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星野源はどう音楽を伝えてきたか? 兵庫慎司がライブを素材に考察

リアルサウンド 9/7(水) 20:10配信

 少し前のことだが、星野源の映像作品『Live Tour “YELLOW VOYAGE”』が、6月22日にリリースされた。ニューアルバム『YELLOW DANCER』を携えて行った全国アリーナ・ツアー『星野源 LIVE TOUR 2016 “YELLOW VOYAGE”』の最終日、3月21日大阪城ホールの全21曲・131分を収録した「DISC1」と、ツアー全11ヵ所・13公演に帯同したドキュメンタリー映像で構成された「DISC2」の2枚組。初回限定盤には、本人のインタビューの他に、星野のMVやライブのダンサー振付を担当したMIKIKO(Perfumeの振付・演出などで知られる)との対談などを掲載したブックレットも封入されている。

 武道館→横浜アリーナ→さいたまスーパーアリーナ、と、ツアーのたびにキャパがでかくなっていくのに比例して、ライブ1本にかける手間やアイディアや段取りや労力や関わる人数などがどんどん上がっていく、というのは他のアーティストでも同じだが、にしても星野 源の場合、その上がり方の角度がハンパではない。その現時点での最大数値を記録したのがこの『Live Tour“YELLOW VOYAGE”』だったわけだが、ただ、このツアー、その手間のかけかたに、はっきりとした方向性があった。

 いずれもこの映像作品を観ればあきらかなことだが、たとえばステージセット、しっかり作られているものだったが、この規模のライブとしてはシンプルなものだ。ステージ両側の画面に映るのは、恒例の「一流ミュージシャンの方々よりお祝いコメント」以外は、ステージ上の星野源&メンバーたちの姿だけで、効果映像やVJ的な映像などはなし。大会場ライブにおける最近の流行りである、プロジェクションマッピングもなし。同じく最近広まりつつある……あの、ほら、なんていうんでしたっけ、音に反応して光の色が変わるリストバンドみたいなやつを入場者全員に配るとか、そういうのもなし。

 じゃあ『YELLOW DANCER』以前のツアーと大きく変わったのはどこか。ホーンやストリングス編成は以前も披露していたが、それに数十名の女性ダンサーが加わったり、豪華でめっちゃ気が利いているけどこれプログラミングじゃなくていちいち手動でやってるんじゃないかと思わせる照明であり、センターステージでのギター1本弾き語りであり、アンコールにおけるニセ明が空中を移動する演出であり、スタート時・一部と二部の間・アンコール前に流れる、銀河万丈によるナレーションであり(じゃあ以前までの寺坂直毅はいなくなったのかというとそんなことはなく、途中から登場する)……。

 つまり、そのすべてが「音楽」を中心におくことだったと言える。

 ブラック・ミュージックとJ-POPの両方を高いレベルで融合させることを目指し、それを見事成功させた『YELLOW DANCER』。そのアルバムの音楽を伝えるツアーだから最新のテクノロジーによる演出ではなく、マンパワーによるシンプルなセットにした。ダンサーやストリングス編成もその音楽をより引き立てるエンターテインメントであることを映像から感じることができる。

 ライブ全体の演出を「音楽を伝える」方向に振れば振るほど、そのための準備も、リハも、当日ステージ上でやらなきゃいけないことも増えていくわけだ。大変な思いをすればえらいのかというともちろんそんなことはないけど、これが大変な思いをしないとできないものであったかどうかぐらいは、観ればわかる。

 ギターを弾かず、ハンドマイクで歌う曲をこんなにも多くしたのも、同じ理由だと思う。で、それ、もともとギタリストである彼にとって、我々の想像以上にハードルが高いことだったと思う(いくら役者でもあるとはいえ)。でも絶対にそうすべきだと判断したのだろう。

 そういえば、追加公演の3月14日日本武道館では星野やメンバーを映すビジョンがなかった。この規模ならなしでできる、なしでやりたい、と思ったのだろう。そしてそれは、ステージと客席の距離を縮めるという、あきらかにいい効果を確かに生んでいた。

 2014年6月のシングル『Crazy Crazy/桜の森』以降、2年近くかけて星野源がやってきたことの集大成は、アルバム『YELLOW DANCER』というよりも、この『Live Tour “YELLOW VOYAGE”』映像作品ではないか。そう言っていいと思う。

兵庫慎司

最終更新:9/7(水) 20:10

リアルサウンド

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