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実用化実験の裏で、撃墜技術の開発も進むドローン

Wedge 9/8(木) 12:30配信

 欧州ではメディアの空撮や農業に広くドローンが使われ、アルプスではドローンによる無人郵便・宅配事業の試験運転が始まった。現場検証や行方不明者の捜索に役立てたい警察や保線作業の効率化を目指す鉄道事業者もドローン導入を検討。

 アントニ・ガウディの没後100年の2026年に完成を目指す未完の建築物サグラダ・ファミリア(スペイン)の工事にもドローンによる3次元(3D)測量技術が使われる予定だ。利用者の激増で旅客機とのニアミス、原発上空の飛行例も報告される一方で、ドローンを探知して墜落させる最先端テクノロジーにも注目が集まる。

 「世界初の空飛ぶ牧羊犬Shep」が米紙ウォール・ストリート・ジャーナルで紹介されたのは昨年4月。「Shep」とは実際の牧羊犬ではなく、4基のプロペラを持つ中国製ドローン「Yuneec Typhoon Q500」。

 アイルランド南東部カーロウで広さ100エーカーの農園を営むポール・ブレナンさん(40)は兄弟で150頭の羊を飼っている。牧羊犬が年老いたため、14年4月、ドローンを1300ドルで購入。空から羊の群れを追わせたところ、想像していた以上にスムーズに羊を移動させることができた。

 空から眺めるアイルランドの田園地帯は雄大で、夏の日差しを浴びて様々な緑の色に変化していく。風に波打つ黄金色のトウモロコシ畑。写真が嫌いで1枚も撮ったことがなかったブレナンさんはドローンで初めて写真を撮影し、その魅力に取り憑かれた。続いて動画を撮り、編集してソーシャルメディアにアップするようになった。

 昨年3月に、動画投稿サイトのYouTubeにアップした「Shep The Drone 世界初のドローン牧羊犬」は、早送りした羊のコミカルな動きが人気を集め、77万回以上も視聴された。米FOXニュース、英BBC放送でも紹介された。「空から見た農業とトラクターなどの農業機械はいつもと違ってハッとするほど美しかった。それで地域の生活を空から撮影して記録しようと思ったのです。私たちの農園では牧羊にしか使っていませんが、農作業におけるドローンの可能性は幅広くあります」とブレナンさんは話す。

 ドローンで撮影した写真や動画をもとに農地や牧草地の3Dマップをつくる。それを活用して農作物の生育を管理し、病害虫を早期発見してピンポイントで農薬散布や害虫駆除、肥料散布を行うと、農作業の効率化とコスト削減を図ることができる。

 アイルランドでは昨年12月から1キログラム以上、25キログラム未満のドローンを所有する者はアイルランド航空局への登録が義務付けられ、16歳以上という年齢制限も設けられた。25キログラム以上のドローンは普通の航空機と同じ扱い。「自分で農作業に使う場合には免許は要りません。政府は未来のテクノロジーが普及するよう促しています」とブレナンさんは声を弾ませた。

 ドイツの国際輸送物流会社DHLは13年にボンでプロペラ4基のドローン「パーセルコプター1・0」を手動運転して川を渡る実験に着手した。翌14年には自動運転ドローン「パーセルコプター2・0」に薬品や緊急物資を積んで北海の島に搬送。そして、プロペラ2基をつけた飛行機型の自動運転ドローン「パーセルコプター3・0」(最大積載量2キログラム、航続距離8・3キロメートル)を開発。オーストリア国境沿いのアルプス山脈にある人口7200人余りの小さな村で今年1月から3月にかけ、試験運用を実施した。

 「スカイポート」と呼ばれる離発着施設で村人がパスワードで窓口を開け、荷物を入れると自動的に積み込まれる。次に屋根が開いてパーセルコプター3・0が離陸し、主翼の傾きを変えながら海抜8000メートルの上空を飛行、1・2キロメートルの距離を8分で移動する。冬に車で運ぶと30分かかる。荷下ろしまで全自動だ。

 ジャーゲン・ガーズ担当役員は「DHLは世界で初めて一般客向けに運送用ドローンを提供します」と胸を張る。広報担当のドゥンニャ・クールマンさんは「雪や氷点下の中でも無事、飛行できました。谷や山など異なる高度や複雑な地形のルートを飛行するというのも挑戦でした。スタッフがモニターで飛行可能な天候かチェックしました」という。現在は、収集したデータを分析中だ。都市部でも試験運用したい考えだが、「当局が民間ドローン利用について権利や規制を判断する必要に迫られている」とクールマンさんは指摘する。

 孤立した村が数多く点在するスイスでも同じような試みが昨年7月から始まっている。スイス国営郵便事業会社スイスポストはプロペラ4基のドローンを使って小荷物配達の試験を開始。広範囲でドローンを活用した小荷物配達が実現するにはまだ4年かかる見通しだ。スイス南部のシオンでは今年6月から来年10月までの予定で、公共の道路で自動運転のシャトルバス「ポストバス」の試験運転も始まった。まだ、安全を確認する運転士が乗務し、集中管理室からも遠隔操作でバスを緊急停止できる。

 アルプスの登山客から年1000件もの救助要請があるため、山岳地帯の捜索・救助活動にドローンを本格活用する研究も進められている。ヘリコプター代わりに使えるドローンは低予算で人手不足を解消できる便利なツールなのだ。

 英イングランド南西部のデボン・コーンウォール警察では昨年12月から6カ月間にわたって中国DJI製ドローン「インスパイア1」4機の試験運用を開始した。アンディー・ハミルトン警部は「低コストで行方不明者の捜索、現場撮影、交通事故の状況把握が行えます。崖や森林、原野での捜索、密猟や銃器を使用した事件でも重要な情報を迅速に、しかも安全に集めることができます」と期待を寄せる。現機種は夜や、強風、雨天では飛ばすことができず、限界もある。ハミルトン警部を含む5人が英民間航空局の資格を持っているが、もっと多くの署員がドローンを運用できるよう計画を練る。

 ロンドンの映画学校「メット・フィルム・スクール」で映像の作り方を学ぶ野崎真志さん(29)もドローンを使った空撮に夢中になっている。日本で購入したDJI製「ファントム3」を英国に持参した。「英国でも飛行禁止区域はありますが、東京23区に比べるとまだ自由にドローンを飛ばせます。中国のドローン技術は驚くべきスピードで進化しています」という。将来、ドローンを使ったプロモーション映像を仕事として手がけたい野崎さんは英国で商用利用免許を取得する計画だ。

 英大手電器チェーン「マップリン」だけでも昨年1万5000機ものドローンが販売された。「商用利用免許取得者は英国で1769人。免許を取得するトレーニング・コースの受講者数は順調に伸びています。農業がいち早くドローンを取り入れ、自動配達の可能性も注目されています。英国も前向きに施策を進めています」とドローン運用会社ConsortiQのジョン・ゴアさんは解説する。

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最終更新:9/8(木) 12:30

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