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スペースXの「ファルコン9」ロケット、試験中に爆発、人工衛星・発射台は壊滅。今後の影響は?

HARBOR BUSINESS Online 9/2(金) 16:20配信

 日本時間9月1日の深夜(米東部夏時間同日朝)、米宇宙企業スペースXの「ファルコン9」ロケットが、突如として爆発する事故が発生した。負傷者は出ていないが、ロケットにはすでに人工衛星が搭載されており、この爆発によって喪失。また発射台も被害を受けるなど、深刻な事態となった。

 ロケットは9月3日の打ち上げに向けて、発射台で試験を行っていた。9月2日朝の時点で、事故の原因はわかっていない。調査と対策や、破壊された発射台の修理には数か月かかるとみられ、同社の今後の予定に大きな影響が出ることは間違いない。

◆事故の経緯

 事故が発生したのは日本時間9月1日22時07分ごろ(米東部夏時間9月1日9時07分ごろ)のことで、このときファルコン9ロケットは、9月3日に予定していた打ち上げに向けて、フロリダ州のケイプ・カナヴェラル空軍ステーションにあるロケット発射台の上で試験を行っていた。

 ファルコン9は起業家イーロン・マスク氏が立ち上げた宇宙企業スペースXが開発した大型ロケットで、これまでに28機が打ち上げられている。

 事故発生時に行われていた試験は「スタティック・ファイア・テスト」(Static Fire Test)と呼ばれるもので、打ち上げの数日前に、ロケットに推進剤を入れるなどして実際の打ち上げとほぼ同じ状況をつくりだし、ロケットや発射台の機能や、打ち上げまでの手順の確認を行うもので、同社のロケットでは毎回行われているものである。他のロケットでも同様の試験が行われることがあるが、スペースXのロケットでは試験の最後に、機体を固定した状態でエンジンを数秒間だけ噴射し、第1段機体やエンジンの健全性をより念入りに確認するという、他にはない作業を行う。

 問題が起きたのは、このスタティック・ファイア・テストの一環として、ロケットに推進剤(燃料のケロシンと酸化剤の液体酸素)を充填する作業を行っていた最中のことだった。傍目には何の前触れもなく、突如としてロケットの第2段機体の液体酸素タンク付近から火が上がり、そのままロケット全体を包み込むようにして大きく燃え上がった。やがてロケットが崩壊し、先端に載っていた人工衛星も脱落して炎上、さらにロケットから周囲に撒き散らされた燃料にも引火し、発射台全体が大きな炎に包まれた。

◆爆発の原因はいまだ不明のまま

 9月2日朝までの時点で、事故の原因はわかっていない。公開されている映像を見る限りでは、ロケット側が原因であるとも、あるいは発射台の設備側が原因であったとも考えられる。今後の調査と対策や、破壊された発射台の修理には数か月かかるとみられ、同社の今後の予定に大きな影響が出ることは間違いない。

 スペースXや、同発射台周辺の一帯を管轄する米空軍などによると、この事故によるけが人はなくという。また、事故の起きたケイプ・カナヴェラル空軍ステーションや、隣接する米国航空宇宙局(NASA)のケネディ宇宙センターには、他のロケットの発射台や組み立て施設などがあるが、それらへの影響も今のところは出ていないとしている。

 今回の試験は、ロケットにすでに人工衛星を載せた状態で行われていたためこの事故によって失われることになった。以前は、スタティック・ファイア・テストの際には人工衛星を搭載しないこともあったが、打ち上げにかかる準備期間を短縮するためか、2014年ごろから衛星を載せた状態で行われるようになっていた。

◆搭載していたイスラエルの通信衛星は全損

 今回事故を起こしたファルコン9の先端には、イスラエルの衛星通信企業スペースコムの通信衛星「アモス6」が搭載されていた。アモス6はロケットの炎上後に脱落し、地上で爆発し、全損となった。

 アモス6はスペースコムが欧州や中東、アフリカを対象にした衛星通信サービスに使用するほか、衛星の機能の一部は、フランスの衛星通信会社ユーテルサットとSNS大手のfacebookが借用し、サービス展開をする予定にもなっていた。

