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青春時代の大事件、「恋」の極上ミステリ3冊

Book Bang 9/4(日) 8:00配信

 思い出は美化されるもの、などとよく言われるけれど、それでも青春時代の恋を特別な思い出として心に刻む人は多いだろう。それも叶わぬ恋であったり、こっぴどく振られた恋ほど忘れられない。大人になって振り返れば何でもないような事でも、青春時代には大事件に思えたのだから。

 スティーヴン・キング『ジョイランド』は、生涯忘れられない恋と恐怖を青春真っ只中に経験した人物の物語だ。

 一九七三年のアメリカ、海岸沿いの小さな町で大学生として過ごしている“ぼく”ことデヴィンは海辺にある遊園地〈ジョイランド〉でのアルバイトを始める。その園内にはある不吉な噂があった。四年前、殺人鬼に殺された女性の幽霊が幽霊屋敷に現れるというのだ。一方、デヴィンには気がかりなことがあった。交際中の恋人、ウェンディとの仲が終局を迎えそうなのだ。

 年老いた主人公が四十年前の出来事を回想する、という形式で綴られる本書は、切ない恋の思い出がたっぷり。「初めての失恋にまさる痛みはなく、癒えるまでにはやたら時間がかかるし、あとに派手な傷が残る」という一文を筆頭に、特に失恋経験者、恋愛下手を打ちのめす言葉のオンパレードで、読書中とにかく心が痛い。殺人の謎と失恋が主人公にとって等しく重大事として書かれる本書は、恋が世界の全てだと思ったことのある人々にキングが捧げた、極上の青春ミステリなのだ。

 恋の記憶を感傷的に描いた青春ミステリでは、樋口有介『風少女』(創元推理文庫)が傑作。久しぶりに故郷を訪れ、初恋の相手が急死した謎を探る主人公が経験する「全ては変わり果ててしまった」という喪失感が悲しみを誘う。

 恋愛と本格謎解きを合わせてここまで雄大な物語が書けてしまうのか、と驚嘆するのが牧薩次『完全恋愛』(小学館文庫)。ひとつの恋に囚われた画家の生涯を、不可能犯罪を織り交ぜながら描いた恋愛小説にして本格ミステリ小説の名作だ。

 以上三作、夏の終わりに懐かしい誰かの顔を思い出した方は、ぜひ。

[評者]――若林踏(書評家)

※「週刊新潮」2016年9月1日号掲載

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最終更新:9/4(日) 8:00

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