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RADWIMPSが『君の名は。』で手がけた劇伴の特徴は? 映像音楽の専門家が読み解く

リアルサウンド 9/2(金) 14:00配信

 新海誠監督の最新アニメーション映画『君の名は。』が8月26日に公開され、RADWIMPSが音楽を担当したことでも話題を呼んでいる。同アニメーション映画のサウンドトラック盤『 君の名は。』(以下、「サントラ盤」で統一する)は本編公開の2日前に発売され、その内容の注目度の高さが伺える。今回は『君の名は。』の中でも「劇伴の表現」に焦点を当てて、映像と劇伴がどのように同居しているかを考察したい。また、文中にサントラ盤の該当のトラック名等も併記することで理解が得られやすいように努めた。

■RADWIMPSが手がけた劇伴の特徴

 近年、映像作品の劇伴を、歌モノの音楽シーンを中心に活躍するミュージシャンやクリエーターが手がけるケースが過去にも増して多くみられる。例えば、映画「バクマン。」の劇伴を担当したサカナクションや、映画「海月姫」劇伴を担当した前山田健一氏は記憶に新しく、各メディアでも大きく取り上げられた。

 今回もその例に漏れず、バンドシーンで人気のRADWIMPSが新海誠監督作品の音楽全般を手がけるというニュースは、劇伴関係者の間でも話題になっていた。

 まずは劇中で使用されたRADWIMPSが手がけた劇伴を、そのタイプで大まかに分類すると次のようになる。

1. ストリングスやピアノ等のサウンドが中心の、西洋音楽の要素を多く含んだ劇伴
2. パッドサウンドを使用し明確な旋律を持たないアンビエント系の劇伴
3. ギターを中心にバンドサウンドを前面に出したインストの劇伴
4. 劇伴としても機能させたバンドサウンドのボーカル楽曲

 RADWIMPSは本来ギターロックを中心としたサウンドを奏でるバンドであるが、本編の世界観との兼ね合いもあるからか、劇伴の中では「1」のタイプに分類される楽曲が多く、「3」に分類される楽曲がサントラ盤収録全27曲中たった3曲(サントラ盤 トラック5「憧れカフェ」、トラック7「ふたりの異変」、トラック19「作戦会議」)のみというところが興味深い。しかし、後述するが、本作の劇伴では「4」が聴かせどころの非常に重要な役割を担っている。そのため、バンド系楽器を用いたインストの劇伴が数少ないことで、バンドサウンドのボーカル楽曲がより際立っており、それによって音楽全体のメリハリとバランスの良さが確保できているといえるだろう。

■劇伴としても機能させたボーカル楽曲

 前途のように、本作の音楽には、インストはもちろん、ボーカルが入った楽曲も複数曲挿入されている。(サントラ盤 トラック1「夢灯籠」、トラック8「前前前世 (movie ver.)」、トラック24「スパークル (movie ver.)」、トラック26「なんでもないや (movie edit.)」、トラック27「なんでもないや (movie ver.)」)

 そして、これらの楽曲は作品の主軸となると共に「劇伴としての役割」も持たせており、ここが非常に注目すべき点だ。

「スパークル」においては、ボーカル楽曲ではあるが曲の大部分は歌がない状態で進行することから、初めから劇伴としての役割を意識して制作された楽曲とも想像できる。また、1曲まるまるインストの劇伴では映像の動きに従属するように劇伴が変化するケースも何箇所か確認できたが、ボーカル楽曲として作られている作品の場合はもちろん絵合わせではないので、基本的には映像の動きと関係なく音楽が進行していく。しかし、「音楽の進行は自由に、一方、歌詞でさり気なく世界観を表現している」といった音楽が主張しすぎない演出には、ボーカル楽曲を劇伴として使用する更なる可能性も感じた。

 そして、これらの楽曲を他のインストの劇伴と同居させることに成功したのは、作曲者、作詞者、プレーヤーと幅広い表現手段を持っているRADWIMPSによる音楽だったからではないかとさえ感じる。

■「伏線」を用いた劇伴表現

 本編の中盤以降、劇伴全体のサウンドが一気にメランコリーな雰囲気に包まれる。デートシーンや、秋祭りのシーンなどといった、本来楽しいはずのイベントシーンの際に付加されている劇伴でもこの雰囲気が徹底されている。(サントラ盤 トラック10「デート」、トラック11「秋祭り」他)

 これらのように、メランコリーなトーンの劇伴を多用しているのは、その後に瀧が3年前の出来事に関する真実を知る場面までの長く大きな「伏線」とも解釈できるだろう。

 伏線とは「その後に起こることを予めほのめかしておく手法」であり、例えばこの後に起こる不吉なこと暗示させる定番的な伏線としては次のような例が挙げられる。

・ 真夜中に何度も犬が泣く
・ 風も吹いていないのに自転車が倒れる

 これらはほんの一例だが、映像表現と共に音楽や効果音としてもアクセントを加えるといった数々の例は、従来の映像及び映像音楽表現で度々使用されてきた手法だ。本作の例では、劇伴で長い伏線をはることで、その間に描かれている人物と劇伴との間に距離感を感じさせ、後に衝撃的な事実を知った際のインパクトを強める効果にも一役買っている。

 本作は、新海誠監督による前作『言の葉の庭』に比べて本編の尺が大幅に伸びていることもあり、劇伴の種類も多くまだまだ沢山の手法が使われているが、残念ながら割愛した部分もある。

 この記事を踏まえた上で、本編を再度鑑賞することで、劇伴、そして何よりも映画本編の表現について新たな発見をされることを願いたい。

高野裕也

最終更新:9/2(金) 14:00

リアルサウンド