 衛星の製造は、イスラエルの大手航空宇宙メーカーであるイスラエル・エアロスペース・インダストリーズ(IAI)が手がけた。設計寿命は16年、質量5500kgほどの大型の衛星で、イスラエルにとって最大の人工衛星でもあった。

 衛星の開発費は約2億ドル(約206億円)とされる。人工衛星には、ロケットの打ち上げ失敗時に備えた保険が用意されており、アモス6も掛けていたはずだが、今回は打ち上げ前の段階での事故のためどの程度適用されるかは、9月2日朝の時点では不明となっている。

 今回の事故を受け、衛星の機能の一部を利用する予定だったfacebookのマーク・ザッカーバーグCEOは、「今回の事故によって私たちの衛星が失われたと聞き、深く失望をしています。幸いにも、私たちには代替手段となる技術をもっています。すべての人々をインターネットでつなぐという目的に向け、そしてこの衛星が提供するはずだった機能を皆さんが享受できるようになるまで、私たちは働き続けます」との声明を発表している。

◆スペースXの今後の計画への影響

 今回の事故原因はまだわかっていないが、その調査と対策には数か月がかかるとみられる。また、破壊された発射台の修理にも数か月がかかるとみられる。

 もし原因が発射台側にあった場合でも、ファルコン9は現時点で、今回被害を受けた発射台か、もしくは西海岸のカリフォルニア州にある発射台からしか打ち上げることができず、またカリフォルニアから打ち上げる場合は飛行方向が限られており、損傷した発射台の代わりにはならないため、いずれにしても打ち上げ計画に大きな影響が出ることは避けられない。

 スペースXでは今年9月から12月にかけて、10機近いファルコン9の打ち上げを予定していたが、軒並み遅れることになろう。この打ち上げの中には、アモス6のような通信衛星から、国際宇宙ステーションへ向けた補給物資まで、さまざまなミッションが含まれており、ファルコン9の打ち上げが滞ることによる影響は大きい。なお国際宇宙ステーションへの影響については、NASAは「現在影響を調査している」とコメントしている。

 また今年10月ごろには、一度打ち上げて回収したファルコン9を再び打ち上げる「再使用打ち上げ」を行うと表明されていたが、こちらも延期することは必至である。さらに今年末ごろには、ファルコン9を3基束ねて打ち上げ能力を増した超大型ロケット「ファルコン・ヘヴィ」の打ち上げも予定されていたが、こちらも延期となるとみられる。

 さらに長期的には、今回の事故でファルコン9への信頼度が下がり、衛星打ち上げの受注が減ったり、またファルコン9で打ち上げる衛星にかかる保険料が値上げされるといった影響が出る可能性もある。また2017年に予定しているスペースXの有人宇宙船「ドラゴン2」の打ち上げや、2018年以降に実施予定の火星探査などにも少なからず影響が出るだろう。

 スペースXにとっては、ファルコン9の失敗は2015年6月以来となる。この事故では打ち上げから約2分後に空中分解を起こし、搭載していた補給船「ドラゴン」を失っている。このときは打ち上げ再開までには約半年を要した。

 今回の事故によって、スペースXは大きな試練を迎えることになった。しかし、ロケットの失敗は、程度の違いはあれど珍しいことではなく、前述のように同社にとっても初めてではない。また、すでに30機近くものロケットを飛ばしている実績もあるため、この困難を乗り越えることは可能だろう。

 NASAは今回の事故を受けて、次のようにコメントし、スペースXを鼓舞している。

「今日のスペースXの事故は、宇宙飛行という事業が極めて大変な挑戦であるということを、改めて思い出させてくれます。しかし、我々のパートナーであるスペースXは、成功と失敗の中で、学び続けていくことでしょう」。

<文/鳥嶋真也>

とりしま・しんや●宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。

Webサイト:http://kosmograd.info/about/

【参考】

・Anomaly Updates | SpaceX

・SpaceX rocket and Israeli satellite destroyed in launch pad explosion – Spaceflight Now

・Falcon 9 Rocket & Israeli Satellite destroyed in On-Pad Explosion – Spaceflight101

・45th Space Wing at Patrick Air Force Base, Fla.

・Mark Zuckerberg – As I’m here in Africa, I’m deeply disappointed…

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:9/2(金) 16:20

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