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どのように日本のポップカルチャーは中国に影響を与えたのか? 『ギャグマンガ日和』の「給力」が記憶に新しい「動漫」文化の変遷

おたぽる 9/2(金) 18:01配信

 広島市のJMSアステールプラザにて隔年で開催されている広島国際アニメーションフェスティバルでは毎回、1つの国をフィーチャーしたアニメーション特集が組まれている。第16回の今回は日本特集として27プログラムが組まれ、『火垂るの墓』『AKIRA』などが上映された。

 広島では各賞を競うコンペティションが短編作品のみであることから、特集上映でも歴史的な価値が高い日本の短編や、過去に上映された日本の短編が多く取り上げられた。また通常、広島で上映される作品は日本国内よりも海外の作品が多いことから、いわゆる「アニメ(Anime)」よりも「アニメーション(Animation)」が多くなるのも特徴だ。

 そうした状況もあり、最終日22日に実施された「日本のポップカルチャーと中国」は、講演で取り扱われる題材としては非常に珍しい講演となった。なお本稿における「アニメ」と「アニメーション」の使い分けは、講演者の発言に準拠している。

 登壇したのは北京大学外国語学院准教授・古市雅子。「日本のアニメーションや世界のアニメーションの積み重ねがあった上で、現在また別のところで日本の消費文化としてのアニメーションが影響を与えていること、日本の商業アニメが中国でどのようにして受け入れられていったかをテーマに、視点を変えてお話させていただききたく思います」といったところから講演はスタート。

 古市は「中国のマンガやアニメがどういう状況であったのか、というところからご紹介したいと思います」と、戦前の上海でアニメーション・マンガが活況を呈していたことを説明。「マンガは戦前の上海のものが有名で、輝かしい作品群が残っています。戦前の上海というと“東洋の真珠”と呼ばれ、日本よりも都市文化が発達していた場所ですので、マンガの専門雑誌が出版されてまして、風刺マンガが発展してたんですね」「これはアジア初の長編アニメーションです」と、1941年に制作されたアニメ『鉄扇公主』を紹介した。

「(戦前に、画期的な)こういった作品が育てられた国なんですけども、中国語に動画と漫画を合わせた『動漫』って言葉があります。ただこれは色んな定義がありまして、もともとは『ACG(アニメ・コミック・ゲーム)』と、ゲームも含めたサブカルチャー的なものの総称として使われています。逆に日本ではそういった言葉がないのでオタク文化と言うか、マンガ・アニメ・ゲームって羅列しないといけないですね」(古市)

「動漫」「ACG」といった単語が誕生したのには「文化大革命が終わってから、1980年に外国産アニメーション第1号として、白黒の『鉄腕アトム』が輸入され、中国中央電視台(CCTV)で放送されます。これは高倉健や山口百恵が主演の映画やドラマが輸入されたのとほぼ同時期です。その後『一休さん』『花の子ルンルン』『ジャングル大帝』とかが(中国に)入ってきます」といった経緯があるのだとか。

「ただこの当時は経済がこれから伸びていく時期だったので、テレビがまだ普及してなかったんですね。各家庭にテレビがあるわけではなく、職場の食堂だったりとか、持ってる人のところへ行ってみんなで観る時代だったので、こうした面白いアニメーションがあるらしいと聞いた人たちが、どういう風に受容していったかというと、『連環画』というマンガと絵本の間のような、手のひらサイズの本があるんです」(古市)

 古くは宋の時代からあったという「連環画」。「もともとは歴史的な物語や故事や教育的な内容を、1枚の絵の下に説明文をつけるというやり方で子供に読ませる媒体でした。80年代に全盛期を迎えるんですが、この『連環画』に日本のアニメが出てくるんですね。子供たちはこういうものを通して、日本のアニメに接していったのです」と古市。

「(体裁としては)なかにはテレビ画面をそのまま撮って説明をつけるものとか、『鉄腕アトム』のマンガを適当に切り取って、縦長のものを横長の小さな紙に切り取っていき、雑につなげているので話がつながらないところは、誰かが勝手に適当に描くという状況で作られていました」といった有様だったそうだが、「さらに手塚治虫本人がそれを見て『こんなんじゃ読者に申し訳ない』と、無償で自分が直した原稿を届けたというエピソードもありますが、本当かどうかは怪しい感じですね」(古市)

「そういう感じなので、表紙も誰が描いたか分からないし、題名を見てかろうじて何とか分かる感じです。こういう風に『連環画』を通して日本のアニメを見て、日本のアニメを自分たちの物語に取り込むようになっていきます。そして出てきたのがアニメを題材とした“創作連環画”とも呼べるもので、中国の作家さんたちが自由に日本のキャラクターを取り入れて、孫悟空と戦ってるものが一番多いんですけども、そういった物語が量産されます」(古市)

 話題は徐々に80年代から90年代に移行。「TVシリーズ黄金期と言える時代がやってきます。現在CCTVは日本に限らず、外国製のアニメーションの放送時間を厳しく制限していますので、簡単に観られないんですが、90年代はまだキチンと輸入されて放送されていた時代でした」。その当時の若者は正規で『ドラゴンボール』『セーラームーン』『聖闘士星矢』などを見ていて、有名作はみんな知っている、という世代になるそうだ。

