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「先生が知っていてくれたらなあ」 子どもたちが教室の外で向き合っている貧困

GQ JAPAN 2016/9/2(金) 14:50配信

2015年、米コロラド州デンバーのドゥル小学校で3年生を受け持ったカイル・シュワルツ先生が、教室で1枚のプリントを配った。

【子どもたちから集まった「先生が知っていてくれたらなあ」から始まるプリントはこちら】

そこには「先生が知っていてくれたらなあ(I wish my teacher knew)」という一文と、罫線が印刷されていた。自分のことや家族のことを自由に書いてもらい、生徒のことをより深く知ろう、というわけだ。後日、シュワルツ先生は衝撃を受けることになる。

回収したプリントには、「私は家ぞくが大好きなんです」などの天真爛漫な回答に混じって、貧困、親の不在、家族の病気に苦しむ声が数多く見てとれたのだ。

「パパは2つの仕事をしていて、あまり会えません」
「私と家ぞくはシェルターにすんでいます」
「家で宿題をするえんぴつがありません」
「音読カードにサインがないのは、ママが家にあんまりいてくれないからです」
「パパに会いたいです。パパは私が3さいのときにメキシコに強制送かんされて、6年も会っていません」

教師になって5年目の彼女は、教室の外で生徒が向き合っている問題を理解することがいかに重要であるかを学んだ。

また、「弟はとってもこわがりなので、毎晩目がさめないか心配しています」「先生が思っているより、ぼくはかしこいんだよ」といった回答は、子どもたちの性格をより良く理解できる手がかりになり、今後の接し方を考える上での重要な指針にもなった。

シュワルツ先生は、「#IWishMyTeacherKnew」というタグを付けて生徒の回答をTwitterで共有。わずか9歳の子どもたちの心の叫びは、教師や生徒といった立場を問わず大反響を呼んだ。

様々な問題や悩みを抱える子どもたちが「I wish my teacher knew」から始まる文章をシェアし始め、Twitter上の一大ムーブメントにまでなっている。

そして今年、世界中から集まった「I wish my teacher knew」が一冊の本にまとめられた。本を上梓するにあたり、シュワルツ先生がある過ちを告白している。

かつて受け持った生徒の中に、科学が大好きなクリスという子がいた。彼女はクリスのために科学のサマーキャンプの席を確保し、「とても良いことをした」と悦に入っていたという。しかし、クリスの家にサマーキャンプの費用を出せる余裕などなかった。両親も仕事に忙殺されており、送り迎えをすることすら不可能だったのだ。彼女の厚意はクリスを悲しませるだけの結果に終わり、生徒のことをもっと理解しなくては、との思いに至らせた。

口にはできないことも、紙になら素直に表現できる。子どもたちが何を思い、何を抱え込んでいるのか──その内容は実に千差万別だ。それ故に、子ども一人ひとりに寄り添うことの大切さが改めて身にしみる。

岩崎昌子(GQ)

最終更新:2016/9/2(金) 14:50

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