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時をかける症状(前編)――歴史の舞台にタイムスリップ小説

本の話WEB 9/4(日) 12:00配信

 北海道に旅行した友人から、ラベンダーのアロマオイルをもらった。実にいい香りなんだが、やっぱ、あれだよね、ラベンダーつったらどうしても「これを嗅いで、タイムスリップしちゃったらどうしよう」って思うよね。思いませんかそうですか。

 タイムスリップ小説はもはや一大ジャンルになっているのだけれど、これは歴史・時代小説のコラムなので、今回は〈現代人が過去の歴史的事件の現場にタイムスリップする〉という話をいくつか紹介しよう。

 あ、ガチの歴史小説好きの人には、もしかしたら若干の邪道感があるかな? でもこれがなかなか侮れないのだ。大きなメリットがふたつある。ひとつは、現代人の語りなので言葉がわかりやすく、普段歴史モノに馴染みのない読者でもすんなり入っていけるという点。もうひとつは、歴史上の出来事を現代の知識や技術で再解釈できるという点。

 たとえば柴田よしき『小袖日記』(文春文庫)は、不倫の恋に破れてヤケになっていたOLの頭上で突然何かがスパーク、気がつくと平安時代(のような場所)のある女性の中に、彼女の意識が入り込んでいたという設定。その女性とは、紫式部のおそば付き女官で、「源氏物語」の元ネタを集めていた小袖だ。

 読みどころは何といっても、源氏物語のエピソードを現代視点で絵解きするところ。夕顔変死事件の真相、末摘花の鼻が赤い理由、葵の上の死因などなどを、現代の目で見たらまったく違った真相が浮かび上がる。確かに、それ生霊の呪いじゃないよれっきとした犯罪もしくは病気だよ、と膝を打つ場面多数。その謎解きは本格推理の醍醐味もあって実に面白い。

歴史を現代人の目で見る意味

 同時に、主人公が見た平安時代の様子も興味深いぞ。貴人の女性は人前で立って歩かず膝で這いずるとか、女性はみんなおかめだけど、美人おかめとそうじゃないおかめ(何が違うんだそれ)が見分けられるようになったとか、ポップなOL言葉でどんどんツッコんでいく。はるか遠い平安の暮らしを、現代人が語ることで一気に身近にしてくれるのだ。

 そうして身近に感じさせておいたところで、柴田よしきはシビアな問題を読者にぶつけてくる。「源氏物語」を読んで、光源氏の勝手すぎる振る舞いや、女を譲ったり捨てたりを武勇伝のように語る男たちに腹を立てたことはないだろうか? 不倫の恋で裏切られた主人公は怒り、泣く。「千年経ったって、二千年経ったって、なんにも変わらへん!/男にとって、女は人ではなく、物、なのだ」

 現代と同じ問題を歴史の中に見つけ、それと戦う当時の人々を現代人の目で描写することで、「じゃあ今の自分たちはどうなのか」を考えさせるのがタイムスリップもののひとつの醍醐味と言っていい。

 その一方で、タイムスリップした主人公が歴史の中で自らの役割を見出すケースもある。そのタイプで私が個人的にいちばん好きなのが、浅倉卓弥『君の名残を』(宝島文庫)。これは高校生3人が源平合戦の時代に飛ばされる話なのだが、彼らは過去で実在した人物として生きて行くことになる。それが誰かは内緒。すごく言いたいけど内緒。判明した瞬間すべてがバチバチバチっと繋がって「そういうことかあ!」とのけぞるぞ。

 なお、安澄加奈『はるか遠く、彼方の君へ』(ポプラ社)も源平時代に3人の高校生が飛ぶというまったく同じ設定なのだが、こちらは現代人スタンスをキープしており、アプローチがまったく違う青春小説仕様なので読み比べ推奨。あなたのお好みはどっちかな?

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最終更新:9/4(日) 12:00

本の話WEB

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