 なかでも社会現象となったのは『トランスフォーマー』。「中国には日本版とアメリカ版が輸入されているんですが、一大ブームを巻き起こしました。色んなロボットのおもちゃが『トランスフォーマー』という名前で入ってくるので、2000年以降に情報が入ってくるようになると、『あれは“ガンダム”だったのか!』とか再認識をする事態になるくらい大流行したんですね」。2000年以降となると、もちろんネットの普及による影響も含まれる。

「1989年に『人民日報』で取り沙汰されるくらいになった時には、20名の全人代(全国人民代表大会)の常務委員が放送を中止すべきと申し入れていました。表向きにはどの記事も『思想的には荒唐無稽で、好戦的な内容である。若い世代の教育に宜しくない』と書かれているんですが、後半は『あまりに子供が高価なおもちゃを欲しがるもんだから親が大変な目に遭っている。中国のおもちゃ屋さんに全くお金が入ってこない。無料で外国のおもちゃの宣伝をするとは何事か。だから放送すべきでない』という論調になっていたので、資本主義のアニメが入ってきてどうこうというよりも、中国のおもちゃ産業が危ないんじゃないかと思わせるくらいの流行だったと思われます」(古市)

 ちなみに「連環画」も当時の世相が反映されているようで、「アトムと孫悟空は、どっちが勝つ負けるではなく最後に友達になるものが多いんです」「『トランスフォーマー』も孫悟空と戦うんですが、何故か戦って負けて土下座をさせられるものが多かったりします」(古市)

「2000年以降のポップカルチャーの受容の場は、ネット上に移行していきます。それまでファンは『連環画』やおもちゃとか、路上で売ってる海賊版のようなものとか、ミニコミ誌とかを必死で収拾していたんですが、ネットで簡単に情報が入ってくるようになると、文化に大きな影響を与えてきます。『ニコニコ動画』も一時期は見れていたんですが、見れなくなったので、代替するものとして同じような『ビリビリ動画』(中国のBILIBILIチームが制作した動画サイト)ができて、(ファンは)弾幕を作りつつ見ています。『百度(バイドゥ)』の掲示板を利用して情報収集をしたり、日本語の分かる人が情報提供をしたりして、すぐに手に取れるようになっていったんですね」(古市)

 ネットの普及に伴い「動漫」という言葉も次第に変化。「単にアニメ・コミック・ゲームという意味だけでなく、ネットカルチャー全てを含む認識になってきました。今使われている『動漫』という言葉は、ネットカルチャー・ポップカルチャー・サブカルチャー、場合によってはJ-POPやファッションだったりとかを含めた概念へと変化してきました」と、広がりを見せているようだ。

「こうした日本の影響がどういったところに現れているかというと、一番分かりやすいのが言葉なんですね。日本語と中国語で同じ漢字文化圏ではありますが、近代化の過程で中国は政治とか社会といった、(自国にない)西洋の概念を取り入れる際に日本語を輸入してきました。80年代に国交正常化してトウ小平が来日した時に、新幹線とか家電製品とかの消費文化の概念を日本語から輸入して、自分たちのものとしてきたんです」(古市)

 同時にネットスラングを通して、第3次日本語ブームともいうべき現象が起きているという。「例えば『ギャグマンガ日和』のファンが中国語に面白おかしく翻訳し、さらに好きな人たちが自分たちでアテレコしてファンに聞いてもらうという二次創作的な作品ブームが出てきます」。

 古市は彼らが日本語を輸入するだけでなく、新しい言葉を作り出す動きにも注視している「(『ギャグ日』の)ファンが翻訳した言葉の中で、西遊記の回のアテレコは特に完成度が高く、たまたま使われた『給力(ゲイリー)』という言葉が(中国のネット上)一世を風靡してしまいました。『給力』は地方で使われている言葉で、全国的には全く有名では単語ではなく、日本語の意味としては『地味だなぁ』といった単語だったんですが、今では『給力』は良い意味で『ヤバイ』とかのニュアンスで、テレビの司会者とかも使いますし、『人民日報』の一面でも使われるくらいの力を持った単語になってしまいました。ネットスラングの6割ぐらいが日本のアニメ由来なんじゃないかなといった勢いがあります」(古市)

 このほか古市は、中国で行われている同人誌即売会やコスプレイベントのほとんどが企業によって有料で企画されていることや、自身が籍をおく北京大学のファンサークルに1000人弱の会員数がいること、明治大学から2万冊ものマンガが寄贈され、マンガ図書館が学内にオープンしたことなどに触れて講演を終えた。

「ただこうした学生たちが日本のポップカルチャーが好きだから日本のことが好きかというと、それはまた別の問題だと思うんですね。それは当然で、日本でもK-POPや韓流ドラマが好きだと言っても、韓国が好きであるかは別の問題です。日本のことを好きになってもらうとかじゃなくても、アニメとか文化を中心に同じ記憶や価値観を持つ人たちがいるのは素晴らしいことだと思うんです」(古市)
(取材・文/真狩祐志)

■広島国際アニメーションフェスティバル
http://hiroanim.org/

最終更新:9/2(金) 18:01

おたぽる

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