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集中連載!極私的「シン・ゴジラ」の愉しみ方【Vol.4】

東京ウォーカー 9/4(日) 7:00配信

公開4週で興行収入46億円を突破し、最終興収では60億円を超えるとの声も出ている「シン・ゴジラ」。第4回目の今回は、シリアスな物語を支えた、映像表現としての「巨大不明生物」の存在感とリアリティを源泉から探ってみた。

【写真を見る】映画「シン・ゴジラ」より

■ 劇中の牧悟朗教授に見る脚本家・伊藤和典の影響

「私は好きにした、君らも好きにしろ」

無人で漂流していたプレジャーボートに残されていた謎のメッセージ。ゴジラの力の秘密を一枚の紙にまとめ上げて姿を消した牧悟朗教授の言葉だ。これを見て、否応なく「機動警察パトレイバーthe Movie - 」の帆場暎一を思い出したアニメファンも多いはず。社会の要となっていたレイバー(人型重機)用OSにコンピュータウィルスを仕掛けた後に投身自殺。素顔も動機も明かさないまま、人々の右往左往を神の視点で眺める影がちらつく─そんな立ち位置も、牧教授とそっくりだ。

今回のゴジラは、周囲のあらゆる元素を生命維持の栄養とエネルギーに変える存在だ。その意味で、庵野総監督もクリエイター版のゴジラと言える。そもそも庵野さんにとって実写の原点は自主制作されたDAICONFILM 版「帰ってきたウルトラマン」だし、その「核攻撃のタイムリミットがある中で怪獣を倒す」というプロットも「シン・ゴジラ」に引き継がれている。

また、今作では岡本喜八監督の「日本のいちばん長い日」に対して「会議映画」としてのリスペクトが捧げられているが、過去作の「トップをねらえ!」でも岡本監督の「激動の昭和史 沖縄決戦」へのオマージュ(テロップの出し方やセリフ)がバンバン入れられていた。そのエネルギー源の中に「機動警察パトレイバー~」や帆場暎一があっても不思議ではない。

そんな帆場暎一を生み出したクリエイターの一人が、アニメや特撮のシナリオライター、伊藤和典氏。ゴジラに並ぶ日本の特撮怪獣ガメラ作品のうち、1995年~99年にかけて公開された平成シリーズ三部作すべての脚本を手がけた人物だ。牧教授の遺影として岡本喜八監督の写真が使われていたが、伊藤さんでもよかったんじゃない?(ご健在ですが)というほど影響が伺える。

■ CGゴジラに活かされた樋口真嗣監督の経験値

怪獣をどこかの街のファンタジーな出来事ではなく「実在の災害」として描いた特撮映画の原点は、平成ガメラ第一作の「大怪獣空中決戦 ガメラVSギャオス」だ。海上保安庁が太平洋上で移動する岩礁(ガメラ)を発見し、レーダーには甲羅の形が浮かび上がる。その調査と同時進行で九州の離島で島民が巨大な「鳥」(ギャオス)に食い殺され、鳥類学者の頭上を巨大な影が飛び去っていく…。

同時進行で2つの怪獣の巻き起こす出来事が劇中のニュースで流れ、本物のテレビさながらにテロップが表示される。正体不明の「災害」が日常を壊していくさま、怪獣が実在した場合の社会の反応を生々しく描く。はじめは人類を餌としか見ていないギャオスを「保護」対象とみなして後手後手に回る政府の対応も、「シン・ゴジラ」を見た人なら既視感を覚えるだろう。それに「人々が亀を見たことがない世界」という裏設定も、「怪獣」という概念がなく「巨大不明生物」と呼ぶ世界を彷彿させる。

さらに第二作の「ガメラ2 レギオン襲来」は、怪獣映画を「戦争映画」と再定義したエポックメイキングな作品だ。劇中にスーパー兵器は一つも出ず、自衛隊が実在の武器で怪獣と戦う。はじめは災害出動し、東京壊滅の危機が差し迫って防衛出動に切り替えられ、武器使用の制限が取り払われる…と段階的な対応を、「シン・ゴジラ」の20年前に先取りしていた。

撮影後に金子修介監督は「日本では戦争映画が娯楽映画として育たなかったのは、やはり50年前の戦争体験があるからでしょう。(中略)ガメラの場合、レギオンという侵略者を撃退する話ですから、戦争手法で描いても痛快になるだろう」と明快に答えている。もともと憲法第9条は「国際紛争を解決する手段として」の戦争を禁じる、つまり国でもない巨大不明生物とは関係ない。その点をハッキリさせて、「政府と怪獣が戦う特撮映画」が進化するレールを敷いたのだ。

平成ガメラシリーズを特撮監督として支えたもう一人の男、それは「シン・ゴジラ」の樋口真嗣監督だ。予算がわずか5億円という制約で新時代を切り拓いた才能が、ついに王者ゴジラで邦画としては破格の予算(公式には非公開だが13~15億円と推測)を手にしたのである。

今回のゴジラがフル3DCGとなったのも、平成ガメラ第一作からCGの実用に挑んでいた積み重ねがあるからだ。各カットは隅々まで庵野総監督のコントロールがコマ単位で行き届いているというが、そうしたこだわりと国内きってのCG映像制作会社・白組のやり取りをスムーズにしたのは、樋口監督の「経験値」があるからだろう。それに「アニメ的な必殺技を怪獣に演じさせる」ことも、樋口さんの十八番だ。平成ガメラ2のウルティメイトプラズマ(元気玉)、ガメラ3のバニシング・フィスト(没名は灼熱ゴッドフィンガーという説も)、そしてゴジラの背中から「伝説巨神イデオン」みたいなビームという系譜を辿っているわけだ。

予備知識がなくても超面白い「シン・ゴジラ」。しかし特撮の歴史を踏まえ、「平成ガメラ」や「パトレイバー」の“続編”として観るのもアリのはず!

【文/多根清史(たね きよし)●アニメ、特撮、ゲームなどの解説や批評で活躍。著書に「ガンダムがわかれば世界がわかる」(文藝春秋)、「アニメあるある」(中経出版)、「教養としてのゲーム史」(筑摩書房)などがある】

最終更新:9/4(日) 7:00

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