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初恋の人に本を貸す

本の話WEB 9/8(木) 12:00配信

 みなさまの初恋に本のエピソードはあるでしょうか? 犬山は高校2年で初めてできた彼氏とお互い本の貸し借りをしていたのですが、相手が貸してくる本がノーム・チョムスキーとかで。ポチョムキンは知ってるけどチョムスキーって誰よ? くらいの私には難しすぎて意味が分からず、1Pも読まずに返していました。彼もあれ、わざと難しい本を貸してたんじゃないのかな……。私は宮沢賢治を貸していました。我ながらかわいいな。

 で、先日24歳男子N君と話す機会があったので昨今の若者の初恋にも本は一役買っているのだろうか? と聞いてみると「あ、好きな女の子に本をよく貸してましたよ」とのこと。

 中学生の頃ずっと同じクラスで高校から離れてしまった女の子を好きだったN君。彼はサッカー部、彼女は吹奏楽部の朝練で通学電車がよく一緒になったらしく、それが日々の潤いだったようです。付き合ってはいないけど、一緒になると少し話したりするようになり、そのうち彼女のほうから「本を何か貸してほしい」とお願いされたそうなんですね。

 好きな女の子にそんな事言われて俄然張り切ったN君、しかし文学に明るくはない。てなわけで、お父さんの部屋にある中で一番かっこよさげな本を探す。『新選組血風録』……男臭すぎる、『悪童日記』……ちょっとイメージが悪い……、『老人と海』……ヘミングウェイか! 知ってるし、なんかタイトルも渋いしこれがいい。これにしよう!

 てなわけで読んでもない『老人と海』をチョイスして彼女に貸したN君。そして「すっごくよかった!」と感動した様子で返却する彼女。N君は自分が彼女に感動を与えたと喜び(与えたのはヘミングウェイなのだが)その後も読んでいない本を貸すという愚行を決行。『限りなく透明に近いブルー』もタイトルがなんか良いって理由で貸したそうです。「でも、本の感想とかどうやって話すわけ?」と聞いたら「解説の部分とネットであらすじだけ読んでおくから全然大丈夫だった」ということ。

 こんな、ずる甘酸っぱいやり取りを繰り返し、彼女と正式にお付き合いするのが視野に入った頃、N君は学校のセックスシンボル的な鬼ギャルに誘惑され、陥落。鬼ギャルの肉体に溺れている間に彼女と本の貸し借りも一緒に登校をすることもなくなったそうで。

「あの時なんであの子と付き合わなかったんだろうってめっちゃ後悔してるんですよ」とN君。きっとあと10年もしたら肉体に溺れたこともキラキラして思い出すんだろうなあ。

文とイラスト:犬山 紙子

最終更新:9/8(木) 12:00

本の話WEB