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シン・ゴジラが示す日本の防衛体制の絶望と希望

JBpress 9/7(水) 6:15配信

 映画「シン・ゴジラ」が好調である。筆者も公開初日を含めすでに4回見に行ったが、まさしく傑作であると評価している。

 官僚や自衛官の関心も高く、筆者の周囲だけでも、駐屯地が辺境過ぎる人間を除き、こぞって見に行っているようである。

 シン・ゴジラについてはすでに様々な立場の方々が様々な観点から語っているが、以下では日本のあるべき危機管理体制、防衛体制という観点から、シン・ゴジラの読み解き方、シン・ゴジラから得られる教訓などを論じてみたい(ストーリーの紹介、ネタバレを含むので、未見の方はご注意いただきたい)。

■ 風呂に入らず睡眠もとらないチームトップ

 まず指摘したいのは、シン・ゴジラには、危機管理の混乱の中でこそ光る「“絶望的”な日本人の美学」が描かれていたという点だ。

 本作はその美学を描くために余計なものを一切はぎ取り、徹底的に国家の意思決定の過程の忠実な再現を試みた。まさにミニマリズムとリアリズムの極致のような作品であり、その意味で、既に言われているように、1967年公開の「日本のいちばん長い日」(岡本喜八監督による終戦までの混乱を描いた作品)の後継作と言って差支えないだろう。

 シン・ゴジラが示す日本人の美学とはどのようなものか。それは、一心不乱にろくな食事も睡眠もとらずに働くことこそが美しいという日本人ならではの労働観である。

 ゴジラを化学的に機能停止に追い込むためのプランを練る対策チーム「巨災対」は、全員が不眠不休で働き、食事はお茶とお握りとカップうどんが中心だ。チームトップで主人公の矢口官房副長官(政務)は風呂にも入らず睡眠もとらない。

 矢口官房副長官付の秘書官はこうした光景を見て、「家族もいるだろうから帰ってくださいと言っても帰らない。帰ったかと思えば早朝から手料理持参で、不眠不休で頑張ってくれている。マジ感動ですよ」という趣旨の発言をし、疲れ切った官房副長官は「この国はまだまだやれる。そう感じるよ」と返す。

 これは日本人からすると確かに美しく、感動的な光景である。

■ 寝不足が招く無残な結末

 しかし、文学的な美しさを追い求めた三島由紀夫が政治的には無残な敗者で終わったように、その美しさは絶望的な敗北への道でしかない。

 戦争において睡眠不足と栄養不足と不衛生を極めた集団がどのような結果になるかは、太平洋戦争の中盤以降の悲惨で無残な各戦線における展開を見れば明らかである。

 特に睡眠不足は深刻だ。ブリティッシュコロンビア大学心理学部教授のスタンリー・コーレンによると、チェルノブイリ原発事故、スリーマイル原発事故、チャレンジャー号事故は睡眠不足が引き金となったという。また、1980年代中葉、米巡洋艦「ヴィンセンス」の乗組員は睡眠不足のため民間機を戦闘機と勘違いしてミサイルで撃墜し、200人以上の民間人を殺害してしまった事実もある。

 日露戦争でも興味深いエピソードがある。長南政義氏の大著『新史料による日露戦争陸戦史』(並木書房)によれば、第二軍司令部は「敵の軍旗を鹵獲した」と報告し、明治天皇の耳にまで達したが、これが軍旗ではなかったことが判明。第二軍司令部内の責任問題に発生し、遼陽会戦後に参謀長が更迭された。これは第二軍の参謀が36時間不眠不休のあまり夢と現実が分からなくったことで勘違いしてしまったことが原因だったというのである。

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最終更新:9/7(水) 11:45

JBpress

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