、私や実際にNGOで活動するスタッフが教育現場をまわり、VRで現場を体験してもらいながら現地のことを話して伝えていこうと思っています」(同)

◆クラウドファンディングで製作費を募集

 ネックなのは資金的な部分だ。VRの撮影には多額の資金が必要となる。

「VRの撮影には通常360度カメラ(googleストリートビューなどで使われているもの)を使用しますが、まだまだ小型のものは画質が低くて実用的ではありません。きちんとした映像を撮ろうとすると、カメラを複数台円形に並べて撮影して、その後合成していくという編集作業が必要になります」(同)

 安田さんは、このプロジェクトのためにノンフィクション作家の石井光太さんたちと「セカイ・メディアラボ」という団体を結成した。イラクで活動を続けるNGO「JIM-NET」の協力も得て、現在はその製作費を集めているところだ。

 この途上国VR計画はReady For(https://readyfor.jp/projects/sekaimedialabo)というクラウドファンディングのウェブサイトで寄付を募っている。VRの最新技術は、ゲーム以外にも可能性が広がっていきそうだ。

<取材・文/白川徹 写真/安田菜津紀>

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:9/1(木) 9:10

HARBOR BUSINESS Online

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