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映画『エミアビのはじまりとはじまり』:生と死と笑いは紙一重

ローリングストーン日本版 9/2(金) 12:30配信

彼らの人生は、まるで一本の上質なコントのようである。

お笑いの世界はとても厳しい世界だと聞く。観客を笑わせられなければ、まるで罪人のように扱われ罵られる一芸の世界。それは生と死の臨界点をさまようような日々なのか、人気絶頂期にあった漫才コンビ・エミアビの実道は、相方を突然亡くしたのに飄々としている。そう、悲しむということをきちんとしている余裕は意外とないもの。だからなのか、その振る舞いにはすごく説得力がある。

【予告編はこちら】映画『エミアビのはじまりとはじまり』:生と死と笑いは紙一重

突然の事故で相方を失った漫才師と、遺された人々の再生を、オフビートな間でユーモラスに描いたヒューマン・ドラマ。邦画好きなら知らない人はいない森岡龍、auのCMで一寸法師役を演じお茶の間でも人気急上昇中の前野朋哉が主演を務め、黒木華と新井浩文が独特な雰囲気を漂わせて脇をずっしり固めている。

親切なことに、冒頭3分の漫才が映画全体のトーンを教えてくれる。ゆるめの笑いだけど誠実で、突拍子もない不器用な間が実は計算し尽くされた絶妙なタイミングで、ひとつひとつの仕草や小道具にもさりげない仕込みがある・・・。それもそのはず、劇中のネタはすべて渡辺謙作監督自身が書いているのだ。これは漫才なのか、物語の本筋なのか。その間をふわふわと浮遊するように映画は進んでいく。

ファンタジックに"跳ぶ"

本作は、渡辺監督が実際に体験した身近な人々の死をきっかけに生まれた物語らしい。この世に死なない人間はいないし、いつかは絶対に別れなければならないのだけど、そんな絶望的な結末に向かってただただ必死に生きていくのなんてあまりにもつらいから、やはり生活に笑いは必要である。と、いつの間にか誰かが背後に立って囁いているような気がしてくる。

冴えない日常に取り残された人々が、再び"跳ぶ"までの物語。普通は現実が妄想を生むけれど、妄想が現実をかたどるようなファンタジックな"跳び"方に、つい笑みがこぼれること間違いなし。彼らの人生そのものが、まるで一本の上質なコントのようなのだ。

『エミアビのはじまりとはじまり』
★★★½

監督・脚本/渡辺謙作
出演/森岡龍、前野朋哉、黒木華、山地まり、新井浩文
9/3(土)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー

Text by Sahoko Yamazaki (RSJ)

RollingStone Japan 編集部

最終更新:9/2(金) 12:40

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