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「おそ松さん」制作スタジオの設立者が語る、変動するアニメ業界における「勝ち組」のなり方

ダ・ヴィンチニュース 9/2(金) 17:30配信

 街を歩いていると、とあるアニメのキャラクターがプリントしてあるTシャツを着た女の子たちとよくすれ違う。いわゆる「オタク」っぽくはない、普通にオシャレをしているような女の子たちだ。カラフルにデザインされた赤塚不二夫の絵柄、そう、彼女たちが夢中になっているのはテレビアニメ『おそ松さん』。2015年10月から2016年3月まで深夜帯で放映されていた『おそ松さん』は瞬く間に大きな反響を呼び、社会現象と呼ばれるまでの大ヒット作となった。放送終了後もタイアップ企画は数知れず、ついには若手俳優を起用した舞台化の話まで実現するという。

 ただでさえテレビに興味が失われていると囁かれている時代に、よりにもよって半世紀以上前の漫画を原作とした深夜アニメが日本中を席巻してしまったのはどうしてなのか。アニメファンならずとも、ビジネスマンなら誰もが知りたい『おそ松さん』ブームの裏側。『「おそ松さん」の企画術 ヒットの秘密を解き明かす』(布川郁司/集英社)にはそんなヒットの秘訣が書かれている。しかも、第三者による分析ではなく、『おそ松さん』の制作スタジオ、スタジオぴえろの設立者である布川郁司氏自らが筆をとっているのだから、説得力は大きい。布川氏の眩いほどのキャリアと、独自のポリシーがどのように『おそ松さん』に生かされたのかを知ることは、全ての社会人の参考になることだろう。

『おそ松さん』は何から何まで異色づくしのアニメだ。『おそ松くん』の主人公だった6つ子が大人になってからを描くストーリーは、全く定石どおりとはいかない。

「50年前の原作」
「アニメ化は27年ぶり」
「ギャグもの」
「ラブストーリーなし」
「アクションもなし」
「萌えもなし」
「ニート」
「童貞」……

 布川氏が列挙する『おそ松さん』の特徴は、アニメファン向けに流行の要素を詰め込んでいく深夜アニメの鉄則からは外れすぎている。案の定、企画段階から予算集めは難航し、監督でさえも「かなりのチャレンジ」と思っていたという。

 しかし、放送が始まると徐々に口コミで評判が広がっていく。要因としてはまず、ぴえろの過去作『しろくまカフェ』において「人気男性声優が不思議な世界観を演じる」というフォーマットに挑戦してつかんだ手応えを発展させたこと。作品に生じる違和感こそ大切にするという仮説を実証するため、『おそ松さん』は『しろくまカフェ』から多くの要素を受け継いでいる。『しろくまカフェ』に出演していた声優たちがそのまま『おそ松さん』の6つ子を演じたこともその一つ。結果、多くの女性が『おそ松さん』に注目するようになった。

 しかし、それだけでは視聴のきっかけを与えただけに過ぎない。原作や1988年のアニメ化では無個性的な集団だった6つ子に個性を持たせたり、ネットの口コミを意識した話を考えたり、さまざまな創意工夫でクオリティーも維持し、つかんだファンを飽きさせなかったのである。

 そして、アニメ業界の変化を見逃さなかったことも大きい。視聴率20%を超えた『おそ松くん』よりも、視聴率3%程度だった『おそ松さん』のほうが大きな経済効果を生み出した「勝ち組」となったのは、業界の変化を象徴しているといえるだろう。

つまりボーッと見ている2000万人よりも、100万人の熱心なファンをいかに刺激するか。そこを考えなければならないと思うのです。

 熱心なファンとは言い換えれば、「コンテンツにお金を払ってくれる人」である。アニメの主な放送時間が深夜帯になっている現在、『サザエさん』などの一部作品を除けば、アニメが爆発的な視聴率を記録することは不可能に近い。それならば、老若男女を狙った無難な作風にする意味は薄い。『おそ松さん』はターゲットを明確にし、刺激的な作風を貫いたからこそDVDやグッズを爆発的に売り上げることができたのである。

 本書の後半では、プロデューサー育成の重要性や海外との提携についての野望も語られる。半世紀もの業界のキャリアがあるにもかかわらず、布川氏の発想はどこまでも柔軟で挑戦的だ。『おそ松さん』の型破りながらポップな作品世界と布川氏の文章は、読者の中で自然と重なってくることだろう。

文=石塚就一

最終更新:9/2(金) 17:30

ダ・ヴィンチニュース

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