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乳がん治療の果てに離婚をし、東京を捨て地方移住を決めた―。文筆家・内澤旬子の地方移住顛末記【イベントレポート】

ダ・ヴィンチニュース 9/4(日) 15:00配信

 8月17日下北沢の書店「B&B」にて、文筆家でありイラストレーターでもある内澤旬子さんの新刊『漂うままに島に着き』(内澤旬子/朝日新聞出版)の発売イベントが開催された。

 本書は「東京がつまらなくなり」「狭い家に嫌気がさし」、40代独身、都会暮らしだった著者が、香川県の小豆島に独り移住した顛末をまとめたエッセイである。内澤さんの書く文章は読みやすいのに、個性的。歯に衣着せぬ物言いなので「ドライ」に感じることもあるが、ユーモアがあり、さらに一つ一つの出来事に対しての考察が精緻なので、読者は「疑似経験」しているような感覚を持てる。そんな内澤さんの新刊発売イベントには、会場いっぱいにファンの方が集まった。圧倒的に女性の方が多かったが、男性の姿もちらほら。

 今回のイベントの趣旨が、乳癌になったり、離婚をしたりと、様々な経験をしている内澤さんに、結婚、離婚、病気のこと、年をとることなどについて、来場者が「聞きたいこと」を尋ね、その場で内澤さんが答えるというものだったので、当日は様々な質問が寄せられた。

 男性からの質問。「最近離婚をしたので、生きる楽しみを見失っています。様々なことにチャレンジをして楽しみを見つけようとしているが、中々心から楽しめず困っています。内澤さんにとって生きる楽しみってなんですか? その楽しみとの出会いのエピソードを教えてください」。

 内澤さんは「私は自分から離婚したので、すっげぇ楽しかったけど」と前置きし、「私にとって生きる楽しみは色々あるけれど、今はヤギ。愛じゃないですかね。動物飼ったりはできませんか?」と小豆島で飼っているヤギへのふか~い愛情について触れて、会場に笑いが起こった。(内澤さんの生活はヤギの奴隷のようだとか。けど、手を焼くのが楽しいそう)。

「離婚したら、楽しみを見つけるしかない! 恋をするのもいいと思う。がむしゃらに見つけるしかない。がんばってください」と答えた。「がむしゃら」というワード、常人では考えられないくらい行動力のある内澤さんから発せられると、何とも言えない力強さを感じるのは私だけだろうか。

 お次の質問。「ある日突然、仕事ができなくなったら?」こちらは、独身女性にとっては拭えない不安だろう。頼れる人がいない。経済的基盤は自分だけ……。そんな独身女性の質問に、内澤さんはバッサリ。「だから、貯金をしとけ!」間髪入れずの返答に、再び会場内に笑いが起こる。


「もちろん、精神的に『よしよし』してくれる人も必要だとは思うけれど、お金があれば、ある程度精神的な余裕がうまれる。あとは復帰したときに仕事がくるかどうか。それは日頃のおこない次第」「誰かを頼るよりも、お金を頼れ」。これも内澤さんの言葉だと「冷たい」ではなく、「その通り……!」と納得させられてしまうところがすごい。その他、独身女性が抱える様々な不安の質問は多かった。

 何気ない一言だったが、一番ハッとさせられたのは、この質問からの答え。「職場や地域性のため、未婚独身子なし30代から40代というだけで日常的にディスられます。相手にしないようにする心持ちを教えてください」

「忘れる。すぐに忘れる」簡潔な一言に、会場内は「え?」と笑いと共に、一瞬「それだけ……?」という雰囲気が。しかし、「忘れるって技術だと思う」という言葉に、内澤さんの考えの深さを感じた気がした。

「嫌なことは忘れろ」なんて誰でも言える言葉だが、「忘れることは技術」なのだと教えてくれる人は、早々いないのではないだろうか。自分の感情を律して、テクニックを身につけなければ、「忘れる」ことはできない。その大変さを、もちろん分かっていながらも、内澤さんは「技術として身につけろ」とアドバイスしてくれたように思う。

 お悩み以外に、地方移住に関する質問も寄せられた。その中で、注意した方がいい点として「ユートピアではない。日本社会の旧弊な悪いところが残っている部分もある」と、決して都会からの「逃避先」ではないことを示唆。

「(お年寄りが多いので)70年代、80年代で感覚が止まっている人もいる。そういう人にはやっぱり『はあ?』と思うこともある。けど、人間らしいっちゃ人間らしい。人間関係のそういうところも踏まえつつ、どうやって暮らしていくのかを考えたほうがいい。地元の人とどうやって暮らしていくかは、覚悟していかなくちゃいけないと思う」

 最後に、司会の木村さんから「自分ってこういう性格だなって分析するとしたら? 生きる秘訣は?」と問われると、「えーなんにもないですよ。なにも考えてない。感覚の方が大きい」と内澤さんらしいコメントを。「怖がりなので、ダメだった時の最悪の事態は考える。それが大きな決断ができる理由かな」と語った。

 およそ2時間のイベントはあっという間に終了し、来場者たちは会場を後にした。離婚、独身女性の等身大の不安、地方移住、ヤギへの愛情についてなど、多岐にわたる内容が繰り広げられた今回のイベントでは、内澤さんの「思い切った」生き方をしているパワーの源を見たような気がした。



漂うままに島に着き

内澤旬子/朝日新聞出版

乳がん治療の果てに、離婚をし、一人暮らしを始めた著者。しかし、東京のせまいマンション暮らしが我慢できなくなり、地方移住を検討し始める。香川県の小豆島に移住を決め、引っ越しを終えてからの折々の心境の変化をつづった地方移住顛末記。

文=雨野裾

最終更新:9/4(日) 15:00

ダ・ヴィンチニュース

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