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それで、スコットランドは独立するの? - コリン・ジョイス Edge of Europe

ニューズウィーク日本版 9/1(木) 17:30配信

<イギリスのEU離脱が決まった今、スコットランドの独立は必然という見方がある。しかし原油価格の低迷で経済の先行きは不透明となり、ブレグジットによってユーロ導入が前提条件となった現在、スコットランド独立をめぐる環境は一変した>

 多くの人が今やスコットランドの独立は時間の問題だと考えているようだ。その理屈は単純。スコットランドはイギリスのEU残留に票を投じたが、イングランドの有権者はEU離脱(ブレクジット)を選んだ。だからスコットランドは今、EUに残るために独立を求めている、というわけだ。

 だが実際はもっとずっと複雑だ。

 第1に、独立を掲げるスコットランド国民党が、イギリスからのスコットランド独立の是非を問う住民投票を推し進めるとは限らない。そうした話は出るだろうし、選択肢の一つにしようとはするだろうが、彼らが投票を実現させるかどうかはわからない。

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 独立はスコットランド国民党の「存在理由」そのものなので、彼らはもちろん住民投票実現を望んでいるし、支持層を満足させるためにも住民投票に向かって進んでいるように見せなくてはならない。

 だが彼らは勝利を確信したうえで動きたいはずだ。昨年行われた住民投票の時とは状況が一変したことを根拠に、2度目の住民投票を実現させることはできるかもしれない。でももし今度も負けたら、この問題は葬り去られることになる。

 数カ月にわたり、明らかに一貫して独立派が優勢になっている――そんな状況をしっかりと確認してから、彼らは住民投票を要求したいと考えていることだろう。

 そうしたとしても、投票の実施にはリスクが伴う。

 独立支持の議論に、前回と同じくらいの説得力があるかどうかもわからない。前回の時点では、1バレル=100ドルだった原油価格を基にして、独立に伴う損得勘定をしていた。当時の懸念は、「はたしてスコットランドの原油生産はいつまでもつのか? 独立の移行期を切り抜けられるだけの埋蔵量があるか?」というものだった。

 ところが現在、原油価格は1バレル=50ドルを下回っている。これでは独立後のスコットランドの財政は大変な赤字になる。たとえ原油が今後50年にわたって生産できるとしても。



 住民投票疲れも考慮にいれるべき要素だろう。スコットランド人は昨年にはスコットランド独立をめぐって住民投票をし、今年はEU離脱をめぐって国民投票をした。どちらの場合も、「完全に最終決着をつける」ための投票だと位置づけられていた。それからたいした時間もたっていないのに、3度目の大規模キャンペーンと投票を呼び掛けるような政党には、逆風が吹くかもしれない。
 
マイナス要素も少なくない

 たしかに昨年の住民投票では、多くのスコットランド人がEU残留を望み、そのためにイギリスからの独立に反対票を投じた(スコットランドが独立していたらEUへの再加盟申請が必要になっていただろう)。ブレグジットによって、前回の住民投票の時とは状況が一変した理由の1つはここにある。

 だが昨年、多くのスコットランド人がイギリス残留に投票したのは、ポンドを使い続けるためでもあった。もしも今、スコットランドがイギリスから独立し、EUに加盟を申請したら、当然ながらスコットランドは(EUのルールのもと)単一通貨ユーロへの参加を求められるだろう。

 だからブレクジットで、問題は複雑になった。スコットランド人は自国通貨を失ってもEUに留まりたいだろうか? それとも、惨憺たる通貨ユーロとは距離を置き、ブレグジットのイギリスに留まることを耐えるのか。

 独立スコットランドがEUに加盟すれば、比較的豊かなこの国は、EUの財政に大きく貢献する立場になるという点も重要だ。EUには東欧の貧しい国々が加盟していることから、スコットランドはEUから支払われる分よりEUに支払う分のほうが多くなるだろう。スコットランドがこれまで誇りにし、スコットランドに住む魅力でもあった数々のこと(たとえば無料の大学教育など)を犠牲にせずに、どうやって切り抜けていくつもりなのかも定かでない。

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 もう1つの複雑な要素は、ブレクジット後のイギリスの先行きがまだ見えないことだ。新たにテリーザ・メイ首相を迎え、イギリスの未来は白紙状態。新政権は、スコットランド人がついていってもいいと思うような新たな政治制度の青写真を作る可能性もある。確実な話ではない。あくまでも可能性だ。だがメイ政権は、スコットランド人が耐えてきたような「これまでと何ら変わらない」英政府にはなりそうもない。

 ブレクジットは確かに、スコットランドとイギリスとの微妙な関係を変えた。だからといって、スコットランド独立が決定的になったというわけでもない。

 僕は、スコットランド独立があり得ないと言っているわけではない。結局のところ、ブレグジットの国民投票で分かったことが1つあるとすれば、こういうことだろう――「自分の権利が奪われている」と感じる人々は、たとえ危険が待ち受ける可能性があっても、とても大胆な選択をするものだ。

コリン・ジョイス

最終更新:9/1(木) 17:30

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