ここから本文です

中国EVベンチャー、技術者引き抜きでスパイ疑惑?

Wedge 9/7(水) 11:20配信

 中国LeEco社がバックにつき、カリフォルニア州ガーデナ市に本社を置くEVメーカー、ファラデー・フューチャー社。今年1月にコンセプトカーを発表し、まだ市販モデルも公表されていないが、その動きは迅速で業界はおろか軍や政府関係者からの関心も集めつつある。

次々に引き抜かれるエキスパートたち

 まず、北ラスベガス市での工場建設に続き、シリコンバレー周辺に第二のオフィス開設、これが今年春から3カ月で発表された。そして6月には元ポルシェのF1チームマネージャーだったマルコ・マティアッキ氏を引き抜いて業界をあっと言わせた。7月にはフォーミュラE(EVによるレーシング)のドラゴンレーシングとの技術提携も発表。

 そのファラデーがEVの市販と同時に狙いを定めているのが自動運転への参入だ。すでに今年6月にはカリフォルニア州政府から自動運転を公道でテストする許可を得、グーグルやフォードなどに加わり同州内での自動運転テストを本格的に開始した。

 自動運転参入のためにファラデーが引き抜いたのは元ボッシュ社の技術部長で自動運転開発のエキスパートであるジャン・ベッカー氏。ベッカー氏の元、早くもカリフォルニア州内で自動運転のテスト走行をフォード社のリンカーンMKZを使って行う姿が目撃されている。

 ファラデーの特徴は、最初の設立の段階で多くの技術者をテスラから引き抜く、など独自の技術というよりは他のメーカーのエキスパートを寄せ集めている、という点だ。テスラの他BMW、フォードの技術者が初期段階で参加、8月にはGMからプロパルジョン(推進)・エンジニアであるピーター・サバジアン氏を引き抜いた。同氏は1990年代に人気となったGMのEV、EV1のエンジニアで、ファラデーではパワートレイン技術の担当になる予定だ。

急速な拡大で“スパイ疑惑”まで浮上

 さらにその後、アップルの自動運転プログラムとして知られる「プロジェクト・タイタン」の中心人物、とされていたバート・ナブル氏がファラデーへの移籍を発表した。同氏はコンピューター・ビジョン、ナビゲーション、AIなど自動運転の心臓部とも言える部門の研究者だった。

 このように大企業の技術者が次々と引き抜かれる現状に対し、米国では「中国への技術流出」とともに、スパイ疑惑まで飛び出している。

 ファラデーが北ラスベガス市に工場建設を始めることに対し、空軍司令官が「国家安全の危機ではないか」と語っていたことが明らかになった。北ラスベガスにはネリス空軍基地がある。同司令官は「LeEcoと中国政府の間には密接な関係があるのではないか」「北ラスベガスに工場を建設したのは防衛省の通信などを傍受する目的があるのではないか」などの懸念を表明していた。

 ただしネバダ州政府は「ファラデーの工場建設は防衛省からの許可を得ている」とし、スパイ行為などの問題はない、と強調する。ファラデーの工場建設によりネバダ州には数多くの雇用が生まれる。その経済的側面からネバダ州内にはファラデーへの歓迎ムードがあり、「LeEcoと中国政府は無関係」という声明を発表した。

 北ラスベガスは工場誘致に積極的で、イーロン・マスク氏が提唱した高速の乗り物、ハイパーループ・ワンも同市にテストトラックを建設している。何より空軍基地は全米いたるところにあり、ネリスだけがスパイ行為の対象になる、というのは考えにくい。しかしこうした懸念が浮上するほど、中国企業がバックアップするファラデーの急激な拡大ぶりが注目されている、ということかもしれない。

 自動運転はAIの他GPSシステムによる詳細な地上のマッピングなど、国家安全に関わる技術も多用する。それを自社技術ではなくヘッドハンティングによる寄せ集めで行う企業体質に、米国が警戒心を抱き始めているのは確かなようだ。

土方細秩子 (ジャーナリスト)

最終更新:9/7(水) 11:20

Wedge

記事提供社からのご案内(外部サイト)

月刊Wedge

株式会社ウェッジ

2016年12月号
11月19日発売

定価500円(税込)

■特集 クールジャパンの不都合な真実
・設立から5年経過も成果なし 官製映画会社の〝惨状〟
・チグハグな投資戦略 業界が求める支援の〝最適化〟
・これでいいのかクールジャパン