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法のもとで、法にとらわれず――慈愛に満ちた小説世界 『テミスの休息』 (藤岡陽子 著)

本の話WEB 9/2(金) 12:00配信

忙しくても1分で名著に出会える『1分書評』をお届けします。
今日は門脇舞以さん。

 弁護士の芳川有仁が雑居ビルの2階に芳川法律事務所を立ち上げた当時、沢井涼子は夫と別れ一人息子と共に家を出たところだった。ハローワークで見つけた事務所の求人募集に応募し、事務員として採用されてから8年。弁護士1人事務員1人の小さな事務所には、労災認定、婚約破棄、殺人事件、遺産相続、交通事故など、個人の案件を中心に様々な依頼が舞い込んでくる。

 本書では、芳川弁護士の担当する6件の依頼が短編として描かれているが、芳川の視点ばかりでなく、涼子や彼女の息子、時には依頼人自身であったりと、様々な視点からそれらの顛末を見届けることとなる。芳川と涼子の依頼人に対して向き合う姿勢は常に誠実そのもので慈愛に満ちている。法を用いて争うのではなく、法にとらわれず、彼らの帰路に心安の種火を灯してゆく。かといって、都合のよい夢物語に仕立てられているわけではない。しかし、夢のように理想的な小説であったことは間違いない。

 芳川のデスクにはギリシア神話における正義の女神・テミスの像が置かれている。その像を見て涼子は思う。片手に天秤、もう一方に剣を持ち、法律が公正で厳格なものであることを示すこのテミス像までもが、この事務所においてはひと時の休息を得られているのだと。

門脇 舞以(かどわき・まい)

2001年、声優デビュー。主なアニメの出演作に『Fate/stay night』『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ』(イリヤスフィール・フォン・アインツベルン役)、『ストライクウィッチーズ』(サーニャ・V・リトヴャク役)などがある。読書好きとして知られ、また日々の子育てに奮闘する“ヲタママ”でもある。

文:門脇 舞以

最終更新:9/2(金) 12:00

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